息子なヤツ
夕食はクリームシチュー。
食べながら相談してみたらストレートで明確な意見が出た。
「凸れ!」「凸る!」「マルコを凹れ!」。
発言者は、順にジョゼ、パトリツィア、師匠である。
オール物理……。
ああ、でもそういうことかもしれない。
王子派がやっているのは言わば籠城戦だ。
これまでのような単独の散発攻撃では攻略することはできない。
そう考えれば、「凸」も「凹」も戦略としてはありだ。
クラスがいくつかのグループに分かれているので、総員突撃!みたいなパワープレイは無理だったが、今回はアレ君が取りまとめをしてくれる。
パトリツィアが鼻息荒く凸るよりも、みんなでわらわら押しかけたほうが状況は動く。
やってみる価値はありそうだ。
もうひとつは敵のボスを倒すこと。この場合のボスは王子じゃなくてマルコだ。
パトリツィアが爵位をかざしてマルコを屈服させられればOKなんだけど、できるとしても使いたい方法ではない。
それより、クラスで協力するなら、マルコをなんとかして王子から引き離してしばらく足止めするような手かな。
あるいは情報戦で、マルコが王子どころではなくなる何かささやくとか。
だけど何かって何?
「ねえビアンカちゃん、冷蔵庫のミルクプリン食べていい?」
「それは明日用。まだ固まってない。クッキーでも食べてて」
「えー……」
「大人なんだからわがまま言わないの」
うーん。
3人に訊いても無駄か。さっき意見は出したし、今はもう頭が甘味フェーズ。
うん、今日はこれまで。ひとりで唸ってても仕方ない。
どうせ対策会議するんだし。
「固まってなくてもいい」とか言い出す師匠を押さえながら、私もデザートタイムに突入した。
アレ君派の女子からもらったクッキーは、ちょっとボソボソしていたけど美味しかった。
会議は次の金曜日に決まった。
少し間が空くけど、まあ急ぐようなことでもない。
ただ、気になるっちゃ気になる。
マルコに気づかれないようにチラチラ観察する。
今はお昼ごはん中。いつものように4人ガッチリ固まって窓際でお弁当を食べている。
なんだかなあ……。
お昼ぐらい気を抜きなよ。
学園には解放感溢れた立派な食堂がある。
お貴族様価格なので私はめったに行かないけど、王子様なんだから食堂でスペシャルメニューでも食べればいいのに。毎日隅っこでお弁当食べてないでさ。
人がいっぱいだし見られるから行きたくないんだろうけど、お弁当組としてはお昼にピリピリ感出されるの迷惑なんだよね。
そんなこと言えないけど。
そうこうしているうちに会議の日になった。
放課後の誰もいないサロンに集められたのは6名。
アレ君とニコロと私とパトリツィアに加えて、リコ君というアレ君派の男子とブルーナさんというソロの女子。
アレ君の側近ポジのリコ君はわかるけど、ブルーナさんと意外だ。
印象は大人な感じでたまに休む人。孤高って感じでクラス内のことには関心がないのかと思っていた。
リコ君もそう思ったらしく「どうして参加してくれたの」って訊いたら、「殿下と仲よくなれば劇場の特別席に入れてもらえるかもしれませんから」って言い切った。
なかなかのタマと見た。
自然に議長役になったアレ君が、議題を確認した後、それぞれに意見を訊く。
みんななんとかした方がいいとは思っていたが、これといったアイディアは出てこなかった。
パトリツィアはこの前の凸案をおしとやかに述べた。
あれから何も思いつかなかった私は師匠の凹案をパクった。
そしたら、ニヤニヤしながら聞いていたニコロがパチパチ拍手した。
「いいじゃーん。スラちゃん見直しちゃったよー、みたいな?
じゃあみんなでマルコを倒すってことでいい?」
ああそっか。ニコロはマルコ嫌いだもんね。
「スラちゃん」については、私もみんなもスルーした。もういいや。
「ニコロ、真剣に考えてくれ。
そんな簡単な話じゃないことは君もわかってるだろう?」
「アレ君は堅いなあ。そんなんじゃモテないよ?
