第三話
七月、緩やかな放課後。
「…ってことなんだけど、どう思う?」
「どう、と言われましても…」
ずいっと目をキラキラとさせて問いかけてくる先生から、私は逃げるように視線を逸らす。
二者面談。定期考査の前後を中心に、学習の進捗状況や学校生活の様子について、生徒と教員がじっくりと話し合うことを目的に設けられているこの時間。本来なら成績とか進路とかについて先生と色んな話をするはずなんだけど、なぜか今の私は、先生の都市伝説に関するマシンガントークを必死に受け止めている。
「あの、先生」
「ん?なに?」
「これって二者面談ですよね」
「うん?そうだね」
「それなら、成績とか進路とかの話をするべきなんじゃ?」
「えー、でももう特に話すことないじゃん。宮内さん成績は安定してるし、進路もさっき聞いた感じだとちゃんと決まってたし。だから特に学校生活で確認しなきゃいけないことはもうないんだよ。あぁなんてつまらないっ。こんなに時間が余る子なんてそういないからびっくりさ!」
最後のはまた何かのキャラクターの真似なのかな。
「特に何も言うことがないなら、この面談はもう切り上げて次の子との面談を始めてしまえば良いんじゃないですか?その分早く終わりますよね?」
「いや、生徒との時間は平等にしたいので。貴女だけ短くはしません」
そここだわるんだ。
「今の都市伝説があんまり気にいらないなら、別な話をしようか」
「?別な話」
「そう、真ん中っ子ガチャの話」
「…あぁ、そういえば、そんな話もありましたね。七月二日にだけ現れるガチャガチャ」
思い出したように言えば、先生は心底わくわくした表情で頷いた。
いやていうか、やっぱり都市伝説の話じゃんか。
「そうそう。ついに明日だねっ。宮内さんも真ん中っ子だし、明日現れたりして!」
「あ、先生その話信じてるんですね」
「もちろん。宮内さんは信じてないの?」
「そうですね…絶対に嘘だとは思わないですけど、現実味がないっていうか…都市伝説って、実際に見たり体験したりしたこともないですし」
「それもそっか。ま、信じるかどうかは本人の自由だから別に良いんだけどね。でも、もし本当に見つけることが出来たんなら、回してみるといいと思うよ」
「はぁ…」
曖昧に返事を返しながら、三ヶ月ほど前の先生の話を思い出す。
真ん中っ子ガチャ。
回すとその人にとって一番必要な物が出てくる。
「…」
そんな都合の良い道具があるんなら、是非とも見てみたいけれど。
なんて、ちょっと皮肉りながら迎えた七月二日。
いつも通り母にお使いを頼まれた帰り道。よく通っている小さな駄菓子屋の前で、私は固まっていた。
「…え」
お店の入り口に置かれた、二つのガチャガチャ。
一つは、よくある赤くて四角いガムボールマシン。中にカラフルなガムが入っているのが見える。
そして、もう一つ。ガムボールマシンの隣に置かれているのは。
「…真ん中っ子、ガチャ」
真ん中っ子ガチャ
回せば、本気で素敵な真ん中っ子になるために、貴女にとって一番必要なものが出てきます。
でかでかと丸いフォントで書かれた、カラフルな文字。
「…」
私の目は、狂っているのだろうか。




