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『世界史8点の私に、アリエノール・ダキテーヌは荷が重い』 ~未来の夫も息子も、ろくなことをしないらしい~  作者: 雪森蓮


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第4話:キャラ設定が過積載なおじいちゃん

もっとサクサク時間を進めようかなと思ったけど。

書くの僕なので序盤かなりのんびり行きます。

広大なアキテーヌ、その中のポワティエの風を受けながら。


肩車の上で、眼下に広がるごつい石造りの館と、活気のある街を見下ろしていた私の耳元で、

じいちゃんのエンジンがかかった。


「よいか、アリエノール。この土地はな、昔――」


「うん」


「わしが遠征から戻った頃は、もっと荒れておったのだ!」


「……えんせい?」


遠征ってどこだよ。

部活の合宿か?

いや、この時代だから、どう考えても戦争か何かだろうけど。


「そうさ! わしは軍を率いて、はるばる聖地を目指したこともあるぞ!」


「せいち……?」


聖地ってどこだよ。

秋葉原か?


いや待て。


聖地。

軍を率いて。

遠くまで行く。


……十字軍?

世界史の教科書で太字になっていた、なんか大勢で遠くまで行って、なんか大変なことになったやつ?


たぶん……?

知らんけど。


「道中は過酷を極めたが、わしは生き延びて戻ってきた!」


じいちゃんは誇らしげに胸を張った。


「そして戻ってからは――詩を作った!」


「……?」


急に文化系。

さっきまで戦争の話してたよね?


剣持って遠征してた人が、帰ってきた途端にポエム書き始めたんだけど。

情緒どうなってんの。


だが、じいちゃんの武勇伝はここからだった。


「わしが紡ぐ詩に、女たちはみな夢中になったものよ!」


「……」


「美しい人妻を城へ連れてきて、塔に住まわせた時など、聖職者どもが大騒ぎしてな!」


「……ひとづま?」


今、人妻って言った?


「しかも破門だ何だとうるさいものだから、少し黙らせてやったわ! ガーッハッハ!」


どう黙らせた。

聞きたいような、聞きたくないような。


「剣を抜いたら、そりゃあ静かになったぞ!」


やっぱり聞かなきゃよかった。

話が進めば進むほど、情報量が大気圏を突破していく。


戦って。

歌って。

女で揉めて。

人妻を城の塔に住まわせて。

教会とも揉めて。

剣まで抜いて。


武将なのか?

詩人なのか?

プレイボーイなのか?


どれか一個にしてくれ。

属性の渋滞がひどすぎる。


「……おじいちゃん、なにもの?」


肩車の上から、私は真顔で白髪交じりのライオン頭を見下ろした。


「わしか?」


じいちゃんは、ふっと口元を上げた。

そして胸をどん、と叩く。


「よくぞ聞いた! わしこそが”ギョーム・ダキテーヌ公”である!」


「それは知ってる」


名前がギョームなのは、もう嫌というほど分かっている。


ていうか、うちのじいさん。

キャラ設定盛りすぎだろ。


ソーシャルゲームの限定星五キャラでも、ここまで属性を詰め込んだら

運営の悪ふざけを疑われるレベルだぞ。


その後。


ようやく肩車から下ろされ、館へ戻った私を待ち構えていたのは、

見るからに胃の痛そうな顔をした若い男だった。


私の父親。

ギョーム十世。


やっぱりギョーム。


その隣には、母のアエノール様もいる。


「父上!」


お父さんは、じいちゃんを見るなり眉間を押さえた。


「病み上がりのアリエノールを連れ回すなど、何をお考えなのです!」


「かーっ! 堅いことを言うな!」


「まだ二歳ですよ!」


「だからこそ、今のうちから自分の土地を見せてやらねばならん!」


「そういう話ではありません!」


お父さんが本気で怒っている。

じいちゃんは、まるで気にしていない。


「元気になったのだからよいではないか! では、わしは少し飲んでくる!」


「父上!」


止める間もなく、じいちゃんは笑いながら廊下の向こうへ消えていった。

嵐みたいなジジイである。


残された両親は、揃って深いため息をついた。


「あの方はねぇ……」


母のアエノール様が、困ったような、それでいてどこか慣れきった顔で私を抱き上げる。


「本当に、誰にも止められないお方なのですよ」


「……うん」


それは、もうよく分かった。


「私のお母様を、夫のいる身でありながら堂々と連れてきて、

ご自分の城の塔に住まわせたくらいですから」


「……は?」


今何て?


私は母の顔を見上げた。

母は、いたって普通の顔をしている。


「おかあさまの……おかあさま?」


「ええ」


「おっと、いた?」


「いましたよ」


「……」


待って。


整理しよう。


・おじいちゃんが

・既婚者だった女の人を連れてきて

・城の塔に住まわせた


・その女の人には、すでに娘がいた。


『その娘が、今、私を抱いている。』


「でね」


母は、まだ続けた。


「その私が、あの方の息子であるあなたのお父様と結婚したのです」


「…………は?」


私はゆっくり父を見る。

父も、何とも言えない顔をしている。


ちょっと待って。

おじいちゃんの不倫相手の娘が、お母さん。

そのお母さんが、おじいちゃんの息子であるお父さんと結婚。


そして。


生まれたのが。


私。


「……え?」


もう一回。


おじいちゃんの恋人の娘。

その人が、おじいちゃんの息子と結婚。

で。

私。


「……かけいず……」


「何ですか?」


「なんでもない」


家系図!

家系図を持ってこい!

今すぐ!!


世界史八点とか、そういう問題じゃない。

現代日本で二十八年間かけて培った倫理観と家族観が、音を立てて粉砕されていく。


私は母の腕の中で、遠い目をした。


この家。

思っていた以上に。


ヤバい。


※本作は、実在の人物・史実をもとにしたフィクションです。


人物の年齢、出来事の時期、当時の習慣や文化などは、史料によって諸説あるものも多く、物語として読みやすくするために一部再構成・創作を含みます。


できるだけ当時の空気を大切にしつつ、主人公は相変わらず世界史8点のまま進みます。

なお、主人公より作者の方がちょっとだけ世界史に詳しい……はずです。多分…?

「そこ違うかも?」という部分も、ゆるく楽しんでいただければ嬉しいです。


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