(17)生命について
ユグレナが住まう大森林「ユグドラシル」は、一般的な森林とは異なる奇妙な性質を有している。その特異性をつまびらかにすることで「ユグドラシル」という「単なる森林への呼称」の再定義を行いたい。それはユグレナとユグドラシル、そしてウォーキー・ドゥーヒキーの関係性と実像をあらわにする足がかりとなるものである。
生命は、その基本原理である生存本能により、他の生命と競争を行う。そして栄枯盛衰を繰り返す中で、一時的な均衡状態である「生態系」を形成する。
一般的な森林をなす生態系の構成子は、植物、虫、鳥、獣、土壌、河川、その他もろもろと多種多様だ。それらは生物と環境の互恵関係によって形成と維持がなされ、一体物として存在している。
ユグドラシルにおいても一般的な森林の定義は当てはめられる。ただしそれに加えて「動的な平衡状態の維持」を行う性質があり、つまりは「生命」をなしていると考えられる。生態系は多様な生命と自然環境の一時的な平衡地点であり、そもそも生命定義に近似している。生命との差異は「『ホメオスターシス』が機能して持続的であるか」によるのだ。
ホメオスターシスとは「生物の体内環境を平衡に維持する機構」であり、いわゆる「恒常性」のことである。つまり勘案すべきは「ユグドラシルという生態系においてホメオスターシスは存在するのか」そして「それは何によってなされているのか」なのだ。
植物は菌と共生している。そしてその植生は「相互に利得をもたらし合う感染状態」である「相利共生」によって維持されている。もちろんこの森にも共生菌は存在し、多様な植生の形成と維持をしている。
ある種の菌は、植物の根に共生して「菌根」を形成する。菌根は根外へ菌糸を伸ばし、土壌の栄養分を吸収する。植物が生成した栄養分と交換することで、菌にとって必要な栄養分を得ているのだ。
菌根を形成する菌を「菌根菌」という。また、発芽して間もない植物のことを「実生」という。菌根菌の存在は、この実生の成長に影響を与える。
菌根菌は、その種類によって「ひとつの植物種のみに共生する菌」と「複数の植物種に共生できる菌」とがある。ひとつの植物種のみに共生する菌は、共生する植物の実生の成長を促進し、同種の植物種を密生させる。また複数の植物種に共生できる菌は、共生する植物の実生の成長を阻害することで、多種の植物種を共存させる。
菌根菌が実生の成長を操作する理由は、土中の「菌根菌ネットワーク」にある。同種の菌根菌同士は、土中に伸ばされた他の菌根の菌糸と結合し、連絡する性質を持つ。土中に菌根菌ネットワークが形成され、広範囲の栄養交換が可能になるのだ。
複数の植物種に共生する菌根菌は、異なる植物種の菌根同士でも結合して連絡を行う。つまり異なる植物種でさえも菌根菌ネットワークが形成され、広範囲の交信が行われるのだ。
菌根菌ネットワークの交信により、様々な植物種がその特性に合わせて併存し、広大で複雑な森林が形成されているというわけだ。また見方を変えれば「植物に適した生育環境を菌根菌が整備している」とも言い換えられる。
まどろっこしい話ではあるが、これらは以降の内容に必要な情報である。これを踏まえたうえで、ユグドラシルの再定義を行っていく。




