第4話 北城への道
夏休み初日。
朝から蝉の声が鳴り響いていた。
待ち合わせ場所のコンビニ前。
「おっ、来た来た!」
聖が手を振る。
隣にはAya。
「おはよう!」
「お前ら元気だな……」
「だって今日だよ!」
Ayaは嬉しそうに笑う。
「北城!」
向は苦笑した。
「まだ行くって決まっただけでそんなにテンション上がるか?」
「当たり前じゃん!」
「夏休み最初のイベントだよ!」
聖も頷く。
「しかも最恐心霊スポット!」
「楽しみすぎる!」
向はため息をつく。
「俺だけ帰りたいんだけど」
「却下!」
二人の声が揃う。
結局、向も笑ってしまった。
「はいはい」
「行けばいいんだろ」
三人は駅へ向かった。
電車を乗り継ぎ、さらにバスに揺られること15分。
町並みは徐々に寂しくなり、山道へと変わっていく。
「すげぇ田舎だな」
「いい感じじゃん!」
Ayaは窓の外を眺める。
聖は雑誌を開きながら言った。
「この辺の人、北城には近寄らないらしいぞ」
「夜になると女の声が聞こえるんだって」
「はいはい」
向はスマホをいじる。
しかし。
圏外。
「あれ?」
「圏外か」
Ayaも画面を見る。
「私も」
「まじ?」
聖もスマホを確認する。
「全滅だな」
「山だし仕方ないか」
バスは終点に着いた。
降りたのは三人だけ。
古びた停留所。
向こうには深い森。
そして小さな売店。
「すみませーん」
Ayaが中を覗く。
店番のおばあさんが顔を上げた。
「どこ行くんだい?」
「北城です!」
その瞬間。
おばあさんの顔色が変わった。
「……帰りな」
「え?」
「日が沈む前に帰りな」
「城には行くな」
三人は顔を見合わせた。
聖が笑う。
「有名なんですね」
しかしおばあさんは笑わなかった。
「昔から言われてる」
「女の声が聞こえたら振り返るな」
「白い糸を見ても触るな」
「そして……」
おばあさんは向を見つめた。
「連れて帰るんじゃないよ」
「え?」
「一人増えてても気付かないからね」
向は寒気を覚えた。
しかしAyaは笑顔だった。
「ありがとうございます!」
店を出た三人。
「めっちゃ雰囲気あるじゃん!」
「最高!」
聖も嬉しそうだ。
向だけが振り返る。
売店のおばあさんは。
店の前で。
こちらを見ながら。
手を合わせていた。
そして小さく呟いた。
「南無妙法蓮華経……」
「どうした?」
Ayaが声をかける。
「いや……」
「なんでもない」
山道を進む三人。
木々の間から。
朽ちた石垣が見えた。
「見えた!」
「北城だ!」
夕日に照らされた廃城。
しかし。
向だけは気付いた。
城の天守。
崩れたはずの窓から。
長い黒髪の女が。
こちらを見下ろしていた。
瞬きをする。
もう誰もいない。
「……気のせいか」
向はそう呟く。




