休暇であり休暇ではない
第37章
ブルーになったバールは、雪の残った男爵家で、キースになったメゾンドオリザボシ帝国のリネガーケント元国王と対峙している。
「ここではキースとお呼びいたしますが、よろしいでしょうか?」
「ああ、そうしてくれ、しかし、昨夜はあっさりと正体がバレてしまって残念だよ」
「わたくしがわからないとお思いですか?それにもう一人の方はどうしたのですか?フラグメール国では存在していましたよね?」
「彼は、メゾンドオリザボシ帝国の真の国王だから王宮にいるはずだ。仕事ができない人間だから君のポータルを改造した物を持たせてある」
「そんな、か‥‥彼は二つの魂を持つ国王ですよね?」
「否、君が残した魂は僕が持っている」
二人だけで話し合う為に、この部屋にはモンスールもラオネル魔法塔主もいない為、リネガーケントの返答が簡潔過ぎ、動揺して、頭の整理ができていないブルーはそれ程大切でない質問を投げ込む。
「うっうん、それで、1カ月の休業が終わりますが、営業許可書は頂けるのでしょう?」
「当然、持参して来た。休暇の取り方がわからない君には仕事は必要だろう?」
(休暇を取りたくても、取れなかったのは誰のせいですか!!あなたは、私に仕事を振り過ぎです)
◇◇◇◇◇◇
夜会を何とか乗り切り、離宮に戻ったパールは、戦闘服のドレスを着替えてから、魔法紙にラオネル魔法塔主の魔法陣を写す。
「お嬢様、夜会はいかがでしたか?‥‥毒の検出はいたしますか?」
「お願い、大丈夫だとは思うけどした方が安全よね」
「はい、そう思います」
モンスールは、フラグメール国でも愛用していた、防毒着に身を包みすでに準備していた。こう言う所は元祖パール様の凄い所で、モンスールに毒の検出を教え、防毒着も作成していた。余程、フラグメール国での生活がひどかったのだと思うが、正直、有難い。
「私の検出が終わった後は、どうなさいますか?」
「毒の特定をしますけど、あら、今回は大丈夫そうね?」
「はい、フラグメール国では考えられない結果ですが、この国の貴族は安全なのでしょうか?」
「今、わたくしは大事業を抱えていますからね。ここで毒殺されたら大ごとになって、国王陛下は威信をかけて犯人を割り出すでしょうし、この事業が消えて無くなる可能性も出てきます」
「どうしてですか?」
「陛下が未来の王妃に送った贈り物を、婚約者が死んだからと言って他の貴族に渡す事は出来ないでしょう?」
「では、しばらくは安全なのですか?」
「そうね、‥‥公園が完成する結婚前までは生き残る可能性は高いと思っています。その間に、ナナミリ達をどうにかここへ連れて来たい、そうすれば、いつか、自由と安全が得られる‥‥かしら?」
翌日、当然のようにパールの執務室に、モモホラチームとカメールは集まって、今後について話し合っている。
「パール様、おはようございます。昨晩は大変でしたね‥‥」と、モモホラはうつむき話しかける。
「ええ、エスコート役の方が途中退場なさってしまい、苦労しました」
「仕方がなかったんだ、あの魔法塔の映像が流れてから、親戚たちに捕まってしまって、父上は、陛下に同行していて留守だったから、どうしようもなかった‥‥本当にすまない」
「それで、ご親戚はどのように?」
「遺跡の警備の強化の為の増員だが、国王陛下に聞かないと返事は出来ないと説明した」
「そうですね、モモホラ様、実際、警備の強化は必要です。これを見て下さい」
パールは、昨日の映像を、執務室に再現して見せる。
「ここを見て下さい。モモホラ様はこの窓にガラスを入れた日を覚えていらっしゃいますか?」
「ああ、1週間前‥‥くらいかな?」
「水の引き込み後は、夜会への準備で、遺跡への警戒が薄れてたのは事実です」
「その件は、親戚たちにも言われました‥‥僕の落ち度ですが、しかし、管理責任者の僕に許可も取らない魔法塔に抗議を入れましたよ!」
