↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『世界史8点の私に、アリエノール・ダキテーヌは荷が重い』 ~未来の夫も息子も、ろくなことをしないらしい~  作者: 雪森蓮


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
163/187

第161話:何なのよ、その法の抜け穴みたいな態度!

見てるだけなのも歯がゆいよねぇ

オールド・サラム城塞の居室。

ポワティエから届いた最新の報告を読み終えた私は、

ハーブティーのカップを持ったまま固まっていた。


「……ねえ、侍女長」


「はい」


「それ、反乱じゃないの?」


侍女長は手元の羊皮紙へ目を落とした。


「リチャード殿下は、反乱の意図はないと明言しておられます」


「でも親父の命令には?」


「従わない、と」


「…………」


私はゆっくりカップを置いた。


「もう一回」


「反乱はしない」


「うん」


「父王の領地へ攻め込むつもりもない」


「うん」


「ジョン殿下と争う意思もない」


「うん」


「しかし、ポワトゥーについての命令には従わない」


「…………」


深呼吸……

無理だった。


「何なのよ、その法の抜け穴みたいな態度ォォォォッ!!」


オールド・サラムの石壁に、私の絶叫が響き渡った。


「それ反乱なの!? 違うの!? どっちなのよ!」


「……反乱とは言い切れぬまま、命令だけは拒み続けている状態かと」


「一番めんどくさいやつじゃない!」


私は頭を抱えた。


前世の会社でも、こういう人はいた。


会社そのものには逆らわない。

辞表も出さない。

会議も出る。

仕事もする。

でも納得できない指示だけは、びっくりするほど綺麗に動かない。

しかも仕事自体はちゃんとやる。


上司からすると、一番扱いに困るタイプである。


「ちょっと整理するわよ」


私は指を一本立てた。


「まずヘンリー」


『家全体のためだから従え』


でも。


リチャードが公然と反乱を起こしているわけではない以上、いきなり全面戦争へ持ち込むのも簡単ではない。


二本目。


「リチャード」


『親父の意図は分かった。でも命令には従わない』


王座はいらない。

父親の領地にも攻め込まない。

ジョンとも争わない。


『ただし自分の土地には触らせない』


「……あんたたち」


私は両手で頭を抱えた。


「どっちもギリギリ『俺は悪くない』の線から一歩も出ない気ね!?」


侍女長が何とも言えない顔をしている。


「アンリの時とは違うのよ」


若ヘンリーは、父親へ正面から反旗を翻した。


諸侯を巻き込み。

弟たちも巻き込み。

フランスまで巻き込み。

とにかく派手にぶつかった。


だがリチャードは違う。

兄が父親と争い続けた末に、何一つ決着をつけられないまま死んだのを見ている。


だから……。

自分からは越えない。

父親の王座も狙わない。

領地を奪いにも行かない。

ただ、自分の場所に座ったまま動かない。


「『俺はここで自分の仕事してるだけですけど?』

って顔して、親父の命令だけ完全に無視してるのよ」


「……確かに、対応に困る形でございますね」


「でしょう!」


私は机を叩いた。


「しかも仕事してるのよ!」


そこが余計に腹立たしい。


城を確認する。

兵糧を確認する。

諸侯へ余計な挑発をするなと命じる。

ジョン本人とは争う気がないと明言する。

アキテーヌの統治そのものは、むしろ真面目にやっている。


「何なのよあの子。戦闘ゴリラだと思ってたのに、

いつの間にそんな屁理屈の立つ現場責任者になったのよ」


侍女長が静かに答えた。


「王妃殿下のお子でございますので」


「私のせいにしないで!」


一度否定して、少し考える。


「……まあ、全部否定はしないけど」


侍女長は何も言わなかった。

私は椅子へ座り直した。


「ヘンリーは『従え』」


「はい」


「リチャードは『断る』」


「はい」


「でもどっちも、自分から決定的な一線は越えない」


「はい」


「つまり」


私は額を押さえた。


「これ、ものすごく長引くやつじゃない?」


侍女長が少し考える。


「……その可能性は高いかと」


「やっぱり!」


私は再び天井を仰いだ。


「バカ同士なら、一回殴り合って疲れたら終わるのよ!」


「はい」


「でも、お互い頭が回る頑固者が、

『自分は正当です』って顔で一歩も動かなかったら!」


声が大きくなる。


「こういうのが一番長引くのよォォォッ!!」


窓から、生ぬるい風が吹き込んだ。

私は冷めたハーブティーを見つめた。


息子が一人減ったら少しくらい静かになると思っていた。


ところが。


残った息子は、より高度で、より理屈の通った、

より面倒くさい抵抗方法を身につけていた。


「……アンリ」


私は遠い空へ向かって、小さく呟いた。


「あなたの弟、だいぶ賢くなったわよ」


少し間を置く。


「嫌な方向に」


侍女長が、ほんの少しだけ笑った。


私は深くため息をついた。


「アンジュー家」

人数は減ったが、揉め方だけが妙に進化していた。

※本作は、実在の人物・史実をもとにしたフィクションです。


人物の年齢、出来事の時期、当時の習慣や文化などは、史料によって諸説あるものも多く、物語として読みやすくするために一部再構成・創作を含みます。


できるだけ当時の空気を大切にしつつ、主人公は相変わらず世界史8点のまま進みます。

なお、主人公より作者の方がちょっとだけ世界史に詳しい……はずです。多分…?

「そこ違うかも?」という部分も、ゆるく楽しんでいただければ嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。