事故転移
「笑湖。黄色い本もらって来たよ。『異世界宝くじが当たったその日から読む本。突然の事に戸惑わないために』だって」
「いや~。この本って都市伝説だと思っていたけど、実在したんだね」
昨日の今日でさっそくパパが異世界宝くじの当選手続きに行って来た。ヘンテコな本をもらって食い入るように見てるよ。
「どんな事が書いてあるの?わたしにも後で見せて」
「うん。とりあえずは、異世界に転移する時のマニュアルなのかな?注意事項が書いてある。後は…」
パパがページをめくる。今どき紙媒体の本って珍しいな。
「持ち物は3つ迄で、生き物は連れて行けない。バナナはおやつに入りません?何だこれ」
「いいよ。わたしも読むから。先にお風呂入るね」
パパが異世界に行っている間はわたしはお留守番だね。まぁ、ハムスターのハム次郎もいるし、寂しくないかな?
アロハ君もきちんと準備してから旅立ったのかな?彼は斜に構えている所があるから、適当かもね。
パパとおんなじ宝くじだから、同じ異世界だったら面白いな。ふたりが仲良しになったら、わたしも嬉しいし。
「パパ。お風呂空いたよ。ご飯の準備してる間に入って」
「パパ~」
返事が無いな。そんなにあの本に夢中なのかな?
「パパ~?」
髪を乾かして、リビングに戻ったらパパがいない…おかしいな。
黄色い本が青白く光ってる。まさか、この本に吸い込まれて転移しちゃったの?嘘でしょ?
それにハム次郎もいない…連れて行っちゃったの?
どうしよう。急過ぎてちょっとまいるな。警察に言ってもどうにもならないよね。
ちょっと怖いけど、この本調べてみるしかないか。
背表紙にお問い合わせ先のQRコードを見つけた。受け付け時間は21時迄だって。お役所なのに意外と親切。
「すみません。わたし、サツキニコと言います。実は、父が宝くじに当選して、頂いた黄色い本を読んでいたら居なくなってしまったんです」
「本はまだありますか?」
「あります。青白く光っています」
「またか…」
電話口の人は口調は丁寧なのに、ちょっと冷たい感じ。やっぱりお役所だね。
「おそらく、準備が整う前に扉のページを開いたと思われます。注意事項に書いてあります」
「本はまだ光っているんですよね?最近多いんですよ。準備不足で転移してしまう人」
「どうにもならないんですか?」
「自力で戻って頂かないと、こちらとしてはどうする事も…」
「娘さん、ニコさんとおっしゃいましたよね?」
「はい」
「共同購入者の方で登録されていますね。それなら、現世から物資を転送する事は可能ですよ」
「本の32ページにその辺の事が詳しく書いてあります。不明な点がございましたら、またご連絡下さい」
「本は読んでも大丈夫ですが、扉のページは開いたらダメですよ。近くにある物が転送されてしまうので」
そう言ってお役所の人は電話を切っちゃった。
うーん、仕方ない。とりあえずこの黄色い本を読むとするか…




