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まだ名も無き怪物達 第1部 ー黎明の牙ー  作者: HANA


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第4話 違う顔

「ただいまー」

「おかえりなさいませ、蒼真さん」


右肩完全脱臼

整復し、2週間の固定に絶対安静を言い渡された蒼真は実家へと戻ってきていた。


蓮の運転で1度、自分の家に戻ったが…。

「やべぇ!飯作れねぇ!」と気づいて急遽、実家で療養する事となった。


「え〜蒼真、帰ってきたの?何しに来たの?あらっ、蓮くん、いらっしゃ〜い」

マシンガントークの達人、蒼真の母、澪。


「いっきに喋んなって。…肩、脱臼した。飯が作れないから帰ってきた」


「蒼真の分なんてないわよ?ぁ、蓮くんは食べて行ってね」


「いや、なんで?」


相変わらず騒がしい母親だなと蒼真はため息をついた。

澪は使用人のいるキッチンに向かい「蒼真がご飯って、連絡したらいいのにねぇ」と話し声がする。

使用人は「奥様、ご連絡ありましたよ?蒼真さんの分、あります」と冷静に返事をしている。


「お前の母さん、変わらないな」

「うるせぇだけだ」

蓮がぽつりと呟く。

蒼真の実家には訓練生時代から何度も来ている蓮。

初めは名家の神代邸の家のデカさに固まっていたが、もう慣れたものだ。

澪は蓮が来る度、ご飯を食べさせてくれて、泊まる時もすぐに部屋の準備をしてくれた。

蓮にとって神代家は第2の実家だ。


「って…右腕使えねぇのに、どうやって飯食えばいいんだ?」

深刻そうに蒼真が呟いた。

それを聞いた澪が食い気だけのアホ。と頭をぺしっ。と叩いた。


こんなやり取りが好きで蓮は思わず口元が緩んでしまう。



ーガチャ。

リビングの扉が開いた。

この家の主であり、黎明総統、神代天音の帰宅だ。


「……蓮?どうした?」

久しぶりに来たのか?と天音は目を見開いている。


「蒼真が怪我をしたので、送ってきました」

「え…俺に報告来てない……」

「申し訳ございません。訓練中に怪我をして、処置してもらい、そのまま帰宅するようにと鷹宮隊長からの指示がありまして…。報告書は明日、提出します」

蓮は天音に頭を下げた。


「あ、うん。報告書とか別に後でいいから、今度から電話くれ」

「あ、はい」

天音は蒼真の事となると仕事を放り投げてしまうことがあると、鷹宮から聞いていた蓮。

今回も鷹宮からの指示であえて報告をしなかったのだ。


ネクタイを外し、天音は蒼真に近づくと心配そうな顔をした。


「蒼真ぁ〜何、どこ怪我した?」

「いや、ウザいわ。右肩脱臼した」

「あ〜脱臼か〜」

命に関わる怪我じゃなくて良かった。と天音は胸を撫で下ろた。


天音の帰宅と共に夕食を食べ、蓮は帰っていく。

久しぶりの実家は疲れたな。と蒼真が部屋へ戻ろうとすると、澪が薬と水を手渡した。


「…何の薬?」

「蓮くんがちゃんと持って来たわよ。鎮痛剤!飲んでから寝なさい」

昔から蒼真は痛くても我慢して痛くないフリをするのを澪はよく分かっていた。

帰ってきてからも一度も”痛い”と言わない蒼真を心配していた。


「……ありがと、母さん」

素直に薬を受け取る蒼真。


母さんはいつも、こうだ。

何か我慢しても、すぐにバレてしまう。


大人しく部屋で薬を飲み、寝る蒼真であった。



ー3日後。

朝、天音の迎えにやってきた橘の車で一緒に本部へ向かう蒼真。

肩の様子を見るから来い。と麗華に先日言われていた。


「なんか、蒼真が朝からいるの久しぶりだな」

橘が笑う。

子供の頃から橘は家によく出入りしていた。

天音の補佐に訓練所教官、この人は働きすぎ。と蒼真は常々思っている。

天音が組織改革として若手育成に力を入れ出しているのは分かるが、橘に負担は多そうだ。

だが、橘は忙しく動いてる方が自分らしいんだよ。と笑った事がある。


「いや〜定期受診とかめんどくせぇ。救護室、女だらけだし」

「でもな、ちゃんと治せよ?女嫌いも分かるけどよ」

「え、蒼真、男好きなの?だから蓮といるの?」

「橘さん、親父の前でその発言は誤解しか生まない」

え?え?と天音はおろおろしている。

仕事中は冷徹な王様に見られ、完璧にしか見られない天音。

それが家族や橘の前では天然爆発だ。

こんなのがトップでうちの組織、大丈夫なのか?と不安になる蒼真。


「え、じゃあ……俺…、孫見れないのか…?」


