いいから、早くッ!!
矢は無数に降り掛かるのに対し、きわめて冷静に、同じく無数の魔法ですべて防ぐ。
「それが魔法同時詠唱かよ! めんどくせえぜ!」
炎の向こうで叫ぶアーチャーをよそに、シャドウデビルとの会話に意識を向ける。
『そりゃぁ確かに欲しいけど、いいの?』
「別にペナルティがある訳じゃないんでしょ?」
アーチャーを見たところ、自分の意思が消えているような気はしない。
だがウチが思ったのとちょっと違ったようだ。
『いや、あれはどうやら誰かが悪魔の意思を完全に封じ込めてるみたいだ。普通悪魔に体を捧げると、そこの体の主導権は悪魔へと移る。私がマナの左目を貰うと、マナの意思で左目を操る事はできなくなるよ?』
「別に左目くらい良いよ! 目だったら勝手に体が動く訳じゃないし!」
『端から見たらすごく気持ち悪いと思うんだけど……。右目だけ動いて、左目動かないなんて』
それはそうかもしれないが……、それでも、このままではジリ貧になってしまう。急いでいるために余計に焦る。
『マナ様! 防いでください!』
そうこう話しているうちに、アーチャーの矢がウチの炎を貫いてきて襲ってくる。フィエロの声が無ければ完全に刺さるコースだ。
回避ができないので弓で矢を弾くが、その瞬間。
焦っていたのと、弓で矢を弾くのとで意識がそちらへと行ってしまい、一瞬だが魔法が途切れてしまった。
「ふはは! 篠桜マナ、打ち取ったぁぁぁあああああああ!! 〈魔弓旋・悪螺〉!!」
槍を回転させたような鋭い魔法を纏った矢が飛んでくるのに対し、魔法を構築するのが間に合わない。
弾いた瞬間に崩してしまった体勢というのもあって、他に防ぐ手段が無い。
「いいから、早くウチの左目を喰えぇぇええええ!!!!」
ウチはそう叫ぶ。
次のときには、左目が自然とまぶたを閉じた。
『魔眼解放。〈蝕む焔〉』
複雑な魔法陣が目の前に現れる。だが、右目から見ると少し中心が左に見えるところを見ると、今の脳内から聞こえた声は、シャドウデビルの魔法によるものだろうか。
その魔法陣は左目の中に入ってくるような感覚を覚えて、つい閉じてしまいそうになるが、まぶたは動かない。
あぁ……完全にシャドウデビルの物になってしまったという実感が湧いてくる。
それと同時に、左目の前から、先ほどとは大きさが違う、小さな魔法陣が出現し、そこから紫色の焔が襲ってきていた矢を飲み込んだ。
矢は一瞬にして灰に還され、アーチャーの魔法を消滅させた。
「は……はは。篠桜マナ、悪魔に体売ったのかよ」
「あんたが厄介な能力を持ってくるから、ね!」
一斉に魔法を放つ。四方八方から発動されたウチの魔法にアーチャーは戸惑うそぶりを見せるも、黒い衣を纏わせて防ごうとする。
そこに、紫の焔が襲いかかった。
「チッ!」
急いでアーチャーは抜け出すと、ウチは構えていた弓矢を放った。
「射て!」
その矢はまっすぐにアーチャーの胸に吸い込まれた。
「がッ」
「束縛せよ、〈ギアスロック〉!」
アーチャーの体を貫いた魔法矢は形状を変化。
魔法陣が展開されると、それに閉じ込められるように押し込められた。
「ぐ、ぁぁぁああああアアアアアアアア!!!!」
「よし、このまま……」
押さえ込めば。そう言おうとしていたところを止められた。
『! ダメですマナ様、離れてください!!』
フィエロの叫ぶ声の後、アーチャーの口が小さく動いた。
「……ター……除」
アーチャーの体から大量の魔力が放出。
次の瞬間、魔法陣が破損。中から無数の矢が飛んできた。
「なん――ッ!?」
ウチは急いで回避行動を取るが、完全に不意をつかれた攻撃だったため、何本かが腕、足、そして体へと突き刺さる。
そのときから、急激に体が重くなってくる。矢に魔力を奪われていっているのだ。魔力を吸う速度が光が闇を照らすのよりも早い。
「あ、くっ」
矢を無理矢理に抜いてすぐに炎で焼いて止血。肉の一部ごと抜いたので痛みは絶大だ。体のだるさが抜ける事はないが、これ以上、体から魔力を吸われて、重くなるのは回避する事ができた。
だがあの矢をこれ以上受けるとまずい。まるで七千年前の力をそのまま持ってきたかのような感覚だ。並の一般兵や国ではすぐに魔力枯渇してしまうのではないだろうか。それほどまでに貪欲で、暴食な悪魔の弓矢であった。
「フーッ。フーッ」
そんなウチの体の事など知らないかのように、うずくまっていた黒い陰が立ち上がり、こちらを赤い目で睨みつけてきた。
――もう、人の姿などしていなかったが。
「なに……あれ……」
一番始めに目が止まるのは、腕が八本あるという事。そして、肌は黒く染まり、ランプやウチの炎の明かりがなければとても見えづらい。顔の口は横に大きく裂けて、目が額にもう1つ作られた。
もう元の原型は見受けられず、ただこちらを赤い目で睨むと……、
――吠えた。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーッッ!!!!」
その声があまりにも不快で、耳を塞ぐ。
アーチャーはどこに? どうしてあんな化け物がこんな所に? と、まるで現実逃避したかのような疑問を取り出し、既に出ていた回答を、シャドウデビルに答えられた。
『あいつ、シャドウデビルのコントロールを完全に放棄した。シャドウデビルの姿は千差万別。人間が居る数だけ存在している。あいつの悪魔の姿は、あれだったんでしょ』
「…………なんで……? どうして……」
『ああなったら最後。死ぬまで暴れ回る。だから殺さないと』
殺す、という単語に前。ほんの半年ぐらい前だが、ジーダスの時の事を思い出す。ユウが何の遠慮もなく棺を焼き払ったシーンだ。
自分にそこまでできる勇気があるだろうか。いや、無いと言った方が正しい。人の命を奪うだけの覚悟が、ウチにあるのだろうかと自問自答する。
「■■■■■■■■■■ーーッッ!!」
化け物はその手に新たに三本の弓と、無数の矢を作り出すと、構えた。
「!? 〈黒炎〉!」
黒い炎が三本の矢にぶつかる。三本の内、一本が抜けて飛んできたが、炎の翼を動かして回避する。
だが、翼を動かす魔力も惜しいとばかりに思い、翼を消す。
これで暫くは魔法で防ぐ事ができるが、防ぐ事ができても命を奪う意思があるか疑問だ。このままでは先ほどと同じ状況になってしまう。
どうすれば……。
そんな時、この状況を打破するかのごとく飛び込んできた奴の声が聞こえた。奴は、アーチャーに接近、その魔法を纏った拳で殴り飛ばした。
「うっせぇんだよこのデカブツ!!!!」
怒号とともに現れたのは、黒い稲妻を拳に纏った仙道キリ。
――たぷたぷと水の様に揺れるお腹をした、黒い人形の液体を引き連れて現れた。
「って、えぇぇぇぇぇぇえええええええええええええ!? ちょ、あんた、何よその物体!? 何を引き連れてるのよぉぉぉぉおおおおおおおお!?」




