わかってないヤツ
「まずはお疲れー。作戦成功おめでとー」
ニコロがお茶のカップを軽く掲げる。
アレ君がそれに倣いながら、半信半疑といった顔で言う。
「成功だったのか?
僕たちは外にいたから何があったか全くわからないのだが」
「あ、そっか。じゃあスラちゃん、説明よろ~」
「え?私?」
いや、そこは首謀者のあんたがやりなさいよ。
「だってさあ、スラちゃんなんもしてなかったじゃん。王子の顔をニヤニヤ見てただけで。
だよね、ブルーナちゃん」
「ええ。変質者の目でした。気持ち悪かったです」
「う……」
「あ、僕もそう思った!
あのさ、」
「はい! 報告します!」
話が拡がりそうになったので私は慌てて挙手した。
そりゃ持って帰りたいとは思ったけどさ、そこまでいうことないじゃん。
てかお前ら息ぴったりだな。もう結婚しろ。
私はサロンでの出来事を話した。
「――というわけで、ほぼブルーナさんの独壇場でした。
ニコロさんの秘密のアイテムなんか出る幕もなかったです」
「ぷっ」
ニコロが小さく噴いた。私、皮肉を言ったんだけど。
ブルーナさんは小さくため息。
え?もしかして私またなんかやった?
「ほらね、やっぱわかってなかった。
パトリツィアちゃん、わかった?」
「はい。フランが秘密のアイテムだったのですよね?」
「せいかーい」
「そうなの⁉」
がーん!
パトリツィアにも負けた!
「ってことで、みんなはもうわかってると思うけど、僕が考えてた計画を変態スラちゃんのためにザクッと説明するね」
「変態じゃない!」
「ふーん。変態さんはみんなそう言うよね。
じゃ、自称変態じゃないスラちゃんはよく聞いてね。
僕はパパから聞いて前から知ってたんだけど、王子はね、太りやすい体質で王家から徹底的に食事制限されてるの」
そういえばそんなことを聞いたことがあるようないような。
「子供の頃は許されたとしても、これからだんだん人の前に出る機会が増えるでしょ?
ちっちゃくて太ってたら王家の恥って言われちゃうからね」
「そんなの気にしなくていいじゃん、個性なんだから。
あんなに寂しそうな顔をさせてまでやる必要ないと思う」
小太りの小動物もかわいいでしょ?
「そうは言うけど、かっこいいって人気の王太子殿下と並んだら比較されちゃうでしょ?
王家なりの愛情なんだよ、知らないけど。
それに、寂しい顔してても別に深刻な問題じゃないからね?」
「え?」
「何か勘違いしてない?
ほら、僕らが最初にこの話をしてたときあったじゃん。あの時も女子が持ってきたクッキーをずっとチラチラ見てたでしょ?
寂しそうな顔するのは、自分がそれ食べられないから。
僕は見てないけど、あの時もそうだったんじゃない?」
え? あれ、私じゃなくてクッキー見てたの?
目も合ってなかった?
「ぐっ……」
こ、これは恥ずい。
王子がお笑い設定だったのすっかり忘れてたよ……。
「なんかスラちゃんが衝撃受けてるけどそれはほっといて、そんなわけでマルコがいつも難しい顔してるのも、原因の半分は王子が『お腹空いた』ってずっとつぶやいてるせい。
バカだよねえ、イライラしてもしょうがないのに」
唇が動いたのは「お腹空いた」ってつぶやいたから……。
ひどい。私の心配を返せ。
「でも、みんなのおかげで王子を引っぱり出すことができそうだから、マルコのストレスもちょっとは減るんじゃないかな。
感謝してほしいよね。教えないけど」
「なるほど。全て納得がいった」
リコ君が頷いた。
うん。私も納得したけどさ……。
「問題は王家の考えに逆らうことになるという点だが、それは大丈夫なのか?」
アレ君の懸念はニコロが一蹴される。
「だいじょぶっしょ。週に一度だし、マルコも知らないし。
王家としても、王子殿下がここまでクラス馴染んでいないとは思ってないだろうから、万一王子の口から漏れても問題になんかなんないよ。
これで王子の引っ込み思案が治ったりしたら、逆に王家から褒められるんじゃない?」
それはそうかも。
別に褒められるのはどうでもいいんだけど、王子って頭がいいんだよね。
ステファノが飛び級していってからずっと試験結果はずっとトップ。
肥満体質が治んなくとも、ビビリ体質が治れば、次王を支える優秀な王弟へと成長するだろう。
弱い者の気持ちがわかるから、国民からも人気になるんじゃないかな。
って言ったら、ニコロもコクコク首を振った。
「だね。僕も王子は隠しとくにはもったいないって思う。
ってことで、あとは君たちの頑張り次第って感じ?
