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魔王が世界を支配できない理由  作者: トリミング中の噛み犬


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第6話 魔王への挑戦

 最初の魔王の攻撃は獄炎魔法や、爆破魔法、素手での攻撃が主体になりますが、レベル80のロッキーくん達は余裕をもって対応します。


 すぐに魔王のHPを半分にすると、得意技のビッグバーンを放って来ます。それも想定していたのか、武闘家2人を攻撃役、ロッキーくんともう1人の武闘家で回復役に徹します。


 HPを一定の値に保ち攻撃を続けていると、とうとう魔王が3回攻撃を始めます。ですが、まだロッキーくん達には少しだけ余裕があります。


 魔王ズンマの姿がボロボロになると、一気にラストスパートをかけます。全員が回復をかなぐり捨てて攻撃に転じます。HPが減ると全回復魔法を唱えることは、前に挑んだ勇者から聞いています。


 ここでロッキーくんは一気に倒し切る作戦を取ったのです。


 全員の攻撃が終わると、魔王ズンマがよろめきながら体を震わせています。ロッキーくんは勝った、という顔でいますが現実は残酷です。


 ここで魔王が全回復魔法を唱え、見る見るうちに最初の頃のように勢いを取り戻します。この時の魔王の目は、ロッキーくん達の表情を観察するような目です。


 僕と後輩も陰から、魔王の顔を見ますが、相変わらず僕以上に性格が悪い。


 ですがロッキーくん達の表情は以前と変わらず、力強い眼差しを持ったままの臨戦態勢です。そのことが癇に障ったのか、魔王ズンマが苛烈な3回攻撃でビッグバーンを連発してきます。


 全員が固定200の威力を受けるとHPが見る見る内に減っていきます。レベル80でも駄目なのかとロッキーくんと僕はそんな顔になっていました。


 すると偶然なのか、武闘家の1人の女の子がビッグバーンを躱したのです。


 それを見た魔王が更に怒りを増して、ビッグバーンをこれでもかと放っていきます。1人、また1人と倒れていくと最後に回復魔法を唱えて粘っていたロッキーくんに、魔王ズンマがほくそ笑みながら、無慈悲な3回連続ビッグバーンを放ちます。


 それを受けたロッキーくんは無念そうな顔で倒れていきます。体はボロボロで、至る所から出血もしています。


 戦いは終わり魔王ズンマの勝利です。ですが、僕には悔しい気持ちも、怒りの気持ちも湧いて来ません。ただロッキーくんのひたむきな努力と執念に、勇者としてではなく、1人の人間として畏敬の念を抱くだけです。


 ロッキーくんは歴代勇者の中でも一番の実力を持っています。それでも魔王ズンマに勝てませんでした。


 ですが、これで3回目の全滅です。これは歴代の勇者の中でも全滅回数が最も少ない、驚異的な数字なのです。


 後ろに居た後輩は自分の担当の勇者では無いのに、悔し涙を浮かべています。


 さあ泣くのは後です、僕達の仕事は骨拾い、仕事に取り掛かりましょう。


 魔王ズンマが静かに見守る中で、僕と後輩が手分けをして遺体を回収します。すると、魔王ズンマが静かに口を開きます。


「貴様、まさかウブスナか?」


「……僕の知り合いに魔王さんはいませんけど」


 僕には魔王の知り合いは居ません。そう答えると、魔王が思い出したように食い付いてきます。


「いや16年前、小僧だった貴様が我の前に現れ、今と同じ事をしていたのを覚えているぞ!」


「……えーと、そうでしたっけ?」


 僕はとぼけて見せますが、ついさっきロッキーくんの父の仇という言葉で思い出していました。


 僕が骨拾いの仕事に慣れた頃、重傷を負った後輩のように魔王ズンマの理不尽な行動に怒りを覚えて、手を出した先輩の骨拾いが居ました。その先輩の骨拾いが担当していた勇者こそがロッキーくんの父親だったのです。


 重傷で逃げた後輩と違っていたのは、骨拾いの先輩は魔王によって倒されたこと、これは骨拾いとして一番やってはいけないことです。その影響でロッキーくんの父親が倒されて2日以上が経過してしまい、蘇生が出来ない状態になってしまいました。


 当時の上司から依頼を受けた僕は、今と同じ状況で、先輩の遺体と、ロッキーくんの父親の遺体を運び出したのです。僕にとってはやり切れない苦い思い出です。


 すると魔王ズンマが顔に笑みを浮かべ、言い放ちます。


「あの頃は我もまだ力が未熟、だが今であれば、ウブスナ、貴様なぞ一捻りよ……」


 あー……これは僕を挑発しに来ていますねえ……。


 この話には続きがあって、僕が若かったと言うこともあるんですが、魔王がロッキーくんの父親の遺体を蹴飛ばしたものだから、ついカーっとなって、一度だけ叩きのめしたことがあるんですよねぇ……。


「そ、そうですね、魔王ズンマ様の方が僕なんかよりも遥かに実力が上ですよ」


 今回は状況が違います。僕は骨拾いの上司という立場、その部下の後輩が驚いた顔で僕を見ています。


 そもそも魔王と親し気に話してる時点でおかしいことなんです。ここは骨拾いとして、仕事を全うして挑発に乗らないことが大事です。


「ところで、前の女の骨拾いはどうしたウブスナ。泣きながら襲いかかってくるのでな、それが面白くてつい遊んでしまったぞ。あんなに弱い骨拾いは初めてだ、前の奴より弱かったぞ!がはははははははは!!」


「……ところで、魔王様、最近運動不足ではありませんか?」


 あー……やってしまいました。僕のことなら何を言われても問題はありません。ですが、彼女……いえ、後輩のことと亡くなった先輩のことを言われてしまっては、引き下がる訳にはいきません。