青ざめている天音に蒼真が「誰もそんな話し、してねぇ!!」と全力で突っ込む。


「考える所、それかよ!」

橘も天音の妄想の行き先に思わず突っ込んだ。


そんな会話をしながら、車が本部へと到着する。

車を降りるとさっきまでの天音が嘘のように、キリッと冷徹な総統の顔になる。

ちゃんと診察受けろよ。と蒼真に伝えると総統室へと天音は振り返らずに歩いて行った。

橘も今日は教官業務で訓練所に行く。と車を動かし去っていく。

残された蒼真、とりあえず部隊へ挨拶に向かう事にした。




「おはよーございます」

「は?」

扉を開けるとたまたま目の前にいた蓮が目を丸くする。

が、すぐ真顔に戻り、ひと言。


「何」

「肩」

「……ああ」


単語で話が通じ合う2人を見て、白石が堪えきれず吹き出した。


「熟年夫婦かよw」


「「違います」」


腹を抱えて笑う白石に2人の否定の言葉が飛ぶ。

ピッタリ揃ったその声に白石はまた爆笑する。


「神代、顔色良さそうだな」

「あー、はい。痛みはだいぶ引けました」

葛城がそれは良かった。と微笑む。


「……神代…すまない…」

雨宮だ。大きな体がなんだか、しょんぼりして小さく見える。

「いやぁ、事故なんで。先輩が責任感じる事、ないっすよ」

飄々と蒼真は答えた。

訓練中の事故なんていくらでもあるし、着地出来なかったのは自分の責任だと思っている蒼真。

もっと素早く身体を捻れば着地決まったかな…等をブツブツ呟く。


2週間固定はデカいが、任務続きだった第一特務遊撃隊は葛城復帰からの蒼真離脱により他部隊からの一時任務受付を中止した。

他部隊からの依頼があれば、第二特務遊撃隊の出撃だ。

現段階で総統の直轄命令がなければ、絶対に第一特務遊撃隊は前線に出ない。

それが蒼真があまり焦っていない理由だった。

直轄命令は国家の重鎮の絡む任務ばかりで、いきなり第一特務遊撃隊に声がかかる事はなく、事前に知らされる。

ただでさえ危険の高い任務が回って来る第一特務遊撃隊、その先行突破の蒼真がいない以上、第二特務遊撃隊で処理出来るだろう、動かない。と鷹宮の決断だ。


「よし、蓮また付き添ってやれ」

葛城が蒼真が何となく救護室にまた行きたくない雰囲気を出しているのを感じとった。

「……はい」

なんでまた、俺…とやや不満そうな蓮だが、行くぞと蒼真の左腕を引く。


「ちょっ、いきなり引くな!バランス崩れるっ!」

「はい、はい」


扉が締まると白石が呟く。


「やっぱ夫婦だろw」


そのひと言に葛城と雨宮も我慢できずに吹き出した。

蒼真の離脱で沈んでいた雨宮の表情が和らいだ瞬間だった。




救護室へ向かう廊下では相変わらず女性達が2人に目を輝かせている。

「神代くんもいい!けどさ…」

「黒瀬くんもミステリアスよねぇ」

そんな女性陣の言葉虚しく、2人は無表情だ。


救護室に入ってからもそれは変わらない。

淡々と診察の旨を伝え待つ。

腹が減った。と蒼真が呟けば、アホだな。と蓮が返す、いつもの2人だ。


蒼真だけが診察室に呼ばれるかと思えば、蓮も呼ばれた。

椅子に腰掛け待つのは麗華1人。

手慣れた手つきで固定具を外すと、服を脱がすのを手伝え。と蓮に指示する。


「…腫れと内出血はかなり引いたね…再脱臼もなし」

真剣な表情で診察する麗華を蒼真は何も言わずに見つめていた。


「ちゃんと大人しく出来んじゃん」

ガキのクセに立派。と麗華が蒼真を小馬鹿にする。

「バカにすんなよ…」

蓮はやけに大人しい蒼真に違和感を覚えた。

蒼真の顔を見ると、真面目な表情にも見えるが口元が少し緩んで、頬が赤い……。


(……照れてる…キモい。でも…蒼真が女にこんな表情は初めてだ)


真面目に麗華の話を聞く蒼真。

蓮はそんな蒼真の様子を見て確信した。



ー惚れたな。



「固定と安静は継続、4日後にまた来て」

「また来んのかよ…」

「は?」

「…すいません、来ます」


麗華の圧で蒼真が小さくなっている。

こんな蒼真は本当に蓮ですら見た事がなかった。


救護室を後にし、一旦、第一特務遊撃隊の部屋へと戻る2人。

蓮は計画立案やらやる事があるから、勝手に帰れ。と追い返された蒼真。

書類作成したいと思った蒼真だが、蒼真の分は葛城がやっているし、利き手が使えない奴がいても邪魔との事だ。

仕方なく、家の使用人に迎えを頼み、組織の玄関前のベンチに腰掛け蒼真は待つ事にした。


風が心地いい。

そんな中、思い出すのは麗華の事だった。




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