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まだ名も無き怪物達 第1部 ー黎明の牙ー  作者: HANA


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第3話 違う女

ーその女は、何かが違った。




「神代〜、ちょっと救護班から物資運ぶの手伝って〜」

デスクで報告書の作成をしていると白石さんに声を掛けられた。


「や、この報告書の提出、今日までなんすよ…」

「すぐ終わるからさ〜」

手伝ってくれたら、今日のおやつにチョコ食べていいよ。と言う白石。

白石に食事管理を徹底された蒼真は久しくチョコを食べていなかったため、チョコ食べたさにすぐに立ち上がった。



「最近、任務続いたから、物資不足で困るよねぇ」

「あーそういや、葛城さんの怪我ってどうなったんすか?」

「明後日から戻ってくるらしいよ〜」

みんな、怪我しすぎで迷惑。と白石が笑顔で話す。

先日の任務で負傷した葛城。

療養期間がもうすぐ終わると聞いて、蒼真は安心した。

仲間が1人でも減ると部隊も成り立たない。



「ねぇ、あれが神代蒼真くん?」

「銀髪だから間違いないよ…!めっちゃイケメン…」

廊下をすれ違う女性隊員が蒼真を見てヒソヒソ声で話している。


「神代、モテモテ〜」

「……興味ないっす」

「え、女に興味ないの?」

「いや、女には興味ありますけど?」

「……意味分かんない」

蒼真も白石にどう説明すればいいのか分からなかった。


昔から女は俺の容姿と家柄に寄ってくる。

顔がいいだの、髪の色がいいだの、神代家が凄いだの…。俺と言う人間を誰も見てないんだ。

家柄の為かお金目的の女も出る始末。

うんざりする程、女の嫌な面を見てきた。

だから、女には興味はあっても、黄色い声を上げてる奴らに興味はない。



救護班の事務室へ辿り着くと、白石が救護員と薬や包帯、その他の医療物資の話を始めた。

その間、蒼真に向けられる救護班の女性隊員からの視線とコソコソ声。

野郎共は実力で潰せても、女には出来ない。

救護班は女性が多い配属先であまり近寄りたくなかった。


「はぁ……めんどくせ」

腕組みをして壁に寄りかかり、白石の会話が終わるのを待つ。

白石と話している女性救護員と一瞬、目が合った。

だが、すぐに視線は外され、また目が合うことはなかった。


(なんだ……あの人…)


こういう時はだいたいの女がまた目を合わせようとするか、恥ずかしそうにしてきた経験がある。

ーでも、あの人は違う…。

淡々と白石と会話を続けている…。



ようやく、白石の会話が終わり、物資を受け取る。


「……白石先輩、さっきの救護員、誰っすか?」

「え?あー東雲の事?薬学専攻した時に同期だったんだけど…アイツ、医師免許持ってるから現場によく呼ばれてるんだけど、珍しく今日は居たな」

「……東雲…」


凛とした話し方。

揺れる長い黒髪。

腕組みしながら白石先輩と話す姿。

……かっこいい女もいるんだな。


「ぁ、ご褒美のチョコあげる」

ポイといきなり白石は蒼真の口へチョコを放り投げ入れた。

「あざす」

チョコを嬉しそうに食べながら歩く蒼真に女性達は皆、熱い視線を送っていた。



2日後、葛城が怪我から復帰。

動作確認の為に第一特務遊撃隊は訓練の運びとなっていた。


「…葛城、蓮。雨宮と蒼真。この組み合わせで組手開始」

鷹宮の指示でそれぞれ組手を開始する。

葛城の動作確認が一番のメインのため、あまり不規則な動きをしない蓮が相手に選ばれた。


蒼真もいつもは葛城や白石とだが、変則的に雨宮とも当たる。

長身で手足の長い雨宮との組手が蒼真は苦手だ。

が、うちのエースがそんなんでどうする。と鷹宮に煽られたら蒼真の性格だ、やらないわけがない。


葛城が蓮と順調に確認をしていく。

可動域等、問題無さそうだ。


ーその時。



ドゴッ。と葛城と蓮の横で鈍い音が響く。


「神代!大丈夫か!?」

雨宮の慌てた声が聞こえる。

座って様子を見ていた白石と鷹宮もすぐに飛んできた。

蓮と葛城は何事かと隣を見ると、右肩を抑え立ち上がれずに地面に横たわっている蒼真の姿だった。



雨宮が踏み込み、蒼真の胸ぐらを掴もうと腕を伸ばす。

だが蒼真は半歩ずらして懐へ潜り込むと、雨宮の軸足を刈り取ろうとする。

しかし、雨宮は体勢を崩す事なく、長い足を活かして一歩引いた。

蒼真が踏み込み拳が空を切る。

蒼真の拳を交わし、雨宮は手首と肘を取る。

次の瞬間、蒼真の身体が宙を舞う。


(…あれ、ヤバい、これ…頭から落ちる)

