模擬試合の後には
「なっ!」
「よし!」
先程までニヤニヤとしていた辺境伯は驚きのあまり声を漏らした。
ローベルトはやはりと言わんばかりの顔だ。
「……まさか先手を取りに来るとは思いませんでした。静刃流を習っているのではないのですか?」
「父には静刃流と猛刃流、どちらも修行をつけてもらっています」
「なんと……」
驚くのも当たり前だ。この歳で両方を習うのなんて俺だけだろう。
普通であればどちらかの流派をある程度納めた後、実戦の対策としてもう一つの流派をかじる程度。
どちらも実践で扱うのは一級冒険者などの、所謂一流と呼ばれる人達だけだ。
今回はその考えの隙につけ込んで勝利したが、この年齢にしてあのキレ、次はもう少し苦戦するだろう。
二人で話していると父さんと辺境伯様が近づいてきた。
「二人共、どうだった?」
「まさか、二つの流派を使ってくるとは予想していませんでした。……それに自分以外にここまで動ける同年代がいるとは思いませんでした」
アルフレート様は正直に、相手の実力を見誤っていたと言う。
「そうだな。アルフレート君、幼い時期から剣を握り、騎士相手に訓練をしていたことに自信を持つことは悪いことではないよ。しかしだからといって、相手が自分よりも訓練を積んでいないと慢心してしまうのは危険だ。常に相手の実力を見極め、油断をしないように。剣のキレはなかなかによかったよ」
「はい!」
父さんがアドバイスをするのか?それにアルフレート様もやけに嬉しそうに返事をしている。
「どうだ、アルフレート。俺のライバルの息子は強かったろう?」
「はい。流石はローベルト様のご子息、すでに両派を学んでいるとは。お父上よりも強いと言うローベルト様の強さの片鱗を感じれた気がします」
「俺よりもローベルトが強いだと?誰が言っていたんだ?」
「母上です。二人の手合わせではほとんどローベルト様が勝ち越していたと」
「なっ!シリカのやつめ……」
「はは!流石はシリカだ、よくわかっているじゃないか」
父さんは辺境伯のご婦人とも知り合いなのか。
アルフレート様は父さんの方をキラキラとした目で見ていた。
ああ、なるほど。アルフレート様は自分の父よりも強いと聞いていた父さんに憧れていたのかな。
「ほう。オーク王と戦ったときに、倒れたお前を守っていたのは誰だったかな~?」
「ゴブリンの群れに一人で突っ込んで返り討ちにされたのを助けたのは誰だったかな」
「な!それはガキの頃の話じゃねえか!」
二人は子供のようにどちらが強いか、言い合いを始めてしまった。
「……のときは俺が12匹多く狩っていたぞ!」
「それは俺が弱らせてお前がとどめを刺しただけのを数えたら、だろう。そもそも……」
二人が気を許した仲だからだろうか、貴族様というよりは子供同士の喧嘩?のように見える。
子供を放っておいて言い合いを続ける二人を見かねて、離れて見ていた母さんがこちらへ来た。
「全く、大人になっても変わらないのね。二人とも、お疲れ様。こんな人達は置いておいて家に入りましょう」
母さんは二人は止めずに放っておくようだ。いつものことなのだろうな。
俺は家に入ろうと歩き出したが、アルフレート様は母さんを見て動かないでいた。
「……あ、あの、ラウラ様」
「ん?どうしたの?」
「ラウラ様の魔法のこと、お父上から伺っております!国でも有数の魔導師だと」
「あら、ありがとう」
母さんは言われ慣れているのか、にこりと笑って返す。
「それで、……ラウラ様の魔法を見てみたいです!」
「ふふ、いいわよ。そうね、まずは……ガルム」
母さんが名前を呼ぶと、腰につけている召喚獣を仕舞う魔道具『召喚石』が光り、3メートルほどもある純白の狼が姿を現した。
ゴロゴロと喉を鳴らし、母さんに体を擦り寄せている。
「この子が私の召喚獣、ガルムよ」
「こ、これが……。話には聞いていましたが、なんという大きさ……」
初めてガルムを見るのならば驚くのも当然だろう。召喚獣の大きさは召喚主の魔力量の多さを物語る。
「それに、かっこいい……」
わかる。ガルムの持つ美しい純白の毛並み、キリッとした顔つき、堂々とした佇まい。男心をくすぐるかっこよさだ。
「ふふ、よかったわね、ガルム」
「グルゥ」
ガルムは自分が褒められていることを理解しているのか、アルフレートヘと近づき、体を丸くして座り込んだ。
アルフレートは前に座り込んだガウルの毛並みをなで始めた。
アルフレート様も今は貴族というよりも、憧れの存在を前に興奮している少年のようだな。
「ガルムもかっこいいけれど、コクヨウも引けを取らない程にかっこいいわよ」
「コクヨウ?」
「ヴォルの召喚獣よ」
アルフレート様はそれを聞くとバッと振り返り、こちらを見た。
「き、君は魔法も使えるのですか……?」
「ええ。母さんには遠く及びませんが」
アルフレート様は俺が剣術一本で訓練していると思っていたのだろうな。見たことのない驚愕の顔をしている。
「コクヨウ!」
名前を呼ぶと、屋根の上からピィと鳴く声が聞こえた。コクヨウは屋根上がお気に入りのようで、いつもそこで過ごしている。
大きな翼をはためかせ、ヴォルのもとへと飛んでくる。
「なんと……」
「あの年にして魔術までも……」
「それになかなかの大きさだぞ……」
周りで見ていた騎士達も俺が魔法を使えることに驚いているようだ。
父さん達も口喧嘩を中断し、こちらを見ていた。
「流石はラウラの息子だな」
「ああ。お前には魔法の才能のさの字もないからな」
「は?お前だって無いだろう」
しかし、またすぐに再開してしまった。子供かよ。




