仕込むヤツ
私が出席しなかったお茶会に出したお菓子がすごく美味しかったとブルーナさんが言うので、パトリツィアたちが来ない日に、お願いしてそのお店に連れていってもらった。
確かに美味しかった。
でもこの日のメインは、帰りにお茶して念願の私の人物評を聞けたことである。
私とパトリツィア、ふたりまとめて以下のようなお言葉をいただいた。
「何か隠していますね。でも、きっと私にとって重要なことではないです。
特に興味もないので、気にせず普通の学友としてお付き合いしたいと思っています。どうせ卒業したら疎遠になるでしょうけど」
隠してるのは当たってるけど、最後の要る?
まあでも、悪意は全く感じないし、ブレなくていっそ清々しい。
学生時代の友人なんてそんなものだ。
気になっていた婚約者さんのことを訊いたら、別に照れるでも隠すでもなく、淡々と話してくれた。
婚約者さんは1歳年下の子爵家嫡男であること。
親同士が決めた結婚だけど、性格もいいし特に不満はないこと。
ちょっとボヤっとしたところがあるので、実家に戻ったら厳しくしつけるつもりでいること。
最大の魅力は彼もお芝居が好きで、しかも実家がお金持ちの商人貴族家であることだそうだ。
「領都に劇場を作ることを考えると、嫁ぎ先の資金力は重要です。
そのためにも、私はしっかりお金を稼げるように彼を育てなければいけません」
14歳でこれっすよ。
好きなことのためとはいえ、どんだけ先を見てるんだか。
嫁ぎ先の商売繁盛の未来は約束されたも同然だ。あと婚約者が完璧に調教される未来も。
もうお見それしましたとしか言えない。
「そういえばビアンカさん、感謝祭の屋台情報などはお持ちですか?」
「感謝祭?」
「はい。再来週です。
婚約者を案内したいのです」
「そっか、忘れてた。もうそんな時期か」
去年は王都に来たばかりの受験生だったから自重したんだった。師匠が下宿する前でお金も節約中だったしね。
「ごめんなさい。実はまだ行ったことがなくて、何も知らないのよ」
「そうですか」
「あ、知り合いの冒険者なら詳しいかも。
私も知りたいから、今度訊いてみる。
面白そうなのがあったら教えるね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
ブルーナさんは寮生なので門限前にさくっと別れて、市場経由で家に帰った。
夕食の時に師匠に訊いたら、さすが冒険者、かなり詳しく知っていた。
夜のお酒関係の情報は必要ないので、食事系と甘味系、各5店をピックアップしてもらった。
どれも去年までの情報で、今年は出ない店もあるかもってことだが、全部出ないってことはないだろう。
その日はおやすみの師匠も付き合ってくれるそうなので心強い。
私は、しょっぱいもの中心に攻めるつもりだ。お茶会で舌が肥えてしまったので甘いものは基本パス。
「モアナちゃんと行くと屋台の人が色々くれるから、味見して美味しかったら買うといいよ」
それ、いっしょにいる私が確実に保護者だと思われるよね?そんで状況によってはお金払わなきゃなんないよね?
「そこそこお金持ちなんだから今年はやらないでね」ってお願いしておいた。
それでも何か貰ってきたら、味見に付き合ってあげてもいい。
翌日、早速ブルーナさんにその情報を伝えて感謝され、だんだんお祭りを楽しむ気持ちが盛り上がってきた3日後。
いつもの3+1人で家でおしゃべりしていた時、ジョゼが思い出したように言った。
「あ、そうだ。
ビアっちさ、次の休み、時間あったらジジイのとこ行ってくんね?
なんか話があるっつってんだけど」
ジジイというのは大将のことで、ランギーニ子爵は「父ちゃん」。最初混乱したけどもう慣れた。
ちなみに義母のヴァンナさんは「母さん」で実母のエルマさんは「母ちゃん」。
男性陣の家庭内序列が察せられる。
「いいけど、何だろ?
