久々なヤツ
時々大将の店に顔出して状況を確認しつつ、父さんたちは王都を楽しんだ。
王都はナンチャーラ領より北で海も近い。
母さんなんか「涼しくていいわね」と、すっかり避暑気分だった。
メダルドは屋台の串焼きにはまって、屋台巡りをして串のコレクションをはじめた。
男の子って、なんか変なもの集めるよね。
そのうち母さんに処分されるだろうけど、楽しそうなので黙って生温かい目で見てた。
侯爵邸にも一度みんなでお邪魔して、自慢の古魔道具コレクションを見せてもらった。
私が書けなかったRPGの遺物が、丁寧に磨かれて並べられていた。
なんだか前世の自分が認められたみたいで嬉しくて、ちょっと寂しかった。
大将はお店の休みの日にもう連れてこられていて、侯爵邸の料理長と話が盛り上がっていたらしい。
「塩辛だったかな、うちの料理長あれに手を加えてね、火を通してパスタのソースにしたんだよ。なかなか美味かった!」
って聞いたので、早速家でパクった。
やり方がわからないのでペペロンチーノに炒めた塩辛を足しただけだけど、塩辛NGでおっかなびっくりだった家族もおかわりした。
父さん曰く、ワインにも合うそうだ。
父さんが帰ったら、いや、成人したら試してみたい。
あっという間に時間は過ぎ去り、みんなが帰る前日になった。
「たっだいまー!
あれ? 知ってる人がいる!」
荷造りをしていたところに師匠が帰ってきた。
「ラモナちゃん!」
母さんが嬉しそうな声を上げる。
「リディアちゃん、お久ぶりですう。
なんだこっちに来てたのかあ、言ってくれればいいのにい」
「急に来ることになったからねえ。
次はちゃんと連絡するわ。
あ、そうそう。下宿してくれてありがとうね。
おかげですごく助かってるわ」
「いや、それはこちらこそですよお。
ごはん美味しいし、ベッドは上等だし、お金は使わないし、もういいことばっかりだよお」
久しぶりの永遠の10歳モード。
幼女キャラファンの父さんも混ざりたそうだったが、女子トークはそんな隙を与えず、結局話せたのは夕食の時だった。
師匠は素に戻っていた。
夕食は師匠のリクエストで冷しゃぶになった。ポン酢は作れていないので、レモン醤油で。〆に冷やし焼きサバ茶漬け。
せっかくなので、虫よけの香草を置いて庭の丸テーブルを囲んだ。夏っぽい。
庭は夏の日がまだ暮れ残っていて、風が気持ちよかった。
食卓の話題をさらったのは教授とステファノだ。
鉱山まで10日間同行した師匠の「悪の組織レポート」は、なかなかの出来だった。
野営の際の貴族のポンコツっぷり、過剰攻撃によるホーンラビットの爆散事件、途中の宿場でステファノが宿泊客を怒鳴りつけて宿を追い出されたこと、などなど。
だんだん旅慣れていって後半はいくらか落ち着いたみたいだが、それでも「先が思いやられる」状態は解消されなかった。
送り届けた後のことは知らないそうだけど、果たして気の荒い鉱山の男の中でちゃんとやっていけるのだろうか。
「帰ってこれないかもだねっ☆」
って偽美ロリはかわいく笑った。
暗くなったらランタンを灯して、夏の夜の話は弾んだ。
家族が旅立つと、またいつもの生活が戻ってきた。
帰省していたパトリツィアはうっすら日焼けして帰ってきたし、しがらみで教会の奉仕活動に参加していたジョゼもホーリーヒールの腕を磨いて帰還した。
師匠も依頼を終えて家でダラダラしてるので、そんなに寂しくはならなかった。
夏休みの後半は、3人でよく家に集まった。
でも、残念ながら遊んでいたわけではない。
揃いも揃って宿題に全く手を付けていなかったのだ。
エリート校だけあって量が半端ないから、最後にまとめてともいかないの。
宿題の内容は復習なので、急速に成績を伸ばしたジョゼも問題を解くこと自体にはそんなに苦労しない。計画を立てて進めれば間に合う計算ではある。