「ですが、昨夜、ラオネル魔法塔主がアカデミーと魔法塔も遺跡に関わると、宣言なさったのですよね?そうなると、許可を取らないなど、キナグリ公爵の面子が保たれません!!」とイチトスが言う。
「では、折角、僕が遺跡の責任者になって、のんびり暮らそうと思っていたのに‥‥、大勢の親戚たちを受け入れろと?」
「他に道はあるのですか?」とパールはモモホラに聞くが、
「発掘や遺物の管理にはどうしても魔法塔の力が必要になる。それに土魔法を使える学生もいてくれると助かるが、あまりにも大人数で僕らだけでは対応は難しいだろうと‥‥‥‥考えられますね‥‥」
「そうですね。その事は、キナグリ公爵家で、しっかり話し合って下さい。わたくしはモモホラ様を信用する他は手立てがありませんから」
パールは、モンスールが用意したお茶を手に取りゆっくりと飲むと、モモホラのメイド達も動き出し、書類を持って待機するイチトスがモモホラの後ろに立った。
「他にご用がございますか?」
「パール様の離宮に、近衛兵の詰め所の隣接を願い出ろと言われまして‥‥」
「あ~、警備・管理を行う建物は必要になりますね。温室は設計当初から計画にありましたからね。しかし、離宮に必要でしょうか?」
「皇室の方々をお守りするのが近衛の仕事です。当然、国王陛下の婚約者であられるパール様をお守りするのも、我がキナグリ公爵の仕事だと一族は考えています。こちらが要望書です」
「こちらを建てるには構いませんが、国家予算を使うのですよね?そうなると、ドクンド主席監査官にご相談する事になりますけど‥‥、何かお考えはございますか?」
「はい、こちらを」と言って、イチトスは、次々に、モモホラに準備した資料を渡す。
「僕たちは、水道を引いて、下水は平民業者に頼む予定だよね?」
「‥‥‥僕らではなく、わたくしは自分で処理します」
「ええ!!どういう事?」
「まだ、頭の中で考えているだけなので、伝える事が出来ません」
「そうか‥‥」
「何か?」
「エスカーション公爵は下水道の工事業者を持っているんだ」
「あ~~、しかし、その話に、彼は乗って来ますか?仮にも首席監査官ですよ。そのような欲まみれの提案を受け入れた時点でアウトのような気がしますけど?」
「そうだよな~~~」結局、モモホラ一行は肩を落とし、その日は帰って行った。
◇◇◇◇◇◇
モモホラ様たちが訪ねて来ない1週間が過ぎた頃、なぜかドクンド主席監査官が訪ねて来た。丁度、その時は、チャリチャリ亭のノムシルに指示を出している時だったので、少し焦ったが、ノムシルは席を立ち驚いて去って行った。
「ドクンド主席監査官、何かございましたか?」
「彼は、パール様の子飼いですか?」
「ええ、子飼いと言えばそうですが、孤児たちに仕事を割り振ってもらっています」
「ポリアンナ公爵家から、正式に近衛兵たちの詰め所が必要だと、書面が送られてきました」
「パール様は許可なさったのですか?」
「モモホラ様には予算的に厳しいのではないかと助言しましたが、いけませんでしたか?」
「パール様は、その‥‥あの孤児たちに下水の仕事を任せるのですか?」
「はい、離宮は彼らに任せます。離宮の予算内で行いますので報告の義務はございませんよね?」
「どのように行うのでしょうか?よろしければお聞かせ願いませんか?」
「‥‥エスカーション公爵は、メゾンドオリザボシ帝国ではどのくらいの下水を管理していますか?」
「我が家門は、王都を中心にしていますので、3割程度です」
「3割ですか、意外に少ないですね。これから広げる予定はございますか?」
「現状維持でいく予定です」
「お聞きしますが、あなたは、主席監察官として、ここに来たのですか?それともエスカーション公爵家としてですか?わたくしは未来の王妃ですよ。ご自分の家門の利益の為にいらしたのでしたら、どうぞお帰り下さい」




