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まだ名も無き怪物達 第1部 ー黎明の牙ー  作者: HANA


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第5話 突破失敗

「腫れなし、うん、可動域も思ったより制限ないわね。痛みは?」

「痛くはないけど、違和感」

「じゃあリハビリと並行して、筋トレ開始許可。戦闘訓練も軽度なものは許可するわ。あと、サポーターはつけときなさい」


ぽいっと麗華は蒼真の膝の上に肩用サポーターを放り投げる。


「雑じゃねぇ?」

「受け取れてるなら問題ないでしょ」

「そういう話じゃなくて」

「文句あるなら、返せ。その代わり、再脱臼しても知らん」

「……つけます」


どうも麗華と話していると調子が狂ってしまう蒼真。

女性相手に自分はこんなだったか?と自問自答する。

頭を悩ます蒼真を見て、麗華は少し微笑んだ。



—この子を見ていると、なんだか放っておけない。



麗華は誰にでもこんな雑な診察をするわけではない。

ただ、蒼真が怪我をしてきた日。

周りが色めき立っていているのに対して無表情なのが気になった。

神代という名前が聞こえた時、総統の息子だと気がついた。

でも、偉ぶるでもなく、媚び諂うでもないその姿は女に隙を見せるつもりはないのだということに気がついた。

そして、それは誰にも本心を見せるつもりもないというかのようで…。

孤独なんだろうか。とも思えた。

しかし、隣にいる蓮には全幅の信頼を寄せているのも見て取れた。

単純に色眼鏡で見られるのが嫌なのだろうと敢えて雑に扱って見たら、素の顔が出て、ガキだな。と思ってしまった。




「そうか、良かったな」

「ご迷惑おかけしました」


蒼真は鷹宮へ報告に来ていた。

迷惑なんてかかってねぇ。と鷹宮は笑う。


「実家にいたんだろ?よく休めただろ」

「隊長…あの2人が揃う家で休めます?」

「まぁ、うるせぇな」

鷹宮隊長も蒼真の幼い頃から橘とよく遊びに来ていた。

怖いおじさんが第一印象だったが、よく肩車をしてくれ、たくさん遊んでもらった。

天音、澪とは付き合いが長く2人の性格については周知のはず。


「本調子まで、まだかかりそうか」

「しばらくは違和感が残るとの話ですが、まぁ動ける範囲でやりますよ」

「…お前はこの第一特務遊撃隊の要…いや、黎明の要だからな」

プレッシャーでも鷹宮はかけたいのか…そりゃ精鋭部隊の突破役なんだから、戦闘における組織の要なのは当たり前だろうと蒼真は首を傾げた。


「まっ、頑張れや」

ニカッと鷹宮が笑う。

蒼真は一礼し、部屋を後にした。



ー今はまだ知らない、この世界の頂点。

次世代へ受け継ぐ彼らが切り拓くだろう。






「何してんの?」

勤務を終え、車へ向かう出口に蒼真がいた。

麗華はいつものように声を掛けた。


「……待ってた」

「は?何を?誰を?」

「いや、あんたをだよ」

麗華は目を丸くした。

時刻は午後21時を過ぎている。

一体、いつから待ってたというのか。


「…腹減った。飯いこ」

「は?なんで」

「理由いるか?」

「いる」

「………治療のお礼…」

ぽつりと俯きながら蒼真が呟くと、麗華は笑ってしまった。

職務なのだから麗華にとって治療する事は当たり前。

ありがとうと言ってくれる患者は多いが、お礼にご飯に行こうなどと誘ってくる人間は麗華の中では前代未聞だった。


「いいよ、お腹減ってるし、ご飯行こ」

麗華は自分の車へと歩き出すが、蒼真に腕を引かれた。

「…何?」

「俺ので行く。乗れ」

「……つーか、あんた年下なんだから敬語使え。命令すんな」

「……はい」


蒼真は言えなかった。

あんたを3時間近くここで待ってて、車が別々なんて拷問だ。なんて言えるわけがない。

だけど、女の車に乗り込むのも違うし…ならば引き止めて自分の車に乗せてしまおう作戦に出た。

が、怒られた。

どうも麗華の前だと自分の調子が狂ってしまう。

そして…麗華の腕を咄嗟に掴んでしまった…。

掴まれたのが嫌だったのだろうか…。


「なーんてね、敬語なんて堅苦しいし、いらないよ。で、あんたの車どれ?」

麗華がそう言うと蒼真は少しほっとしたようだ。


「あれ」

蒼真が指さしたのは白のスポーツカーだった。

「なんか、あんたって超高級車に乗ってそうなのに」

「車はMTのスポーツカーが1番楽しいだろ」

なんで高級車?と首を傾げる蒼真に麗華はまた笑った。

やっぱり、この人は家が名家とかあまり関係ない人間なのだと感じた。


蒼真の車に乗り込み、お店はどこでもいい。と伝えると、車が走り出す。


麗華は驚いた…蒼真は運転が上手かった。

まだ19歳と若い事とスポーツカーということもあり、荒い運転かと思っていたら、全くそんな事はなかった。

運転している横顔を見ると、他の救護メンバーが騒ぐのも分かってしまった。

整った容姿にこの銀髪はみんながかっこいいと騒ぐのは無理ないかもしれない。

いや…騒ぐな、と言う方が無理か。


車内では人の間に会話はなかった。

それでも、空気が重くなる事はなかった。



10分程でお店に着いた。

「…定食屋」

「ぇ、だって腹減ったんだろ?たくさん食える方が良くねぇ?」

キョトンとする蒼真。

俺も2週間来てないから来たかったんだよと笑っている。

「そうだね」

なんだか大人に見えて、時々見せる子供っぽさに麗華は惹かれている事に気がついていた。


定食屋では普通にご飯を食べ、他愛のない話をして、2人は笑った。

国家を最前線で守る男とそれを支える女性の穏やかなひと時だった。


と、そんな2人を見る影が店内に4つ。

コソコソと小声で慎重に話している。


「ぇ、神代と東雲…出来てんの?」

ニヤつきが隠せない白石。


「あの東雲とか?!神代のやつ…」

俺、東雲狙ってたのに!と悔しがる葛城。


「…急いで帰ったのは、女か」

おちょこで日本酒を飲みながら呟く雨宮。


「……アホ」

呆れた声は蓮だ。



蒼真が麗華を連れてきたお店。

それは第一特務遊撃隊の行きつけのお店だったのだ。


戦場では蒼真は敵の包囲網は突破できる。

だが身内の居酒屋チェックは突破できなかった。



ー翌朝。

普段通りに挨拶をするが、葛城だけに無視された蒼真。

「……なんで?」

「お前の存在?」

蓮に尋ねるがその理由を教えない蓮。

蒼真の頭の中はその日クエスチョンマークが支配していた。





おなか一杯食べたい蒼真くん。

こちらの定食屋さんでいつも唐揚げ定食、特盛を注文します。

とりあえず、食べて動く!がモットーの19歳ですw

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