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  作者: かいちょ
第1章 罪
7/10

第7話 声

「向!」

「助けて!」

暗い廊下にAyaの声が響く。


「Aya!」

向は迷わず走った。

長い廊下。

崩れた障子。

倒れた柱。

声は確かに前から聞こえてくる。


「こっち!」

「早く!」

「今行く!」

しかし。

どれだけ走っても。

声との距離は縮まらない。

「おかしい……」

向が立ち止まる。



すると。

「向?」

今度は後ろから。

「!」

振り返る。

誰もいない。

「向……」

また前から。

「向……」

今度は右。

「向……」

左。

「向……」

「なんなんだよ!」

向は耳を塞いだ。

その時。

真上から。

「向♡」

「!」

見上げる。


天井。

梁の上に。

長い髪の女。

逆さまになってこちらを見ていた。

顔は見えない。

しかし。

口元だけが笑っていた。

「うわぁ!」

向は転び、必死に走る。

後ろから。

カサ……

カサ……

カサ……

何かが天井を這う音。

「来るな!」

向が逃げ込んだ部屋。

バタン!

襖を閉める。

音は止まった。

「はぁ……はぁ……」

静寂。

すると。

コン。

襖を叩く音。

コン。

コン。

「向?」

Ayaの声。

「いるんでしょ?」

「開けて」

向は震える。

「Aya……?」

「そうだよ」

「開けて」

「怖いよ……」

「一人にしないで」

向は襖に手をかける。

だが。

その時。

部屋の隅。

古びた鏡に映る襖の向こう。

そこには。

人間の足ではなく。

八本の細長い脚が見えていた。

「!」

向は手を引っ込める。

「向?」

「どうしたの?」

「開けて」

「開けて」

「開けて」

声が少しずつ変わる。

Ayaの声。

女の声。

老人の声。

子供の声。

様々な声が混じり始める。

「開けて」

「開けて」

「開けて」

「開けて」

ドン!

襖が揺れた。

「!」

ドン!

ドン!

「向!」

「私だよ!」

「なんで開けてくれないの?」

ドン!

ドン!

向は息を殺す。

そして。

ピタリと音が止んだ。

静寂。

「行ったか……?」

恐る恐る鏡を見る。

何も映っていない。

向は安堵する。

しかし。

鏡の中。

自分のすぐ後ろに。

長い髪の女が立っていた。

「!」

振り返る。

誰もいない。

再び鏡を見る。

女は笑っていた。

「見つけた」

鏡が割れた。




***

一方。

「ふざけんなよ……」

聖は地下通路を歩いていた。

「向!」

「Aya!」

返事はない。

すると。

遠くから。

「聖!」

向の声。

「向か!?」

「助けて!」

「こっちだ!」

聖は駆け出す。

しかし。

暗闇の中。

ライトに照らされた先。

そこにいたのは。

壁一面に張り付く、

無数の人間の顔だった。

「!」

顔たちは一斉に目を開く。

そして。

「聖」

「助けて」

「助けて」

「助けて」

全て向の声で喋り始めた。




***

そして。

Aya。

「向……?」

暗い和室。

誰もいない。

その時。

目の前の障子がゆっくり開く。

そこにいたのは。

血まみれの着物姿の女。

長い髪。

白い顔。

そして。

悲しそうな声で言った。

「あなたは……」

「私から奪わないよね?」


女は涙を流していた。

だが。

その影だけが。

八本の脚を持っていた。

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