表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
群像について ユグドラシルいわく  作者: まいち
第2幕 第5場 ストレンジャーズ
42/60

(42)観客について アトロゥいわく

「待ちなぁッ!」


 クソッ、遊びすぎちまったか。今度のはデコ女の声じゃねぇ、この声は――デコ女がいるのとは反対の側へ、オレは目をやった。

 あぁ、そうだ。カイナってゴリラ女だ。そのカイナが、ふたたびわめく。


「おい、メスゴブリィンッ! その男を放しな! コイツと交換にしてやるよッ!」


 目を向けた先にいたのは、カイナだけじゃなかった。ブライムとシルバーンと、それからシルバーンに捕まっているヤツがもうひとりいる。なんだ、あのチビは。若草色の髪はオレと同族のようだが、長い耳がしおれるようにへたれていて、みっともねぇザマだ。頭には花かんむりなんぞ被せて、絵に描いたようなトンマだな、ありゃあ。

 カイナのごつい手で、しおれ耳のチビはアゴを掲げられるようにつかまれていた。その顔はホオを腫れさせ、ブタ鼻から血を滲ませている。

 デコ女の叫びが、苦虫をかむような声音で小さく聞こえてきた。


「……プーカ! あんたは弱っちいんだから、来んなってのに……もぉッ」


 それを聞いてか、しおれ耳のチビがうなり声を上げながら暴れだす。


「……んぅーッ」


 首を振ってカイナの手から逃れ、その手へしたたかな勢いで噛みついた。


「がぶぅッ!」


 カイナは大口を開けて白目をむき、声にならない叫びといった様子。そんなコメディの一幕に、シルバーンはうすら笑いをひょう変させた。

 シルバーンはチビの脳天をワシづかみにして、鬼の形相で地面へたたきつけた。


「バダァン!」


 どうやらしおれ耳のチビは後ろ手に縛られていたようで、受け身もなく地面になすられている。そのままシルバーンは覆いかぶさり、しおれ耳へ顔を寄せて何やらささやき始めた。


「……ヘッ、大人しくしやがれって……後でたっぷりと、かわいがってやるからよぉ……」


 聞いたような脅し文句をほざき、ふたたび表情を一変するシルバーン。目をむいて笑みをこぼすと、しおれ耳をひと舐めし、食いちぎらんばかりにかみついた。


「べろおぉぉ……がぢぃッ!」


 しおれ耳のチビは押さえつけられたままで、嗚咽じみた悲鳴が大地にくぐもって響く。


「ぎあッ!……ぁぅぅぅ……ッ」


 どいつもコイツも羽虫みたいにたかりやがって、三文芝居はよそでやれってんだ。テメェら端役と違って――


「……オレ様の泣きどころは、安くねぇんだよ……」


 手元へ視線を戻すと、クソガキは泡を吹いて白目をむいている。いい加減に始末をつけねぇと、コイツの身体が死んじまったら元も子もない。しかしなぁ、観客が多すぎるぜ。ひとりふたり逃がしちまうかもしれねぇが、それでも背に腹は代えられないか。

 ふたたびオレは、シルバーンの方へ目を向け――ってクソッたれ、なんてこった。オレの視線の先には――


「もう一匹、いやがったッ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