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いつもの修行

「ふぅ」


 いつものルートを走り切り、シャツにはじんわりと汗が滲んでいる。


「よし、素振りをするか」


 ヴォルは剣を腰に差し、刀身を抜いた。


「1!2!3!……」


 この2年間の修行で、かなり剣の感覚が戻ってきたと思う。

 もちろん全盛期ほどの動きとまでは言わないが、大体は自分の思ったように体が動くようになっている。


 父さんには剛刃流と静刃流の2つを教えてもらっている。

 

 剛刃流は一の太刀から二の太刀、そして三の太刀への繋ぎを如何に無駄なく、隙なく打ち込こむか、という点に、静刃流は相手の打ち込みに対して如何に受ける、もしくは流すことで次の反撃へ淀みなく移ることができるか、という点に特化している。


 それぞれの型を習い、動きを練習し、父さん相手に模擬試合を行う。もちろん模擬試合は木刀を使って寸止めが基本だが、痣や擦り傷の耐えない日々だ。その度に回復魔法の練習と称して自らの傷を治している。

 回復魔法は剣術の修行と同時期に始めたのだが、未だ低級回復魔法しか使用できない。


 回復魔法は他の属性魔法とは異なり、低級・中級・上級・特級の四段階で構成されている。

 低級の中でも『治癒(低)』『解毒(低)』など、いくつかの種類が存在しており、段階が上がるごとにその効果も上昇していく。特級の治癒ともなると、体の欠損を修復してしまうほどの効果を持つらしい。



 模擬戦ではまだ100回戦っても父さんには勝てない。しかし、着実に2つの流派に体が馴染んでいくのを実感している。


 普通であればどちらかの流派を極めんとするのであろうが、まだ俺は8歳だ。どちらも、と多少欲張ってもバチは当たらないだろう。


「これで……ラスト!」


 ヴォルは日課で行っている型の練習までを終わらせ、汗を拭う。


「今日は父さんがいないから、だいぶ早いが魔法の修行に移るか」


 剣を腰から抜き、いつもの置き場へ戻すと、もう一度庭へと戻る。


「コクヨウ!」

「ピィー!」


 全長が1メートルを超えるほどの黒い鷹がヴォルのもとへと飛んでくる。羽を広げて飛んでいるときの大きさは2メートルを有に超えている。


「よしよし、コクヨウも大きくなってきたな。まだ乗ることはできそうには無いけれど、このまま行けば魔力が1万を超えることには乗ることもできそうかな」

「ピィ」


 コクヨウがヴォルに頭を擦り寄せている。


 かわいいなぁ。ペットを飼うっていうのはこんな感覚なんだな。……まあ、多少大きすぎる気もするけれど、そこは気にしないようにしよう。


「よし、じゃあ行くぞ、コクヨウ」


 ヴォルはⅡ型の土魔法『土壁』を発動する。


「ピィ!」


 コクヨウは大きな翼をはためかせると、砂埃を巻き上げながら空高くへと駆け上がる。

 ある程度の高さまで上昇すると、ヴォルが発動した土壁へと急降下で突撃していく。


 コクヨウとかなりの速度で衝突した土壁は、大きな衝撃音と共に砕け散っていった。


 コクヨウはそのままヴォルの方へとゆっくりと飛んでいった。ヴォルの横に着くなり褒めてほしいのか、翼をバサバサとはためかせて鳴いている。


「よくやったぞ、コクヨウ!昨日よりも少し魔力を込めて硬度を上げたけれど、難なく破壊できたな」


 コクヨウとの修行では基本的に俺が作った的に向かって、空中からの突撃や鋭い足の爪で攻撃する、といった練習をしている。


「次だ、コクヨウ!強風!」

「ピィ!」


 コクヨウは翼を羽ばたくと同時に風魔法をヴォルへ向かって発動する。翼から発生した風は砂埃を巻き上げながらヴォルを襲う。


「うお!」


 台風ほどの風速があるのではないだろうか。その場で立っているのも少しキツイと感じる。


「水壁!」


 発動した水壁はコクヨウの強風を完全に防ぎ切る。やはり得意属性の水壁の方が土壁よりも明らかに頑丈だ。遅れて飛んできた砂礫はすべて水壁によって防がれた。


「段々と発動するまでの時間も短くなってきたね。これなら魔物との戦闘になってもいい切り札になりそうだ」


 コクヨウが魔法を発動できるようになったのは、召喚して一年ほど経ってからだった。

 母さんが言うには、召喚獣は召喚者が持つ属性の内、一つを使用することができるとのことだった。コクヨウは風魔法、母さんのガウルは水魔法、といった具合だ。召喚者が複数の属性を使用できる場合には、どの属性の魔法を使用できるかが召喚獣次第であり、発動してみるまではわからないらしい。


 召喚獣が魔法を発動する際にはもちろん魔力を消費する。そのため、ある程度魔力を使った後は召喚者からの魔力の補充を必要とする。召喚獣が持つ魔力量は、召喚者の魔力量次第で決まるため、自分が強くなればなるほどコクヨウも強くなっていくのだ。


「よし、限界まで全力で打て!」

「ピィ!」


 俺はコクヨウが強風を何度も発動している間、ずっと水壁を発動し続けていた。

 ただ発動するだけではなく、強度を保った状態で色々と形を変えている。複数人を守れるように横幅を広げてみたり、どこからの攻撃にも対応できるように全方向囲んでみたりと、様々な状況に対応できるよう練習している。


「うん、Ⅱ型魔法もかなり柔軟に使えるようになってきたな」


 一番苦手な土魔法ではこうは行かないから、もっと特訓は必要だろうな。


「Ⅲ型魔法に手を出すのもそろそろかな」


 母さんにはⅡ型魔法の扱いが十分だと判断できれば次の段階に入ると言っていたが、土魔法でもこのくらいのことができるようになれば教えてくれるかな。


「コクヨウおいで!魔力の補充をしよう」


 コクヨウは疲れたのか、先程よりもゆっくりと飛んできた。


「お疲れ様」


 ヴォルは擦り寄るコクヨウの頭をなでた。


 よし、後は魔力を消費し切るまで他属性の練習をするか。

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