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  作者: かいちょ
第1章 罪
9/10

第9話 愛


「向!」

暗い廊下の先。

涙を流しながらAyaが駆け寄ってきた。

「向!」

「よかった……!」

「無事だった……!」

向は立ち尽くした。


Ayaの背後。

伸びる黒い影。

揺れる長い髪。

そして。

八本の脚のようなもの。

「……」

「向?」

Ayaは足を止めた。

「どうしたの?」

「私だよ」

「もう大丈夫だから」

しかし向には違って見えていた。

長い髪。

歪んだ笑顔。

耳元に響く女の声。

「捕まえた」

「向」

「ずうっといっしょだよ」

「永遠に」



「違う……」

向は後ずさる。

「違う……」


「向!」

Ayaは名前を呼ぶ。


「向!」


聖も駆け寄ってきた。


「違う!」

「それはAyaだ!」

「落ち着け!」

しかし向には届かない。


「向」

「愛してる」

「向」

「ずうっといっしょだよ」

「向」

「離さない」


頭の中で声が響く。

Ayaは涙を流していた。


「向!」

「私だよ!」

「向!」

「一人にしないで……」

「向!」

「話さないって言ったでしょ!」


だが向の目には。

愛する人を奪おうとする何かに見えていた。


「返せ……」

涙が溢れる。

「Ayaを返せ……」

足元に転がっていた鎌。


震える手で握る。

「向!!」


聖が叫びは無駄だった。

「やめろ!」

「Ayaだ!」

「向!」


Ayaも泣きながら手を伸ばす。

「向!」

「私だよ!」

「お願い!」

「向!!」

「Ayaを返せぇ!!」


向は叫んだ。

静寂。

響いていた声が止む。




倒れたAya。

胸を押さえながら。

涙を流している。

「……あ」

鎌が床に落ちた。

「Aya……?」

Ayaは苦しそうに息をする。

「向……」

「なんで……?」

「私……だよ……」

向は震えながら膝をつく。


「違う……」

「そんな……」

Ayaは微笑んだ。


「向……」

「泣かないで……」

「私……」

「向のこと……」

「大好き……」

「だから……」

「生きて……」


その手が。

ゆっくりと離れていく。

「Aya?」

「Aya……?」

「なあ……」

「起きろよ……」

返事はない。

向は崩れ落ちる。

「ごめん……」

「ごめん……」

「Aya……」

「ごめん……」


心臓を貫くほどの深い傷、大量の血

向は腹を貫いた気でいた、鎌で胸をえぐりそのまま内蔵を一刀両断していた。


聖は何も言えなかった。


ただ。


泣き叫ぶ親友を見つめることしかできなかった。


その時。

遠くの廊下から。

女の笑い声が聞こえた気がした。


いや。

それすら幻だったのかもしれない。


向はAyaを抱きしめたまま、

初めて理解する。

怪物など最初から存在しなかった。

自分が恐れたもの。

自分が疑ったもの。

そして愛する人を奪ったもの。

それは、

自分自身の心だった。

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