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作者転生~なんか設定と違うんですけど!~  作者: 膝関節の痛み
第2章 悪役令嬢について

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追加設定なヤツ

「あの子は何者かになりたいのだ」


 侯爵様はお茶会の時にそう言った。


「領民の姿を見て育ってきたため、貴族のなすべきことは十分わかっておる。

 だが、それを為すために『世間が思うような貴族』らしくあることが必要だとは思えないのだな。

 ―——そこが、あの子の弱さでもある。

 だから、物語の英雄やら短剣の達人やらの形をまねようとする。

 貴族らしくふるまうことは、ある意味自分の身を守る鎧のようなものだ。

 残念ながら、悪意に触れたことのないあの子に、私はそれを上手く伝えることが出来なかった。

 そこで君の知恵を借りたいのだが、何かパトリツィアがうまく折り合いをつけられるような案はあるだろうか?」


 ――というわけで、私がこれからパトリツィアに話すのは、その時思いついた方法である。

 もちろん、侯爵様の了解を得ている。


「パトリツィア、帰る前に大事なお話があります」

「な、何ですかー、顔怖いですー」


 おっと失敬。怯えさせてどうする。

 私は息を吐いて肩の力を抜く。


「ごめん、ちょっと気合入りすぎた。

 怒ってないから安心して。

 あのね、結論から言うと、師匠のマネしてもキャラを作ったことにはならないよ?」

「そうなの⁉」


 ガーン!って感じで、パトリツィアは口を半開きにして固まった。


「だってさ、考えてみて?

 師匠は子供みたいな見た目であの話し方をするから、相手は油断するでしょ?」

「うん」

「だけど、パトリツィアは誰が見ても貴族令嬢だから、そのご令嬢がああいう喋り方をしていたら、相手はどう思うかな?」

「……変な人?」


 客観視できたじゃん。


「うん、多分油断するより怪しまれると思う。

 ですよね? コルリさん」

「私の口からは恐ろしくてとても」

「……ですって。恐ろしいことになるみたいよ?」

「えー……」


 ラモナ語っぽいけど、ぺしゃんこになってるので多分素の反応だ。 


「大丈夫。

 ちゃんと作戦を考えたから。

 私は、パトリツィアがお手本にすべきなのは、師匠じゃなくてカスミだと思う」

「カスミ⁉」


 推しの名前に、パトリツィアがバッと顔を上げる。


「うん、カスミ。

 カスミは色んな人物になりきって、敵の組織に潜入してたでしょ?」

「うん」

「パトリツィアが目指すのは、そういうカスミみたいな短剣使いの隠密」

「おお!」


 目がキラキラしてきた。


「で、私たちは来年学園にいくでしょ? つまりそこを潜入する組織と考えて、そこで怪しまれないようにスキルを身に着けるのよ! つまり」

「つまり?」

「パトリツィアは隠密として完璧に貴族らしくふるまうの。それなら絶対に怪しまれない!」


 自分でも何を言ってるのかと思うけど、勢いで押し切る。


「わかった! 私は貴族だけどほんとは隠密で、貴族に擬態して学園に潜入するのね⁉」

「その通り!」


 小説ファンであるためか、こっちの理解は早いね。


「擬態とは……?」


 コルリさんがブツブツ言ってるけど、いいんだよそんな細けえこたぁ。


 貴族が見るのはパトリツィアという人ではなく、パンツィーリという家名である。

 身を守るために「貴族っぽく」あればいいのなら、目に見えるところだけそうしちゃえばいい。擬態だろうが周りはそんなの気づかないと思う。


 それにほら、本人はすっかりやる気だし。

 ポンコツ設定のせいか性格の良さのせいか、チョロくて助かる。


「うん、かっこいい!

 それで学園の闇を暴くのね⁉」

「あ、暴く前にはちゃんと侯爵様に相談するんだよ?

 侯爵様はエドガーみたいに強いからね」

「そうだね、わかった!」


 アイデンティーは隠密だから、正義のために暴走しそうでちょっと心配。注意しなきゃ。

 でもまあ、「目指せカスミ!」作戦、強引だったけどなんとかなったかな?


 侯爵様の反応がちょっと楽しみ。


 「それっぽければ何だっていいと思います!」ってぶっちゃけたら、侯爵様は大笑いして、「うまくいったら、何か褒美をやろう」って言ってた。

 実家から新米が届いたら、ご褒美にちょっと宣伝へのご協力をお願いしてみようかな、なんて考えている。


「ありがとう、ビアンカ!

 ほんとは学園に行くのちょっと不安だったんだけど、なんとかなる気がしてきた」

「よかった!」


 王都貴族との付き合いがほとんどなかったんだから、そりゃ不安にもなるよね。


「あ、貴族としてのふるまいは妹さんに相談するといいよ。

 きっと私よりずっとお手本になるはずだから」


 大好きな姉のためだ。色々教えてくれるだろう。


「うん!

 アネッタは今領地だけど、戻ったら相談してみる」


 そっか、そういえばそんなこと言ってたな。

 いたらなんか言いそうだけど、まあ事後承諾ってことで。


 とりあえず道筋は出来た。

 ただね、まだ安心するのは早い。


 これはテンプレ乙女ゲームの世界だ。

 キャラの設定に「隠密」が追加されたとしても、お笑いシナリオになったとしても、ゲームの悪役令嬢設定がなくなったわけだはない。

 つまり、エンディングで断罪される可能性は残っているのだ。


 回避しようにも、パトリツィアは侯爵令嬢だ。学園ではテンプレ的にとんがった攻略対象との関りは避けられない。

 マズいことになったら、作者として責任をとらなきゃならないよね。


「パトリツィア、もし学園で何かあっても私が守ってあげるからね」

「ありがとう! ビアンカ、大好き!」


 パトリツィアが花のような笑顔で、私に抱きついた。

 ヤベぇ。鼻血出そう。ちょーぜつかわいい。


 ああ、私はこの時のために転生したのかもしれない。

 自分の作ったキャラが、舞台化でも実写化でもなく、リアルに生きている「人間」それもピュアな美少女として、私にまっすぐな好意を向けてくれている。


 作者としてこんな幸せなことがあるだろうか。

 本編の意地悪令嬢じゃなくてよかった。ボツネタ書いといてよかった。


 ふたりでイチャイチャしてたら、コルリさんが氷の声で終了を告げた。

 パトリツィアはこの後、お屋敷でマナーのお勉強だ。


 でもそれはもう苦行の時間ではない。

 完璧な貴族への擬態のために必要なことだからだ。

 隠密令嬢パトリツィアはやる気をみなぎらせて帰っていった。


 私もがぜんやる気が出て、ふたりが帰った後、残りのエリアの土起こしを終わらせた。

 私はせっせと混ざっている石を取り除き、泥だらけになりながら土に肥料を鋤き込んだ。

 明日市場に種と苗を買いに行こう。

 そんで色々な野菜を育てて、手料理をパトリツィアにふるまうのだ。


 そうだ、大根も作ろう。

 練り物とかも自作して、冬になったらおでんパーティーをしたい。


 気がついたら夕方になってた。

 ずっとかがんでいたから腰が痛い。

 何度か休憩を挟んだとはいえ、若い体にも夏の畑仕事はさすがに堪えるね。


 水シャワーを浴び、スープとパンとサラダという朝食のような夕食を終えると、一気に眠気が襲ってきた。

 フラフラとベッドに倒れこむ。

 パトリツィアの笑顔を思い出し、「ぐへへ」と13歳女子にはあるまじき声をもらしながら、私は眠りに落ちていった。

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