運ぶヤツ
お米の大口注文の話は、侯爵様にお願いして、私の身元調査の時と同じルートで実家に届けてもらった。
遠話機の実物も見た。ほんとに残っていてよかった。
ジョゼの実父、食堂の大将ウーゴさんは、早速ごはんに合わせたメニューの開発に取りかかっている。
私が持ち込んだ物ではボアの味噌漬けが合格した。
納豆と塩辛は残念ながら不採用だった。まだレベルが高すぎるそうだ。
ウーゴさんはレシピを買い取ると言ってくれたけど、味噌に漬けるだけなのでレシピも何もない。
って言ったら、その他副菜も参考にさせてもらう分も含めてって、新メニューの試食券を30枚もくれた。そっちの方がずっと嬉しい。
その後お邪魔した時には、改良途中のボアの味噌漬けを味見させてくれた。
マジ美味しかった。これ以上何を改良するか想像できない。
日替わり定食のホーンラビットの煮込みも一切臭みがなかった。
やっぱしプロは違う。
こうなるとお米の到着が待ち遠しくなる。
送られてくるのは、王国最南部ナンチャーラの超早場米だ。
初の大口注文だから、新米が間に合ってよかった。
今使っているのは去年のお米だから、この世界の保存技術だとやっぱり味は落ちるんだよ。
それに、個人的な理由だけど大将の新メニューはぜひ新米で味わいたい。
私の素人料理に触発されてこの世界のプロが作る料理。もう楽しみしかない。
畑の野菜は順調に育っていて、最初にオクラが収穫の頃合いになった。
これを刻んで、かつおぶし――はないので自家製煮干しの出汁と醤油をかけて混ぜて、ごはんにかけて食べると美味しいんだよなあ、とか思っていたところにお米が届いた。
実家に連絡してから2週間後のことだった。
思ってたよりかなり早い。
「いやあ、野営6回はさすがにキツいわ!
とりあえず風呂入ってちょっと寝る!」
「俺も!あ、姉ちゃん久しぶり!」
ナンチャーラ領主のパウロ・ナンチャーラ男爵とその嫡男メダルド、つまり私の父と弟がそう言って浴室に駆け込んでゆく。
「水風呂なんだけど……」
「夏なんだからちょうどいいわよ。
私はお湯につかるけどね」
男爵夫人リディアがケラケラ笑った。
そう。うちの家族は、総出で王都にお米を運んできたのだ。
特急のため2週間のうち野営6回。
なんというか……、バカなの?
「あ、そうだ! 馬はどうしたの? 全部知らない子だったんだけど」
「ああ、庭にいるのはファーゴさんから借りた子。ウチから王都まで大急ぎじゃかわいそうだからね。
ウチの子は向こうの厩舎でのんびりしてるわよ。
あ、ビアンカ何か書くものある?」
「ん? あるけど」
私が紙とペンを渡すと、母さんは突然数字を書き込みはじめた。
「どうしたのよ急に」
「あのね、馬の借り賃の足しにしようと思って、ファーゴ領のギルドで王都まで荷物運ぶって言ったら、けっこう集まったのよ。
帰りは荷台空になるでしょ?
そこに南向けの荷物載せたら儲かるんじゃないかと思って」
「運送屋さんやるの?」
「そそ。もったいないでしょ?
ええと、次の街まで荷物1キロ当たり仮に100リデルとすると……」
なんか本気で計算はじめちゃった。
母さんは父さんより数字に強い。
領主補佐から貧乏男爵領の財政トップ(笑)に昇りつめたリケジョなのだ。
前世を思い出す前に算数を教わったのも母さんからだ。
つまりお金に厳しい。
「ダメです! 買いたかったら稼いできなさい!
売れるものがない? お米があるでしょ!」
って、古魔道具購入申請をほとんど却下してた。
父さんは「だって売れねえんだもん」ってしょぼくれてた。
でも、それはなんとかなるかもしれない。
目利きのできない骨董好きはしょぼくれてていいけど。
私は、入浴後軽く仮眠を取った臨時運送業者たちを歓迎会に招待した。
場所は市場近くのちょいお高めのレストランだ。
「もったいない」って渋る母さんは、週一でつけているざっくり家計簿を見せて納得させた。
師匠が下宿することは手紙で知らせてあったが、下宿費の金額を書き忘れていたらしく、ちょっと怒られた。
みんなは2週間くらいは滞在するらしいので、師匠が早めに戻ってくればギリ会えるかもしれない。
翌朝、隣のベッドで爆睡するメダルドと2階の両親を叩き起こし、手早く朝食を済ませた後、私と父さんはウーゴさんの食堂に向かった。
お米は、いきなり100キロ持ってこられても困ると思うので、父さんがサンプルとして5キロの袋をひとつだけ担いで持っていくことにした。
メダルドと母さんは二度寝に戻った。
ウーゴさんは仕込み中だったので、サンプルを置き、納品の希望日を聞いて帰ろうとしたのだが、「もうすぐ終わるからちょっと待ってろ」と言うので店の隅のテーブルで待たせてもらうことにした。
アンナちゃん画伯のオニ独創的な壁画を眺めていると、ウーゴさんがやってきた。
「悪いな、待たせちまって」
「いえいえ。紹介しますね。ウチの父のパウロ・ナンチャーラです」
「おう。じゃねえ、はい。えっと、男爵様にござりましては、ごきげんうるさく、じゃなくて、うるわしく?……ああもう!」
逆ギレした!あと、エドガーの影が見えた!
「とにかく、こんなシケた店にわざわざありがとございやす!
俺がこの店やってるウーゴっつうもんです!
長え付き合いになると思うんでよろしく頼んます!」
「いや、こっちこそいっぱい買ってもらってありがてえ!
貴族っつっても田舎で米作ってるだけだから、そのへんのおっさんだと思ってくれ。
パウロだ。よろしくな!」
父さん合わせた!GJ!
「ああ、良かった!
貴族っつったらリベリオんとこしか知らねえからビビっちまった。
旦那が話せるヤツで助かったぜ!」
「大将、リベリオさん子爵様だからね? 父さんより偉い」
「いいんだよ、そんな細けえことは。
貴族は貴族。要は、話せるヤツかどうかだろ?」
確かに。
爵位で態度を変える貴族より大将の方がずっとかっこいいや。
「んで旦那、米だけどよ、今日の営業終わったら届けてもらうってのでどうだ?」
それまでに倉庫開けとくからよ」
「おう、そんでいいぜ。
そんときに色々注意事項とか伝えるわ」
「よっしゃ、頼んだ!
金もそん時払うのでいいか?」
「問題ねえ」
「おう。あと、そん時に米用のメニュー試食してもらいてえから、できれば晩飯食わねえで来てくれ」
「おお! 楽しみにしとくわ!」
ふたりはがっちり握手をして別れた。
お見合いは大成功だ。
そして早速試食会だ! ふおおお、上がる!
私は家に戻りながら、父さんに大将の料理の腕を力説した。
父さんが「味噌ってなんだ?」って言って、私はナンチャーラに和食材がなかったことを思い出したが、それならなおさら衝撃を受けること確実だ。
私も、みんなが王都にいるうちに家で和食を作ってあげよう。
うん。なんかいい感じに動き出したんじゃない?
あとは試食会の後を気を付ければいいだけかな。
そのまま宴会に突入しそうな予感がするんだよね。
この前みたいなのはもう勘弁なので、納品の時には母さんにも同行をお願いしよう。
酔っぱらいには容赦ないから、修羅場入りは鉄拳で未然に防いでくれると思う。
あ、「連盟」はもう存在してない。ふたりとも覚えちゃいなかった。