「やる気になったようだなウブスナ、人間というものは感情に流されやすい生き物よなあ」


「アリスくん、悪いけど骨拾いの仕事は任せてもいいかな?」


「え?あ、あの……ウ、ウブスナさん」


 本当は骨拾い同士、名前で呼び合うのも駄目なんですけど、この際、仕方ないんですよね。


 後輩の名はアリス、何年振りにその名で呼んだのか覚えていません。彼女もそのことで動揺していますが、すぐに仕事を終えるとロッキーくん達の遺体を連れて部屋から出て行きます。


 魔王の祭壇には僕と魔王ズンマの2人だけになります。


 念の為に忠告をしておきましょう。


「言っておきますが、仕掛けて来たのはそちら側、僕は仕方なくということでお願いしますね」


「我は魔王ズンマ!貴様より強いことが証明できれば良い!」


 まあ、そう言ってくれるとありがたいですが、見た感じ、16年前とそんなに変わっていないんですよね。とりあえず、変わったかどうか攻撃を受けてみましょう。


「喰らえっ!ビッグバーン!」


 初手から3回連続のビッグバーンですか、これの弱点は知っていますが敢えて受けておきます。


「……さすがに200の固定ダメージ3回分は痛いですね」


「さあ、後もう一度放てば貴様は終わりだウブスナ!」


 すぐに調子に乗る所は変わっていません。実はビッグバーンは素早さが255に達していれば躱せる技なんです。もう痛いのは御免なので、ささっと流します。


「ほい、ほい、ほいっと……」


「……な、何だと?」


 何をボケっとしているのでしょうか、お腹ががら空きですね。


「よいしょっと……」


「ぐおっ……」


 僕の拳が魔王ズンマのお腹に命中します。魔王は苦しそうに前のめりになって口から涎を垂らしています。このままでは戦いにすらならないので、再度、忠告をしてあげます。


「ほら、魔王様、早く回復魔法を唱えないと、もう一発行きますよ」


「く、くそ、まさかこんな……全回復魔法ベッ……ぐはっ!」


「いやいや、魔王様、回復魔法を唱えるのが遅いですよ、それを待つほど僕がお人好しに見えますか?」


 魔王ズンマの行動が余りにも遅いので、待ち切れなかった僕は拳をまた魔王のお腹に放ちます。ですが、魔王は勇者でなくてはトドメがさせません。僕がいくら殴ろうがHPが必ず1残るのです。


 それに僕は弱い者いじめをするのが趣味ではありません。魔王を殴ってちょっと気が晴れたので、そろそろ止めようと思います。


「では、僕の勝ちということで帰りますね」


「……はぁはぁ、これだけの力がありながら、なぜ勇者を助ける……貴様がその気になれば世界を手に入れられるのだぞ!」


 いきなり何を言うんだこの魔王様は。人の身で世界を手に入れるには、想像を絶する労力が必要なんですよ……。


「いえね、世界はあなたが思っているほど簡単に手に入りません。それに僕はあくまでも裏方、勇者ではありませんからね」


「くっ、そんな悠長なことを言っていると、我が世界を支配するぞ」


「あなたねえ、僕にコテンパンにされてそれ言います?それに近い内にあなたは勇者に倒されますよ」


「それは不可能だな、あの小僧が最後の勇者、それが消えた時こそ我が望みを果たす時!」


 まあ僕が居る限りそれも不可能なのですが、魔王ズンマ様のやる気をこれ以上削ぐのは控えることにします。


「……もう二度と会うことはないでしょうが、魔王様の健闘をお祈りいたします」


 そういうと僕は部屋を後にします。これ以上の会話は堂々巡り、後はロッキーくんが実力で証明してみせるだけです。


 それに魔王ズンマは気付いていませんが、ロッキーくんがビッグバーンの攻略法に気付いています。彼が武闘家3人を仲間にした時から、運命は決まっていたのかもしれませんね。


 と考え込んで歩いていたら、部屋の外に後輩のアリスくんが居ました。アリスくんの顔は、キツネにつままれた感じです。


 ちょっとこれは僕も想定外です。ど、どうしましょうか上司としての威厳が……。


 そう思っていたら、アリスくんが僕に抱き着いてきました。僕の胸で泣いているようです。まあ彼女も魔王ズンマに散々煮え湯を飲まされてきましたから、色々と思うことがあったのでしょう。


 僕と魔王の戦いでちょっとでも、その気が晴れたのなら挑発に乗った甲斐があるというものです。


 僕が背中を軽く叩いて宥めると、すぐに離れて恥ずかしそうな顔で骨拾いの仕事に戻ります。彼女も優秀な骨拾い、公私混同しないところは僕も見習わないといけません。


 近くの教会まで送り届けると僕がロッキーくんを蘇生させて、顔馴染みの神父さんに後をお願いします。そしてさっと、教会にある石像の後ろにアリスくんと一緒に隠れます。


 起き上がったロッキーくんの顔は、魔王に負けたのにも関わらず、希望に溢れた顔になっています。力強く立ち上がると、神父さんに掴みかかるようにして仲間達を蘇生させます。


 すぐに蘇生したばかりの仲間のつよさの確認を始めています。


 特に魔王のビッグバーンを躱した武闘家の女の子のつよさをじっくりと見ていました。そして素早さが255に達しているのに気付くと、興奮しながら魔王ズンマの攻略法を仲間に説明を始めました。


 それを見た僕は肩の荷が下りた気持ちになります。後ろに居たアリスくんも僕の顔を見て、微笑んでいます。ちょっと恥ずかしい気持ちになりますね。

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