第1話 暴れて来い、ガキ共
ーパンッ。
朝露を割いた一発の銃声。
敵の眉間へ、狂いなく弾丸が吸い込まれた。
それを合図にするかのように蒼真が人質を奪還する。
敵残党を鷹宮、蓮が殲滅していく。
圧倒的な強さに怯んだ残党達が出口へ走る。
しかし、突然崩れ落ちる残党達。
背後には敵のアキレス腱を的確に切り裂く葛城の姿。
別出口から建物の外へ人質を抱えた蒼真が飛び出してくる。
待ち構えていた白石が援護しつつ車両へと走り抜ける。
「人質に怪我は」
「左肩にナイフによる切り傷確認。出血は少量」
「よし、神代お前は?」
「なしです」
車両へ乗り込み、白石が人質の状態確認を行う。
怪我はしているが命に別状は無さそうで胸を撫で下ろした。
「殲滅終了したぞ」
ライフル銃を抱えた雨宮が戻ってきた。
「おい、神代、予定より1cm立ち位置ズレてたぞ。お前の頭を撃ち抜く所だぞ」
作戦通りやれよ。と雨宮が冷たく言い放つ。
「いや、現場で1cmは誤差だろ」
「俺は1mmもズレない」
「むしろ、撃ち抜いてあげた方がうるさいの治るかもね〜」
白石が笑顔で毒を吐いた。
この先輩達、異常者だ。と蒼真は常々思っている。
そんな話をしていると隊長鷹宮と共に蓮と葛城が戻ってきた。
「後処理は他の奴らに任せて帰るぞ。人質は救護班に引き渡しだ」
鷹宮の指示を受け、白石が人質を救護班へと引渡しに向かう。
「なぁ、蓮」
重たい装備を外し、本部へ戻る支度を始める蒼真と蓮。
「あ?」
「現場の1cmって、誤差だよな…」
「……俺達には誤差だ。でも、雨宮先輩にとっては違うんだよ。狙撃、めちゃくちゃ難しくて俺達も大変だっただろ」
「あれ、的のど真ん中に当たんねーのな。……それ毎回決める雨宮先輩ってやっぱり異常者だな」
精鋭部隊に配属されてから任務をこなしている。
精鋭部隊狙撃手の雨宮先輩の射撃の腕は一流だ。
狂うことなく、作戦通りの狙った場所へ弾丸が放たれる。
雨宮先輩の狙撃がなければ、任務が失敗したのでは。と思う事もあった。
精鋭部隊に来てから、蒼真は先輩達の能力の高さに関心を持った。
まぁ、なんでも成績はほぼ1位を取って首席で卒業した奴だ…。
自分より優れた才が光る先輩が気になるのも不思議じゃない。
「おい、小猿2匹、運転早くしろー」
鷹宮隊長の声で2人は車両の運転席へそれぞれ乗り込み、本部を目指した。
「第一特務遊撃隊6名、無事に戻りました」
鷹宮が天音へ帰還挨拶をする。
これでやっと任務が完了だ。
「…ああ」
今日の天音は忙しいのか、書類から顔をあげる事なく、返事をする。
こういう日はよくある。
鷹宮隊長の話だと橘さんが教官業務を兼務し始めてから、総統の仕事量は増えたらしい。
橘さんはあと2年教官業務が延長された。
元々は俺と蓮の卒業までの予定だったらしいが…。
6名で一礼し、部屋を後にしようとすると、天音は鷹宮隊長だけ呼び止めた。
隊長を残し、他5名は部屋を出ていく。
「どうされました」
「…蒼真と蓮は使えるか?」
鷹宮は腕組みし、目を閉じた。
少し考えてから目を開ける。
「2人とも機動力は申し分ない。蓮の冷静な判断は役に立つが、まだ甘いな。……蒼真は周りが見えなくなる事がままある、感情で走る。まぁ、実戦を詰めば問題ないだろう」
「そうか…」
「だが、2人とも猿だ。あの口喧嘩はどうにもなんないのか…」
任務での2人の活躍は申し分ない。
だが、1日1回は必ず口喧嘩が勃発する。
少しは仲良く出来んのか。と注意しようものなら、2人とも口を揃えて「こいつ、ムカつくんで」としか言わない。
「あれは2人の会話みたいなものだから、気にするな」
やっぱり口喧嘩は直らないか、と天音は少し笑う。
「まぁ、その辺は他の3人がわかってくれてるから助かってはいるよ…隊員の編成は正解だったな」
