表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/21

13

 全裸になった無数の男が公共の場にいられる時間はそう長くない。一人だって長くはないのに集団では目立ち過ぎる。俺がプールに落ちてから間もなく、フリチン集団はウォーターパークの係員が呼んだ警察たちに取り押さえられた。つまり、ラッキーなことに俺はほとんど海パン以外の制裁を受けずに済んだのである。そして、これまたラッキーなことに、例によって俺に有利な証言ばかりが女たちから集まり、結局警察からもお咎めなしで放免された。このままでは自分が急速に人生を舐め切るようになるのではないかと、心配になるほどのご都合主義である。もしかしたら、これも主人公補正の一部なのかもしれない。うひょひょ、結構、結構。よきにはからえ。

 公共の場で生まれたままの姿になり暴れたためか、俺への制裁も忘れてどこか清々しい顔つきで連行されていた男たちは、俺の無罪放免によって再び怒りに火がついた。だがまあ当然すでに後の祭りであるわけで、うくく、せいぜい後悔に狂っておらびながら取調室で踊るがいいよ。汝らは。

 そんな感じで俺は悠々と警察署を後にしたが、さすがにいつか殺されるかもしれないという考えが頭をかすめた。まままま、でも人間、誰だって、いつだって殺される可能性はあるしね。そういうことにビビっているようではいつまで経っても常識の壁は破壊できない。いや、普通に破壊するなと思うかもしれないが、そうしたら俺は何のために生きているのか分からないということにこれなるわけで、いやあ、やっぱりマイノリティーとして戦う宿命は辛いですわ、そういうディレンマっていうの?抱えているパーソンはね、おほほ。

 奇跡的に騒ぎに気がつかなかった姉貴と優里には凄まじく問い詰められたが、両親共々、俺が完全に被害者であるように説明したら、取りあえず納得してくれた。

 そして今、主人公補正と幸運に感謝しながら俺は部屋のベッドに横たわっているのだが、体を休める間もなく、羽月が姿を現した。予想通り。

「やっほー、八代くん」

ぐぐぅー。

「テーブルの上に今日ウォーターパークで買った食い物の残りがあるから食え」

「え、いいの?」

「腹の音がうるさくて何も聞こえねぇから」

「な…そんなにうるさくないでしょ。まあ、ちょっと鳴る回数が多いのは自覚してるけど」

「食わないのか?」

「た、食べる、食べる。いただきまーす」

 羽月はいつも通りとてつもない勢いでがっつき、あっという間に平らげる。

「ごちそうさまー。あー、おいしかった」

「毎度毎度人の食いものタカりに来やがって」

「そ、それは、その、悪いとは思ってるんだよ」

「どうだか」

「うぅ…じゃあ、パンツくらいなら、み、見せてもいいよ」

 驚いて羽月の方を見ると、真っ赤な顔をしながら俯いた。

「いや、いいや。なんか来るたびにお前のパンツ見てるから、あんま有難味ないし」というか、そんなことしてまた神を刺激するのも嫌だしね。

「な、なな、なによ、それ!」羽月は赤い顔のまま睨みつけてくる。

「で、今日もあれか?面白かったから、もっとやれって言いに来たのか?」

「ちょっと、話逸らさないでよ」と言いながらも、羽月の方にもそれ以上追及する気はないようで「まあ、そうだね」と答えた。

「言われてもどうしようもないんだけどな…大体、神様の原稿はあとどれくらいなんだよ」

「そんなの分からないよ。教えてくれないもん。それに今日のことだって、まだ書けてないだろうし」

「は?」羽月があまりにさらりと言ったので、思わず訊き返す。「書けてない?」

「うん。途中までちゃんと書いてたけど、八代くんが全裸で海パン振りまわし始めたあたりから大笑いし始めて、悶絶寸前だったから。はは、まったく何やってんだかね」

 あひゃひゃ、マジで?ちょー、うける。とでも言うと思っているのだろうか、この乞食天使は。舐めてんじゃないよ、乳を握りつぶすぞ。てか、書けてない?マジでしょうか、それは?ふざけんなよぉ、終わらねぇじゃねぇかよぉ。なんてやんわり胸中で文句言っているけれども、あけすけに言おうか。いい加減にしろ、はっ倒すぞ。そんなんだから社会的弱者なんだよ。お前みたいな神はその内人間たちからも侮られまくって終わりだよ。廃仏毀釈だよ。宗教改革だよ。神は死んだよ。ニーチェだよ。

 腹が立ち過ぎて自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。

「まあ、正直私も…ぷふっ、見ててお腹が痛くなるほど笑ったけど」羽月は思い出し笑いを抑えながらしゃべっている。ていうか、抑え切れていない。

「お前ね、さすがにキレるよ?何やってんだよ、ちゃんと作業進めろよ」

「まあまあ、私に言われてもどうしようもないし。とにかく、今回みたいに面白いことを頼むってさ」

「俺は何回公共の場で全裸になればいいんだよ」そもそも、神はちゃんと小説を書きあげる気があるのか。俺はただ遊ばれているだけなのか。そうだとしたら、うわ、こいつは許し難い。度し難い。よく、神に許しを乞うと言ったりするが、これではまるでその逆で、神が俺に許しを乞いに来るべきなんだけども、来たとしても正直許し難い。俺は神じゃないから慈悲深くないしね。でも、神も人間じゃないんだからそんなことで一々許しを乞いには来ない。ははは、ふざけるなっ。

「そんじゃ、頑張ってねぇ」

「他人事か、お前」

 しかし、羽月はすでに消えていた。

 なんと自分勝手で理不尽な奴らだろうか。宗教とはあんな奴らを崇め奉っているのだと思うと、即座に止めさせたくなる。社寺仏閣に火を付けて回ったる後、チャペルやチャーチの説教台の上に特大のウンコを排泄して巡りたくなる。もしこのまま、神が作品を書き上げなければ俺は一生こんな風にして生きていくのか…

 そこまで考えて、俺は自分の生活が女にモテるようになった以外、大して変わっていないことに気がついた。

 いやまあ、でも、女の子と精神的にも肉体的にも一切交際できないのは辛いしね。主人公補正抜きで俺が彼女を作れるかどうかは別として。だから、やっぱね、ひどい境遇ですよ、今は。ひどい境遇なう。

 けど、今日確かに見た、あの見えない壁無き澄明な景色は素晴らしかった。

 俺はその光景を思い出すために、寝返りを打って目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