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剣術

◇◆◇


「ヴォル、誕生日プレゼントは何がいい?」


 今日は六歳の誕生日だ。体もだいぶ大きくなった、誕生日プレゼントはもちろん…


「父さんに剣術を教えてほしい」

「え、剣を?」

「魔法の修行の方はいいのか?」


 魔法の修行は


「もちろん続けるよ」


でも、俺の本分は剣だ。


 ローベルトは持っていたスプーンを置き、真剣な顔でヴォルに向く。


「剣はそんなに甘いものじゃない」


 その言葉には尋常ならざる気迫が込もっている。それほどまで剣にすべてを捧げてきたのだろう。父さんの目は見えていないはずなのにすべてを見透かされているように感じる。


 ヴォルの手にはじんわりと汗が滲む。


「わかってるよ」

「いや、お前は何もわかっていない。お前には魔法の才能があるんだ。それにやっと魔法の修行も一段階上がったばかり。興味本位の剣術なら大人になってからやればいい」


 違うんだ、父さん。俺が剣術を習いたいのは興味本位なんてものじゃない。


 ヴォルは来る日も来る日も竹刀を振っていた前世を思い返した。

 腕が上がらなくなるまで素振りを繰り返し、父と立ち合う度に痣を増やした毎日。意識を失うまで体を酷使することも幾度となくあった。それでも俺が続けていたのは剣道が好きだったからだ。

 ある日、いつもより少し速く剣を振れるようになったことに気がつく。以前は見えなかった相手の動きに反応できるようになったことに気がつく。

 毎日少しずつ、本当に少しずつ自分が成長していることを実感できる。気がつけば、手も足も出なかったような相手と対等に戦えるようになる。

 才能なんて関係ない。努力次第で誰にでも強くなれる可能性がある、権利がある。だからこそ、人より強くなったと実感できたときの達成感をより強く感じる。

 魔法も好きだ。この数年間は魔法ばかりを考えて生きてきた。けれどこれは所詮神様がくれた才能があってのものだ。努力次第で変わるところは大きいのだろうが、才能がなければ発動すらできない。しかも自分は神様が特別に与えてくれた才能だ。平等じゃない。


 やっぱり俺が好きなのは剣だ。同じく剣を学ぶ者と共に笑い合い、高め合い、己の努力に胸を張り競い合うあの日々をもう一度過ごしたい。


 父の目を見てこの思いをぶつける。


「興味本位なんかじゃない。本気で剣術を習いたいんだ」




 ローベルトは不思議に思った。どうしてたかだか六歳児の息子がこんなにも真摯に剣術の教えを請うのか。一級冒険者のラウラをも超える魔法の才能があるのにも関わらず。なにがそこまでこの子の心を動かしているのか。


 様々な考えが頭を巡る。


 この子は魔法の才能がある。二年かけてようやく次に段階へ進んだばかりだと聞いた。そんな大事な時期に剣術の道まで歩ませていいのだろうか。どちらも中途半端になってしまうのではないだろうか。そもそもこんなに幼い子が剣の修行について来れるのだろうか。


 ヴォルの将来を左右しかねない決断にローベルトが頭を悩ませていると、ラウラが肩に手を置き、その顔は微笑んでいた。


 瞬間、自分の考えがまとまった。


 ……そうだな。まだ幼い我が子がこんなにも真剣に頼み込んでいる。何を断る必要があるのだろうか。やってみればいい。それでだめなら違う道を示してあげればいい。それでいいじゃないか。


「わかった。剣術を教えよう」


 ローベルトは首を縦に振り、答えた。


「うん、ありがとう!」


 ヴォルは満面の笑み見せた。



 さて、明日からどんな修行をしようか。


 ローベルトは魔道士を目指すと思っていた息子が、自分に剣の教えを請いてきたことにこれ以上無い喜びを感じた。

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