第一特務遊撃隊は隊員編成が実施された。
葛城を筆頭に雨宮、白石に白羽の矢が立ち、蒼真、蓮は異例の1年目での配属となった。
だが、古参幹部とは揉めに揉めた。
こんなに若手ばかりで組織の精鋭部隊、第一特務遊撃隊が成り立つのか?と。
そこで橘の教官としてのひと言だ。2人の訓練生時代を監督していた者の意見は大きかった。
蒼真と蓮の訓練生時代の先輩3人は問題児の2人をよく知っている。何より、葛城がその2人の指導係を任されていた事も大きい。
蒼真と蓮を離す事も考えたが…2人の連携攻撃が使えなくなるもの惜しい。
鷹宮以外の人間も蒼真と蓮を使いこなせないだろう。
「黎明きっての若手精鋭5人だ。あいつらがいつか背負って行く道を鷹宮、お前が教えてやってくれ」
「…本当に、王様は勝手な事を言うよ…」
鷹宮は頭を掻きながら続けた。
「次の世代の怪物達の牙でも鍛えてやるか」
ニヤッと笑うと鷹宮は総統室から出てゆく。
その背中が大きく頼もしいと天音は1人微笑んだ。
「……やっぱり唐揚げは学食の方が美味い」
本部食堂で食事を摂る、精鋭部隊の面々。
蒼真は唐揚げが大好きだ。
「あと、量少ない」
いつまで育ち盛りなんだよ。と雨宮が呆れた顔をする。
「まあ、神代は食ってる時、幸せそうだからなぁ」
白石は訓練生時代に蒼真が学食へダッシュしているのを目撃していた。
食べて動いて忙しい奴だな。と思っていた。
「でも…栄養バランス悪いから。炭水化物多すぎ、もっとタンパク質、ビタミンも摂れ。あと、糖分摂取過多!」
「でたよ…白鬼の栄養管理」
明らさまに蒼真が嫌な顔をする。
医療や栄養学のエキスパートの白石から食事内容の指摘を受け続け、蒼真は白石を白鬼と呼ぶ様になっていた。
常々、蓮にも言われて来た事ではあるが、糖分摂取はどうしても辞められない。
「糖分はご勘弁を。集中出来なくなる!」
「最もらしく言ってもダメ」
ニコニコしている白石だが、そろそろ言うこと聞かないと絞めるぞ?と目が笑っていない。
「で、蓮?」
「……はい」
「お前もそのマヨネーズいつ辞めれる?」
もちろん、蓮のマヨネーズも例外ではなかった。
マヨネーズをかけるな、とは言わないがお前のかけ方は異常だ。と何度も怒られている。
「……」
「おい。いつ辞めんの?」
蓮は悲しい目で手に持つマヨネーズを見つめたまま動かなくなった。
「白石、マヨネーズは蓮の精神安定剤だから、取り上げるな」
葛城が蓮、泣きそうだぞ。とフォローを入れてくれた。
「でも、お前らちゃんと言う事聞けよ。白石怒らせると…」
言いかけた雨宮の食事トレーにサラダが乗せられる。
雨宮は何も言わずにサラダを食べ始めた。
蒼真のトレーにも白石はサラダを追加する。
「え…」
「逆らうな」
ひと言、雨宮は蒼真に告げた。
白石の目は食べるよな?と無言の圧をかけてくる。
「食べます…」
白石の無言の圧に震えながら、蒼真はサラダを食べ始めた。
蒼真の隣では蓮がまだマヨネーズを持ったまま動かない。
適度な量ならいいんだよ。と白石に言われた蓮は目を輝かせ、自分なりの適度な量をサラダにかけたが、その瞬間、マヨネーズは取り上げられてしまった。
蓮は絶望し、机に突っ伏し塞ぎ込んだ。
「……だから言っただろ」
塞ぎ込む蓮を憐れむ葛城。
「学習しろよ」
当たり前の結果だ。と雨宮は呆れている。
「……先輩、怖い…」
蒼真は震える箸で静かにサラダを口へ運び続けた。
そんな隊員達の様子を食堂へ遅れてやってきた鷹宮が、ガキ共、仲良いな。と眺めていた。
そして、自分達の若かった時代とそっくりだな。と笑ってしまう。
スイーツが大好きで、優雅にアフタヌーンティーをし始める天音。
好きなメニューばかり食べて怒られる自分と大和。
そんな3人を叱りつける澪。
懐かしい思い出の日々だ。