蒼真はいつもと投げられた角度や勢いが足りず、宙を舞う高さが低い事に気がついた。

咄嗟に空中で身体を捻り、頭からの落下を避けようとしたが、やはり高さが足りず、体勢を崩したまま右肩から落下してしまった。

落下の瞬間、右肩からガクッ。と鈍い音が耳に響く。

同時に激しい痛みが蒼真を襲う。

第一特務遊撃隊の全員が起き上がれない蒼真を心配している。


(……やべぇ、肩外れたな、こりゃ…でも、立たなきゃ…)

激しい痛みの中でろくにみんなに返事も出来ていない。

呼吸をするだけで肩が脈打つ。


「神代、おい、大丈夫か!!」

鷹宮の声だ。

「隊長、これ多分肩外れてます」

白石が一瞬で肩の脱臼に気がついた。

関節の変形はすぐにバレてしまう。

「すぐ救護室に連れてけ。蓮、頼む」

「分かりました。ほら、立て」

白石と蓮が蒼真を支えて立ち上がらせる。

蒼真は何とか歩けそうだ。

「救護室、行かないです。自分で戻します」

蒼真はあの女だらけの場所にこんな状態で行くのは御免こうむるという表情だが、そんな事を隊長も白石も許さず、蓮に救護室へと連行された。


「失礼します。すいません、怪我人です」

蓮が救護室の扉を開け、処置お願いします。と頼むと女性隊員が2.3人駆け寄ってくる。

「ぇ、どっち??」

何故か目を輝かせている救護員に蓮は眉を歪めた。

怪我人がいるのに、この目の輝かせ方はどちらかと言うと好意の眼差しだ。

「…こっち」

蒼真が救護室に行かないと言った理由が蓮には分かってしまった。

少し面倒くさそうに蓮は蒼真を指さした。

「え〜神代くん、大丈夫?」

「痛い?座って〜」

甘ったるい声を出す救護員達が蒼真を椅子に座らせる。

蒼真は無表情だ。

「ねぇ、どいて。怪我どこ?」


揺れる長い黒髪。

切れ長の目に凛とした表情。

甘ったるい声も出さないで真剣な目でこちらを見てくる。


何故か答えない蒼真に変わり、蓮が答えた。

「右肩です」

「あ〜完全脱臼してんね。整復するから大人しくしとけ」

雑な話し方に蒼真は目を丸くした。

まるで男友達のような話し方だ。

「おい、黒髪の坊主、この白髪頭の坊主の服脱がすの手伝え」

「あ、はい」

「いや…白髪じゃねぇ!」

シルバー何だよ!と言い返そうとする蒼真をその女性はギロリと睨みつけた。

目線だけで、黙れ。と訴えてくる。

蓮はこの人に逆らってはいけないと思ったのか素直に指示に従い、蒼真の装備と服を脱がしていく。

「さて、整復するよ。暴れんなよ、力抜け」

「力抜くって、どうや……」


ーゴキッ。


「……痛ってぇぇぇ!」

右肩がハマると同時に蒼真の絶叫が救護室に響き渡る。

他の女性隊員が、神代くん…可哀想…でも、可愛い、かっこいいと呟いている。

しかし、整復を担当した女だけが

「うるさ」

冷たく言い放つ。


(…何だ、この女…)

蒼真がそんな事を思っている間に右腕はガッチリと動かないように固定されていく。

お前、三角巾じゃ動きそうだな。と呟くと、肩固定装具をつけられ、アイシングをされる。


「固定は最低でも2週間。絶対安静」

「は?!2週間?!」

そんなに固定してたら動かなくなる!緊急任務があったらどうすんだ!と蒼真が噛み付くが…。

「お前、脱臼舐めんな。無理したら再脱臼するし、リハビリちゃんとしないとクセになる。今後も第一特務遊撃隊に居たいなら、神代蒼真、言うこと聞きな」

なんで、俺の名前も所属も知ってんだ…と突っ込もうと思ったら、蓮が救護室利用表に所属と名前を変わりに書いていたらしい。

「……あんた、名前は」

こっちばかり知られてはムカつくと蒼真が女性隊員へ名前を尋ねた。


「東雲麗華」


名前を名乗ると麗華は、処置室の奥へと戻って行った。




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