悪魔になった者の末路
「お、マナじゃねぇか。物体ってあいつか? 殴っても壊れねぇし、しかも取り込もうとしやがるので一旦階段を上ってきた」
「ふざけてんのあんた!?」
「至ってまじめだ。あいつ、俺の雷なんにも喰らわねぇし、殴っても効きやしねぇからな」
この状況で厄介な悪魔が二体目なんて、信じられな……?
ちょっと待って。
アーチャーの魔力を喰らう力はウチにしか通用しない。
ウチはそんなんだから手こずってる。
キリはあのたぷたぷと揺れるお腹を持った悪魔には有効な攻撃手段を持たない。
――という事は?
ウチがあの液体悪魔を攻撃し、キリがアーチャーを攻撃したらどうだろうか。
そうこう考えているうちに、アーチャーが起き上がる。相変わらず目はウチを睨んでいる。
「キリ、提案があるの」
「あぁ? 何だ?」
キリがウチの隣へと立つ。
「あの悪魔。アーチャーなんだけど……キリがやってくれない?」
「あいつが? どう見たって悪魔だぞ?」
「うん。さっきまで人だったんだけど、ウチを殺したいためか、あの姿になっちゃって。見た感じ、理性なんて物はもう何もないと思う」
「…………」
ウチがそう言うと、キリは少し黙る。顎に手をやり、考える。
考えなくても、答えは出ていると思われるが。現実的なやり方はコレしか方法が無いのだ。
だが――
「嫌だね」
「…………は?」
了承の言葉が必ず来ると思っていた。だけど、心のどこかではキリと同じ事を思っていたのかもしれない。
「あいつ、お前のために暴走したんだろ? だったらマナがヤれ。それがせめてもの手向けになるだろ。あいつ、もう人に戻れそうにねぇし。仕方ねぇからあの液体野郎は俺が引き受けっから」
「…………わかったわよ。ちょっと言ってみただけだってば」
そう言うと、キリはニヤッとすると、その手に纏っていた雷が黒ずんできた。
先ほどまで使わずに相手をしていたのだろう。
心の中で覚悟を決め、アーチャーの胸を穿つ弓矢をイメージする。
その手に宿るは太陽の如きすべてを溶解させる必滅の矢。
急激な魔力の吸収、肥大化に危険と察知したのか悪魔達。アイーチャーは幾重もの弓で万を超えるだろう量の矢を放ち、液体の悪魔はその体が分裂して襲いかかってきた。
だが、液体悪魔がこちらにくる事はなかった。それだけじゃない。中に浮いた矢すらもその場にとどまる。
「〈雷磁殿〉」
キリの雷がそれぞれ繋ぎ合わさり、弓矢同士は地に落ちる。
液体悪魔の方は何やら黒い霧が覆われている。って、そんな事気にしてる場合じゃないか。
「アーチャー! 悪いけどあんたの命、貰って行くから!」
矢を構える。ウチの右手には白く輝く熱を持つ白焰の矢が握られていた。
「彼の者を昇天させ、裁判を通し罪を償わせよ! 〈神魔獄陽弓〉!」
放つ直前、視界が真っ白に染められた。
それでも狙いを定めるため、右目を見開き――矢を放つ。
ジュッ! それだけで目の前の光景がどんなふうになったのか容易に想像できるような光景となってしまった。
開いていた目は右目は閃光弾を打ち込まれたかのような感じに暫く使い物にならない事を悟り、左目だけで確認する。
ウチが放った矢の通路がしっかりと開いていた。まるでその場所に何も無かったのだろうかと言われた時に無かったと言えるかのような光景だ。
アーチャーだった悪魔は何が起こったのかわからないような表情で自分の腹があった部分を手探りで確かめてみる。
だが、その場所には何も無い。それを確認したあと、アーチャーはその場に崩れた。
「シノ……ザクラ……マ……ナ…………」
ズゥンっ!
大量の血すらも出す事無くその場に倒れ込んだアーチャー。
本来ならば体すべてを消し飛ばすような魔力だったはずなのだが、アーチャーのウチの魔力を喰らう能力である程度軽減されたのだろう。
「アーチャー。今度あうときはお互い素直に的に向かって放たない? もちろん、殺し合いなんかせずにさ……」
「…………」
返事は無い。いや、求めていない。
初めて人を殺してしまった感覚に実感が湧かず、顔が歪む。
「泣くなマナ。完全に悪魔化した奴をどうやって助けるんだよ」
「でも、もしかしたらあったかも……ッ」
「そんなのがあったらソウナの父親にも使ってるし、何よりお前と一緒に居る悪魔が知ってるはずだろ」
わかっている。悪魔化した人間を元に戻す方法など無い事などわかっている。それはシャドウデビルに聞けばいい話だが、彼女も無いとわかっているからこそ「殺さないと」って言ったのだから。
「さて、それとは別に、なんであいつ近寄ってこねぇんだ?」
「え? あんたの魔法じゃないの?」
そう言えば、液体の悪魔が近寄ってこない。黒い霧が発生されたかと思われたら、それ以降動く事すらしないのだ。
そして、あの黒い霧がキリの魔法ではないかとも予想していたのだが。
「いや、俺の魔法じゃねぇ。俺の雷はくらわねぇっつったろ?」
そうやって見ていると、急に液体悪魔は倒れた。
「「…………は?」」
あっけにとられていると、悪魔が倒れた向こう側に、何とソウナとレナの姿が見て取れた。
「あら。まだこんなところに居たの?」
「仙ちゃん、もう来たんですの?」
あぁ、あの黒い霧。ソウナのメルムの力かぁ。なんか納得した。
多分、病魔の霧っぽい。振れたら大変な事になりそうだ。
「ところでコレ、病気、毒、麻痺、睡魔、石化、魔力枯渇、状態異常促進、全部かけてみたけど、良かったかしら?」
「あぁ、別に問題ねぇぞ?」
ソウナさんが悪魔に見える……。気のせいかな……。
そんな事を思っていると、そう言えばとアーチャーが言っていた事を思い出す。
「下の階、カンマが居たみたいだけど、大丈夫だった?」
「えぇ、彼なら今、男湯のあった場所で寝てるわ。あとから塔に侵入してくるライコウのみんなが回収するでしょ」
「その様子だと、ご心配をおかけしたようですが、わたくしは大丈夫ですわ」
微笑む余裕があるレナに少しほっとしながら、先ほどアーチャーから聞いた情報を他の人たちにも知らせる。
アーチャーがヘレスティア王から悪魔を貰った事。ヘレスティア王が塔を完全掌握しようとしている事。それを聞いたリクを先に行かせた事。
特に、塔を完全掌握しようとしている部分でウチたちは時間がない事を悟り、リクの事は次の階段を上がりながら説明した。
「チッ。どのみちのんびりしてらんねぇか」
「実際には、どのくらいの時間ですの?」
「そこまではわかんない。でも、なるべく早くした方がいいってアーチャーは言ってたから」
「また厄介な事になったわね。とりあえず、リク君に早く追いつきましょう」
「うん」「ええ」「おう」
バラバラに返事をしつつ、ウチ達はその次の階へと進んだ。
その階は、無数の街で見かけた人形液体悪魔が現れた。
「ねぇ。こいつら、もの凄くうざいんだけど……」
「街で見かけた奴らね」
「さっきみたいなインク野郎じゃなくて安心だけどな」
「いくらでも湧いて出てきますの」
一部を除き全員、うんざりとしながら武器を取る。そこから先は、無限とも呼べる量に襲われながら切り裂き、貫き、流しながら階段を上っていった。