鷹宮は食事を受け取ると5人のテーブルへと腰掛けた。
「あんまり、後輩虐めるなよ、白石」
「いや、この2人が異常過ぎます」
「でもな…蓮なんて再起不能だぞ」
栄養管理はもちろん大切だが、心の支えを奪われ、立ち直れない蓮の背中を鷹宮がぽんっと叩く。
蓮は目が虚ろでぶつぶつと、マヨ…マヨネーズをください。と呟き続けている。
あまりの狂気に白石は量は考えろ。とマヨネーズを蓮に返すと蓮の目に光が戻った。
「昨年度、次席卒業生がマヨネーズ1つで壊れるのか…」
雨宮は真面目な蓮の一面が面白いらしい。
熱心に銃の整備や射撃の質問をする蓮からは想像もつかない姿だ。
「寮の部屋の冷蔵庫やばかったすよ」
蒼真が追い討ちをかけた。
「余計な事、言うな」
正気を取り戻した蓮がすかさず蒼真へ突っ込む。
また口喧嘩が始まるぞ〜と葛城が笑う。
「さて、てめぇら飯食ったら、装備点検後14時30分に会議室集合な」
鷹宮の言葉で食事を終えた5人は頷き立ち上がると食堂を後にする。
「あれが精鋭部隊…?」
「食事管理も出来ない青二才どもだったぞ…」
「でも、実力保証は橘さんがしてるからなぁ…」
「…総統も橘さんも、坊っちゃんに甘いんじゃねぇのか?」
一般戦闘部隊の隊員達が冷ややかな視線を5人へ送る。
坊っちゃんっという単語に反応し、引き返そうとした蒼真の腕を蓮が引き戻す。
「相手にすんな。僻みだろ」
「……分かってる」
蒼真は総統である父、天音の息子だからコネで精鋭部隊に配属された。と馬鹿な噂を立てられ、坊っちゃんと影で言われている事を知っていた。
訓練生時代から、任務参加もしてきて実績があると認めてもらっているはずだが、やはり19歳での入隊をよく思わない人間もいる。
蓮に対しても同じだ。
「1回、実力間近で見せてみるか」
「問題児だけど、問題はない」
「判断力、機動力なんて僻んでる奴らに比べたら、段違い〜」
先輩3人がわざと食堂全体に聞こえる様に声を上げた。
蒼真と蓮を守るかの様なこの言葉は、自分達にも言い聞かせているのだろう。
3人も同じ様に噂を立てられている。
装備の点検を終え、5人は14時25分に揃って会議室へ入室する。
基本的に5分前行動をしているため、鷹宮の姿はまだない。
5分後、鷹宮が入室。
鷹宮の後ろからもう1人が続く。
一般戦闘部隊の隊長だ。
「明日、午前10時より北支部、野外練成場で一般部隊との合同訓練が決定した」
鷹宮は5人の顔を見る。
葛城、雨宮、白石はまぁそうなりますよね。と言う表情をしている。
蒼真はニヤっと不敵な笑みだ。
うるさい小バエをやっと黙らせる機会が来た。とでも言う表情。
蓮は表情を崩していないが、その目は鋭く光っている。
「それでは、明日はよろしくお願いします」
嫌味な話し方で挨拶をすると一般戦闘部隊の隊長は部屋を出ていく。
鷹宮がもう1度5人を見ると、全員が殺意を込めた目で見送っている。
やっぱり、コイツらは面白い。
「いいか、怪我を”させるな”、するな」
鷹宮は”させるな”だけを強調した。
するな、はお前らが一般隊員相手に攻撃を食らうわけないだろ?という言い方だ。
「だが…プライドはぶっ壊してやれ」
鷹宮は不敵にニヤっと笑う。
「うわぁ、隊長の悪い顔、出たぁ」
白石が隊長は参加しちゃダメですよ。と釘を刺す。
「とりあえず、黙らせる、でいいんですね」
普段から鋭い目つきの雨宮の目が鋭さを増す。
「理解させる前に終わらせます」
ふっと笑う葛城。
「……潰します」
蓮の目もいつもより鋭い。
「ぶっ壊してやるよ」
蒼真が獲物を狩るかのような鋭い目つきになる。
「暴れて来い、ガキ共」
ヒカリを結ぶとキャラ名が同じですが、別人さんですm(_ _)m笑
訓練所の設定も被っていますが…彼らに執事の要素はありませんw




