第5話 北城到着
「見えた!」
聖の声が山に響く。
夕暮れの木々の向こう。
崩れかけた石垣と、黒ずんだ天守が姿を現した。
「すげぇ……」
Ayaは目を輝かせる。
「本当に城だ!」
向は思わず息を呑んだ。
雑誌で見た写真よりも、ずっと大きい。
そして、ずっと暗い。
辺りには蝉の声すら聞こえない。
風もない。
「なんか静かだな」
「心霊スポットっぽくて最高!」
聖はスマホを取り出す。
「記念写真撮ろうぜ!」
三人は城を背に並ぶ。
パシャ。
「いい感じ!」
Ayaが笑う。
向も写真を確認する。
「ちゃんと撮れてる……」
その時。
画面の端に違和感を覚えた。
「ん?」
拡大する。
しかし、何もない。
「どうした?」
「いや、気のせいか」
三人は石段を登った。
入口の門は半分崩れ、木々に覆われている。
その横には古びた石碑。
文字はほとんど読めない。
だが。
聖が苔を払う。
「なんか書いてあるぞ」
『南無妙法蓮華経』
「お墓かな?」
「城の中に?」
Ayaが首を傾げる。
その時。
ガサッ。
三人が振り向く。
「……猫?」
誰もいない。
木々が揺れただけ。
「びっくりした」
向が笑う。
しかし。
その奥。
草むらの向こうに。
白い着物の女が立っていた。
長い髪。
俯いたまま動かない。
「……!」
向は目を見開く。
「おい!」
「ん?」
Ayaと聖が振り向く。
そこには誰もいなかった。
「どうした?」
「いや……」
向は首を振る。
「見間違いか」
「もうビビってんのか?」
聖が笑う。
「まだ何も始まってないぞ」
「うるせぇ」
三人は城の中へ入る。
床板は腐り。
天井は崩れ。
夕陽だけが廊下を赤く照らしていた。
「結構危ないな」
「こっち!」
Ayaが先へ進む。
「おい、一人で行くなよ!」
向と聖も後を追う。
そして。
広間へ出た。
天井の高い部屋。
壊れた屏風。
朽ちた柱。
そして中央に。
一本だけ。
真っ白な糸が垂れていた。
「なんだこれ?」
聖が近付く。
「蜘蛛の糸か?」
「でかい蜘蛛でもいるのかな」
Ayaが笑う。
だが向は寒気を覚えた。
売店のおばあさんの言葉。
『白い糸を見ても触るな』
「待て」
「触るな」
「え?」
「なんで?」
「いや……」
説明できない。
ただ、嫌だった。
すると。
カサ……
どこかで音がした。
「今の何?」
Ayaが振り向く。
カサ……
また聞こえる。
天井から。
三人はゆっくり顔を上げた。
暗闇。
何も見えない。
「ネズミじゃね?」
聖が笑った、その時。
ポタ。
向の頬に何かが落ちた。
「うわっ!」
触る。
ベタつく。
「なんだ?」
スマホのライトを向ける。
赤い。
血だった。
「……え?」
その瞬間。
二階から。
女の笑い声が響いた。
「クスクス……」
三人の動きが止まる。
「今……聞こえたよな?」
聖の顔から笑顔が消える。
Ayaも青ざめている。
そして。
二階の暗闇の奥で。
誰かがこちらを見ていた。
長い黒髪。
白い着物。
顔は見えない。
だが。
女はゆっくりと。
笑った。
「ようこそ」
その声と同時に。
三人のスマホの画面が、一斉に真っ黒になった。