午前中は畑の手入れと収穫。
軽くお昼を済ませると、ふたりがやってきて宿題。
ノルマを果たすと市場に買い物にいって夕食の準備。
残っていっしょに食べていく時には手伝ってくれるので助かる。
夕食後は腹ごなしに師匠にちょっとだけ短剣の稽古をつけてもらう。
粛々とルーチンをこなし、なんとか宿題が片付いた時には夏休みは残り2日となっていた。
夏休み最終日の昼下がり、私たちはやっと3人で遊びに出かけることができた。
護衛のコルリさんは珍しく気を遣って距離をとっている。
目的地は王都の中央広場である。
私の活動範囲は貴族街とそれに続く市場の周りだし、大将の食堂がある下町とも離れているので、よく知らない場所だ。
最初の探索の時にぐるっと一周しただけなので、実質初めてといっていい。
そこにしたのは、ジョゼのお義母さんのヴァンナさん情報で、中央広場外周にある喫茶店のお菓子が絶品だと聞いたからだ。
広場は中央に大きな噴水があって、市民の憩いの場&王都観光の人気スポットである。
屋台もたくさん出ていて、すごく活気がある。
これは混んでいそうだなと思ってお店に行ったら、案の定満席だった。
でもテイクアウトはOKだったので、私たちは人気の3種類を袋に詰めてもらって、親子連れが立ったばかりのベンチに陣取った。
わいのわいの言いながらお菓子を食べていると、パトリツィアが私の腕をつついた。
「マルコ君」
小さく指さす先を見ると、確かに。
久しぶりに見るけど、遠目でも相変わらずいい顔だ。
隣にいる男の子も知ってる。
マルコと王子派トップを争っているジャンニ。
争うといっても、見た感じジャンニが一方的にライバル視しているだけっぽんだけど、それにしてもそんなに仲良さそうには見えないふたりがいっしょにいるのは珍しい。
明日からの派閥の運営会議でもやってるんだろうか。
せっかくの夏休み最終日なのにご苦労様なことだ。
ふたりは私たちのちょっと先で立ち止まって何やら真剣に話し合っている。
いつも通り、ジャンニが色々言っている感じだ。
マルコがだんだんめんどくさそうな顔になってきている。
「そんなこと言っても、マルコは王子の傍を離れないじゃないか!」
とうとうジャンニが爆発した。
「王子」という単語に周りの人の視線がふたりに集まり、それに気づいたマルコが顔をしかめ、乱暴にジャンニの手を引いて足早にその場から離れていった。
なんだかなあ……。
こんなところでやらなくともいいのに。
でもまあ、何となくは想像できる。
王子の取り扱い方針としては、私はジャンニに賛成だ。
貴族主義の偉そうなやつだけどそれはそれ。
王子のためを思うなら、マルコは過保護をやめるべきだと思う。
マルコが貼りついているせいで、王子はいまだにクラスに馴染めていないんだよ。
パトリツィア派を離れた3人だって、それからスーパーモブの私だって、このごろは普通にみんなと話しているのに、王子一派だけガチガチの防御体勢を崩していない。
最初気を遣って話しかけていたアレ君も今じゃ諦めて近寄らないし、このままだと君たちはすごく寂しい学園生活を送ることになっちゃうよ?
小動物がクラスメイトを見てフッと寂しそうな顔をするのは、かわいいけどかわいそうになる。
私が近寄ってもブロックされるだけなので、アンネッタさんの許可が出ればだけど、一度パトリツィアに話しかけてもらおうかな。侯爵令嬢ならマルコも無下にはできないはず。
まあ、今はどうしようもない。明日二学期が始まってからだね。
彼らの姿が見えなくなると、私たちは思わず顔を見合わせた。
なんか邪魔された感じ。
「うざ。
とりあえず、屋台回ってみね?」
「行く!」
私たちは気を取り直して、広場探索を再開した。