ちゃんと考えてるってば」
「そうか。ならその考えを聞かせてくれ」
大人なアレ君はニコロの煽りに反応せず続きを促した。
「オッケ。
じゃあ僕の完璧な作戦を話しちゃおっかな。
えっとね、まず言いたいのはみんな勘違いしてるってこと」
「勘違い、ですか?」
「そ。ブルーナちゃん知りたい?
今度デートしてくれる?」
「嫌です」
きっぱり。
「じゃ、教えなーい」
「ニコロ、いい加減にしろ」
「あれ? リコ君おこ?
ダメでしょ、話の腰を折っちゃ」
「じゃあさっさと話せ」
「かしこま~」
ニコロはなぜか私にパチっとウィンクした。能面で返した。
「えっと、どこまで話したっけ。
作戦、あ、教えないんだった。
でも心配しなくていいよ。
ほら、今は平和でやることないけど、僕のパパ一応軍師将軍でしょ?
息子の僕もそういうの得意なの。
だから、みんなは僕の指示どおりに動いてくれればいいからね?」
「中身もわからないで動けるわけがないだろう」
ごもっとも。
「えー? アレ君わがままー。
しょうがないなあ。じゃあ、みんなに話さないならこっそり教えてあげる」
「……それでいい」
「オッケ。じゃあこっち来て」
ニコロはアレ君を離れた窓際の席まで連れていって、こちらに背を向けて何やらこそこそ話しはじめた。
5分ほどで戻ってきたアレ君は微妙な顔をしていた。
「約束なので中身は話せないが、一応は納得した」
「わかりました。では何をすればいいか教えてください」
パトリツィアが話を進める。秘密になったのなら中身はもう気にしない性格だ。
「パトリツィア様、申し訳ない。
でも危険なことではないのでそこは安心してほしい。
ニコロ、話してくれ」
「はーい。
じゃあ配役を発表しまーす」
「配役」という単語にお芝居好きブルーナさんがピクっと反応した。
「まず、作戦の決行日は来週の水曜日。
王子派のふたりが派閥の側近会議で王子の傍を離れます。
その時、王子は残りのヤッキオ君だけ連れてこのサロンでマルコたちを待ちます。
僕たちは手薄になったそこを狙うわけね」
「手薄になるのか」
「えー? リコ君、知らなかったの?
情報もなしに作戦立てるとかありえなーい」
「……」
リコ君が我慢したので、ニコロは肩をすくめて説明を再開した。
一言漏らした感想にも絡んでくるので、黙って聞いていた方がよさそうだ。
「で、みんなの役割だけど、まずパトリツィアちゃんね。
パトリツィアちゃんは何か理由をつけて、ヤッキオ君を外に連れ出してね。
探し物を手伝ってほしいとか、そんなのでオッケー。
侯爵家を出せばヤッキオ君は絶対に逆らわないから」
「わかりました」
なるほど。パトリツィアは直接王子には関わらないのね。
それなら王子がビビることはないか。
「アレ君とリコ君は、サロンの入口で見張り。
マルコやヤッキオ君が戻ってきたら、足止めをしつつサロンの中の僕らに知らせてね」
「了解した」
リコ君は絡まれないように黙って頷いた。
「そんでサロンの中担当は、僕とブルーナちゃんとスラちゃん。そこで僕が用意する秘密のアイテムを使って、楽しくお話しましょー」
「それだけ?」
「あれ? スラちゃん、簡単すぎて心配?
でも大丈夫だから」
アレ君を見たら頷いたので、大丈夫なんだろう。
まいっか。末端は知らない方が動きやすいってこともあるしね。
ニコロと一緒なのはちょっと嫌だけど、ブルーナさんもいるから良しとする。
ナンパ男の軽口をぶった切った彼女にはちょっと興味がある。
新作はじめました。
「死亡フラグを回避して、元悪役令嬢は今日も穴掘り」
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