この前お米は納品したばっかりだし」
「さあ。行ってみればわかんじゃね?」
「それはそう」
で、行ってみてわかったことはなんとも微妙だった。
「祭りに出すメニューなんだけよ、ビアっちが前に言ってた納豆と塩辛とアラ汁にぬか漬けもセットにして定食にしようと思うんだけど、一応断っとこうと思ってな。
ぬか漬けはビアっちの発明だしな」
「いやそんなことより、アレやるんですか⁉」
「おう。毎年そうなんだけど、祭りん時はすっげえ混むんだよな。
客が来てくれんのはいいんだけどよ、混み過ぎて厨房は回んねえし、酔っぱらってわけわかんなくなった一見は来るしで困ってたのよ」
「はあ」
「かと言って、常連で普通に食いに来るやつもいるから店閉めるわけにもいかねえしさ。
そんで、なんか客を絞れる方法はねえかって考えたら思いついたってわけよ。
メシと汁だけ準備しておけば手間もかかんねえし、何より客が来なそうでいい!」
いや、そうかもしんないけど言い方。
「でも、そしたらみんな他のメニュー頼むんじゃないですか?」
「そんなの頼ませねえようにすりゃいいだろ?」
「どういうこと?」
「その定食しか出さねえ」
「はあ?」
無茶にもほどがある。
「ごく一部には好評かもしれないけど、お客さん離れますよ?」
「問題ねえ。その日限定だし、常連には裏メニューで他のも出す。
一見対策だ。
あ、でもわかんねえヤツはそれでも入ってくっか。
じゃあ表の目立つところに『臭いもの専門店』って張り出しとくか。
いや弱えな。いっそのことその日だけ店の名前も変えるか。
ビアっちなんかいいのねえか?」
どんどんアイディアが湧き出る大将は、危ない臭いのする計画をぐいぐい進めていく。
「その前に、ほんとにやるの?
私はやめた方がいいと思うけど。
メニュー会議の時は半分ネタみたいなものだったし、クレームが出ても知らないからね?」
「心配すんな。こっちも祭りの遊びみてえなもんだ。こんな時じゃねえと出したくとも出せねえ」
「まあ、それはそうだけど」
わかるけど、遊びでもやめた方がいいと思うんだけどなあ。
「そんで名前なんか思いついたか?」
「もういっそのこと『臭い屋』とかにでもしたら?
アラ汁の味付けも魚醤にして」
「おお!いいな、それ!」
「いや冗談だからね?」
「冗談でもなんでも、気に入った!すっげえわかりやすい。
ガルムもその通りだ。そっちの方が臭え。
俺にはその発想はねえわ。
センスいいなビアっち!」
どうしてだろう。褒められてるのにちっとも嬉しくない。
こうして私発案の定食はさらなる進化を遂げ、私が名付けた感謝祭限定のお店『臭い定食専門店、臭い屋』の看板メニューとなることが決まった。
知ーらないっと。
私はバイトに誘われたが、当日は先約が入っていると断った。
ジョゼによると、大将はだんだん楽しくなってきて、臭いもの好き仲間、略してクサ友のリベリオ・ランギーニ子爵といっしょに定食のブラッシュアップに勤しんでいるらしい。
実父と義父、揃って何やってんだか。
でも、完成した定食を試食させてもらったら、「我ながらすげえのできた」って自慢するだけのことはあった。
遊びなのにさすがのクオリティー。脱帽です。
特にアラ汁。
臭いは臭いんだけどそれより旨味がすごくて、これはハマる人はドハマりするやつだと思った。
「アラの臭みは徹底的に取る。そんで臭えのはガルムだけにすっと、魚の出汁の匂いと合わさってすっげえそそる匂いになんだよな」とのことだ。
ガルムは王都ではマイナーだけどこの国に元々ある調味料だし、これはひょっとするとひょっとするかもしれない。




