第6話 頭は重症
薄暗い倉庫街に潮風が吹き抜ける。
人気のないコンテナ群の隙間に、数台の黒い車両が停まっていた。
その影に、第一特務遊撃隊の面々が身を潜めている。
「対象は武装した密輸グループ、人数は8。奥の倉庫に積荷あり」
蓮が端末を確認しながら淡々と告げる。
「見張り二人、建物内六人。銃器所持確認済み」
「8人か、朝飯前だね」
白石が肩を回しながら笑う。
「5分で終了っすね、葛城さん」
蒼真が葛城に声を掛けた。
「……」
葛城は不機嫌そうに黙っている。
「まだ機嫌悪いんすか?」
蒼真が素で尋ねた。
何故か葛城は最近、蒼真に冷たい。
「別に」
「ならいいけどよ」
「よくねぇよ」
「何が?」
「……っ!」
葛城は言葉に詰まり、白石は静かに肩を震わせていた。
「私語は終わったか」
低く響く蓮の声に、全員の空気が締まる。
「予定通り、蒼真、正面突破。葛城先輩と白石先輩は左右制圧。雨宮先輩は既に予定位置に待機済。俺は中へ入ります」
「了解」
蒼真は短く答えると、肩を一度回した。
まだ完全ではない右肩に、わずかな違和感が残る。
蓮がその動きを見逃さない。
「無理すんな」
「誰に言ってんだ」
「お前にだ」
「平気だって」
「その言葉、一番信用ならねぇ」
白石が吹き出した。
「仲良しか」
「違います」
蓮と蒼真の声が重なり、白石は両手を上げる。
「行くぞ」
蓮の合図と同時に、蒼真が駆けた。
一気に距離を詰め、見張りの男の懐へ飛び込む。
「っ!?」
男が銃を向けるより早く、蒼真の蹴りが腹部へ突き刺さった。
体が浮き、そのまま地面へ叩きつけられる。
もう一人が叫びながら振り向く。
「なんだてめ——」
拳が頬を捉え、言葉は途中で途切れた。
「正面突破ってのは、こうやんだよ」
蒼真が鼻で笑う。
左右では白石と葛城がそれぞれ敵を制圧していた。
倉庫内では蓮が二人を沈め、雨宮が裏口から逃げ出して来る男をその正確な射撃で制した。
数分後。
戦闘はあっけなく終わった。
拘束された男たちが並べられ、現場には静けさが戻る。
「……早いな」
葛城が息を整えながら呟く。
「軽い任務だしね〜」
白石はこんなので手間取らないでしょ。と笑っている。
「…組織の末端みたいです、コイツら」
蓮が敵の所持品等を確認し呟いた。
そんな中、蒼真はスマホを確認していた。
画面には新着メッセージ。
麗華
今日も肩、無茶してないでしょうね?
蒼真の口元がわずかに緩んでいた。
「……してねぇよ」
「誰に言ってんだ?」
白石が覗き込もうとして、蒼真に顔面を押し戻された。
「見るな」
「うわ、図星だ。女か」
「うるせぇ」
蓮はため息をつきながら再度、拘束確認を終える。
「蒼真」
「あ?」
「帰り、救護室寄れ」
「は?」
「顔が緩んでて気持ち悪ぃ」
その瞬間、倉庫街に白石の爆笑が響いた。
拘束した敵を一般部隊に引渡し、車両へと戻る道中。
蒼真は麗華への返信に悩んでいた。
「してねぇ」
消す
「問題ない」
消す
「今終わった」
消す。
「ちょ、何してんのw」
蒼真の指の動きを隣を歩く白石が見て、また爆笑している。
「俺が代わりに打ってやろうか」
葛城も笑いながら、蒼真のスマホを取り上げようとする。
「いや、それは俺が」
蓮まで笑って取り上げようとする。
「ふっざけんなっ!」
蒼真が2人の手を払い除けた時だ。
ブブッ。と再び通知がくる。
バッと蒼真はスマホの画面を見つめる。
その反応速度にまたみんなは笑っている。
麗華
返信がないってことは無茶したのね?
「……怒ってる…」
蒼真がどうしようと慌てふためくその後ろで雨宮が呟いた。
「返信遅いと、嫌われる」
「…え……」
蒼真は更にパニックになりかけている。
その時だ。再び通知がなる。
麗華
頭が重症って、何?今度は頭を怪我したの?
「は?」
ふっと隣を見ると、スマホの画面を見せてくる白石。
ニヤニヤしている。
白石の画面には、麗華とのメッセージのやり取り。
白石
神代蒼真、頭の方が重症
麗華
は?どういう事?
「……いや、先輩なんで連絡先…って、違う!!なんで俺のメッセージの相手分かんだよッ!!」
「同期だし、物資の連絡とるもーん。行きつけの定食屋デートはバレて当然だよぉ〜w」
と言うと、白石は逃げるように走り出す。
「いや、待って!!誤解を解いてくれぇ!!」
白石を追い掛ける蒼真。
いや、もういっそ電話した方がいいだろうか?
蒼真はピタッと止まると、意外にもすんなりと麗華へ電話をかけた。
ープルル…。
「蒼真?」
麗華の声だ、ワンコールで出てくれた…。
「あ……えっと…肩、大丈夫だし、頭もなんともない!」
我ながらなんて適当な話し方だろうと思う。
「そっか」
「…まだ、仕事してんの」
「してるよ」
「……迎え行くから、待ってて」
「…わかった」
ープー、プー。
たった、それだけの会話。
蒼真は自分はメッセージより電話の方が向いている事に気がついた瞬間だった。
そして、我に帰って思い出す。
麗華が自分の名を呼んだ事を……。
「……へ?」
蒼真って言った?
蒼真って呼び捨てだったよな?
え…いつも、あんたじゃなかったか?
「おい、神代、運転…ってなんかダメそうだな」
「やっぱ、頭は重症だな」
蓮が思考停止して立ち尽くす蒼真を後部座席へ押し込む。
今日は隊長不在の為、車両が1台。
蒼真の運転で来ていたが…運転出来そうにないので蓮が運転する事となった。
「あれ…定食屋…なんで白石先輩知ってんの…?」
「俺たち、みんな居た」
葛城が返事をした。
俺が東雲狙ってたのに。と呟いた。
「へ?居たの?みんな…」
「居た」
4人の声が重なった。
…全部、見られてた?
「……死にてぇ」
蒼真は頭を抱えながら、座席で体育座りの体勢を取った。
みんなはそんな蒼真をまぁ、別にいいじゃん。と慰めてやったのだった。




