第70話:また男児!? ジャイアン遺伝子強すぎない!?
地雷兄弟1号ですね(ΦωΦ)
1155年。
イングランド王妃へ強制再雇用されてから、まだ一年も経っていない。
そんなある日、ロンドンの王宮で、私は人生四度目の「極限労働」に挑んでいた。
「ぎゃあああああああああああ!!」
出産である。
何度経験しても痛いものは痛い。
一回目で慣れるとか、二回目からコツが分かるとか、そういう優しいシステムは存在しない。
むしろ私は四回目にして、確信していた。
「出産に慣れるって言ったやつ誰だぁぁぁぁ!! 慣れるかこんなもん!!」
ベッドの支柱を握りしめながら叫ぶ。
産婆たちは慣れた様子で動いているが、産む本人にとっては毎回が初見殺しである。
現代医学。
麻酔。
清潔な病院。
二十一世紀では当たり前だったものが、今この瞬間だけは恋しくて仕方ない。
そして。
「オギャアアアアア!!」
元気な産声が部屋に響いた。
産婆が赤ん坊を抱き上げ、ぱっと顔を輝かせる。
「王妃陛下! お生まれになりました!」
「……うん」
「男子にございます!」
「…………」
私は汗だくのまま固まった。
「……今、なんて?」
「男子にございます。とてもお元気な若君で」
「また?」
「はい?」
「また男?」
産婆が不思議そうに首を傾げた。
「はい。男子でございます」
「…………」
私は天井を見た。
一人目の男児、ギヨーム。
そして今回。
二人目の男児。
再婚してから、男子二連続。
「なんでぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」
思わず叫んだ。
部屋中の人間がびくっとした。
「いや、嬉しいよ!? 嬉しいけど!! なんで今!? なんで連続!?
前の結婚では十五年かけて娘二人だったのに、ジャイアンと結婚した途端に男児率どうなってんの!?」
もちろん、誰が悪いわけでもない。
そんなことは分かっている。
子どもの性別なんて、私がどうこうできる話じゃない。
それでも偏りがあまりにも極端すぎる。
「カペー社、十五年勤務で女子二名。プランタジネット社、再雇用から短期間で男子二連続……」
「王妃陛下?」
「いや、こっちの話」
私は遠い目になった。
その時、扉が勢いよく開いた。
「アリエノール!」
来た。
暴走戦車。
二十二歳のイングランド王、ヘンリー二世である。
「男子だと聞いた!」
「もう伝わったの!?」
「当然だ」
「情報網だけは本当に早いな!!」
ヘンリーは赤ん坊を見るなり、満足そうに笑った。
「元気そうだな」
「今のところね」
「よし。名はアンリにしよう」
「…………」
「私と同じ名だ」
「待って」
「何だ」
「なんでコピーした?」
「何が」
「名前」
ヘンリーは本気で意味が分からないという顔をした。
「父親と同じ名をつけて何が悪い」
「悪くはないけど!! ただでさえジャイアン気質が遺伝してそうなのに名前までコピーしたら、
区別つかなくなるでしょ!!」
「区別すればいい」
「どうやって!?」
「私は王だ」
「雑!!」
私は赤ん坊を見る。
小さい
かわいい
すやすや寝ている
今のところは。
「……ねえ」
「何だ」
「この子まであんたみたいな性格だったらどうしよう」
「何か問題があるのか?」
「そこだよ!!」
ヘンリーは、まったく悪びれない。
その時、赤ん坊が小さな手をぎゅっと握った。
私はじっと見る。
「…………」
眉間。
なんとなく強そう。
口元。
なんとなく気が強そう。
いや、生まれたばかりの赤ん坊に性格なんて分かるはずがない。
分かるはずがないのだが。
私はそっと隣の夫を見る。
同じように眉間が強い。
同じように「自分が正しい」と信じて疑わない顔をしている。
「……似てる」
「私の子だからな」
「だから怖いんだよ!!」
”ジャイアン一号”
”ジャイアン二号”
脳内で警報が鳴る。
「ちょっと待って。これ、夫が一人増えたようなもんじゃない?」
「何を言っている」
「将来、家の中に『俺が正しい』『いや俺が正しい』って男が二人いる未来しか見えないんだけど」
「それなら、より正しい方が勝つ」
「最悪の家庭内ルール作るな!!」
私は頭を抱えた。
しかも、まだ長男ギヨームもいる。
つまりこの家には、すでに男子が二人。
そして父親は、全世界に向かって喧嘩を売る勢いで働く暴走戦車。
「……もしかして私、王妃になったんじゃなくて、猛獣舎の飼育員に転職した?」
誰も答えてくれない。
ヘンリーだけが、赤ん坊を見ながら満足そうに言った。
「男子が二人いれば、将来の選択肢も増えるな」
「やめろ」
「何が」
「生まれた瞬間から人事配置考えるな」
「王家では普通だ」
「普通が怖いんだよ中世は!!」
私は枕へ倒れ込んだ。
でも、腕の中の赤ん坊はかわいい。
それは間違いない。
元気に生まれてくれた。
それだけで、今は十分だった。
「……まあ、いいか」
「何がだ」
「この子が元気なら、それでいい」
「当然だ」
「あと、あんたに似すぎないでくれれば」
「なぜだ」
「家庭内会議が終わらなくなるからだよ!!」
ヘンリーは鼻で笑った。
私はため息をついた。
ルイとの十五年間では、あれほど待っても生まれなかった男子。
それが再婚した途端、立て続けに二人。
人生というものは、本当に思った通りにはならない。
「……ルイ、元気かな」
「何だ急に」
「いや。なんとなく」
元夫がこの報せを聞いたら、たぶん静かに天を仰ぐ。
そして私は、ちょっとだけ申し訳ない気持ちになる。
でも、それはそれ。
これはこれ。
私は腕の中の赤ん坊を見つめた。
「アンリ、か」
「いい名だろう」
「父親と同じなのが若干不安だけど」
「何が不安なんだ」
「だからそこだって!!」
こうして我が家に、また一人、男児が増えた。
私の人生はどうやら、王妃業だけでなく、
今後「ジャイアン管理業務」まで兼任することになるらしい。
しかも、この時の私はまだ知らなかった。
この小さな二号機が、成長した先でどんな騒ぎを起こすことになるのかを。
※本作は、実在の人物・史実をもとにしたフィクションです。
人物の年齢、出来事の時期、当時の習慣や文化などは、史料によって諸説あるものも多く、物語として読みやすくするために一部再構成・創作を含みます。
できるだけ当時の空気を大切にしつつ、主人公は相変わらず世界史8点のまま進みます。
なお、主人公より作者の方がちょっとだけ世界史に詳しい……はずです。多分…?
「そこ違うかも?」という部分も、ゆるく楽しんでいただければ嬉しいです。