特にブルーナちゃんとスラちゃん。毎週のお茶会よろ~」
「承りました。
ですが、その口ぶりだとニコロ様は参加されないのですか?」
「うん。僕に頼りたい気持ちはわかるんだけど、全部僕がやったらつまんなくない?
それに、僕色々忙しいんだよね」
「そうですか。毎日充実されているようで何よりです。
今回はありがとうございました」
ブルーナさんが真面目な顔で頭を下げた。
それ「君はもう用済み」ってことよね?
「気にしないでいいよー。
あ、ヤッキオ君の説得まではしてあげるから安心して。
じゃ、デートの時間だから帰るね。
ごゆっくり~」
人生ピークのニコロは、ヘラヘラ笑いながら店を出ていった。
チャラ男がいなくなると座は急に静かになった。
ホッとため息をつく。やっぱ陽キャは苦手だ。
私たちは、来週からのお茶会の打合せを軽くした後、改めて乾杯して解散した。
翌週、秘密のお茶会は無事開かれ、王子派の幹部会が開かれない時を除いてその後も続けられた。
定例会情報はヤッキオ君が事前に仕入れてくるので、準備が無駄になることもない。
ニコロから「お茶会に王子を参加させろ。じゃないと王子をひとりにしたことをマルコに話す」と説得され、ヤッキオ君はあっさり共犯者に堕ちた。
話してみると割と気さくでいい子。
ちなみに「ヤッキオ」というのは姓で、名前は「ジャンバティスタ」だそうだ。
王子派の一番下っ端で、名前で呼ばれず若干疎外感を感じているらしい。
わかるような気もするが、ごめん、こっちももうヤッキオ君で定着しちゃったから。
あまり人数が増えてもマズいので、お茶会の参加者は最大5人までとしている。
王子とヤッキオ君以外にはブルーナさんが固定。残りのふたりはアレ君&リコ君か私&パトリツィアが交代で参加するかたちだ。
アンネッタさんの許諾はなんとか下りた。
お菓子はこちら側が持参する。お代は王子がお小遣いから出す。
王子は「お金の使い道ができた」って嬉しそうだった。
私たちのお菓子は、今のところアンネッタさん推薦のお店で調達しているけど、私は密かに芋ようかんを出すタイミングを狙っている。
週一回だけどスイーツ欲が満たされ、お茶会の面々ともビビらずに話せるようにもなり、王子のオドオドしたところはだいぶ改善された。
パトリツィアに対しても、スライムの話をしない限りは平気だ。
ニコロがいたら「スラちゃん」呼びで私の方が怖がられていたかもしれない。
ブルーナさんは王子の調教師が完全に板につき、自由に言うことを聞かせられるようになってきた。
昼休みに王子が散歩しているのは、彼女が「運動すればお菓子をもっと食べてもOK」と教えたからだ。
ヤッキオ君情報によれば、マルコは「私の進言で王子が体を動かすようになられた」と自分の功績のように言っているらしいが、何もわかっちゃいない。
そしてこの前、ついにブルーナさんは念願の劇場の貴賓席チケットをゲットした。
「父上宛にいつも送られてくるけど、誰もめったに行かないからまたあげるね」
って言われて机の下でグッと勝利の拳を握りしめていた。
今回は王都に遊びに来る婚約者と行くそうだ。
婚約者。
ブルーナさんはまだ掘れる。
そう確信した瞬間だった。




