第7話 二度目の正直
その後のロッキーくん達は、武闘家の女の子3人の素早さを255になるまでレベルを上げ、ロッキーくん自身の素早さを上げるために、拠点を移します。
そこはロッキーくんの父親とゆかりがある村でした。その周囲には、韋駄天の種子、という素早さを上げる道具を落とす、2本足の大きな顔の鳥の魔物が生息しています。
今度はその道具を狙って、ひたすら魔物狩りに精を出していきます。レベル91になっていたロッキーくん達は、道端の草を引き抜くように魔物を倒していきます。その勢いは絶滅させるんじゃないかと言うくらいです。
お茶碗一杯分の韋駄天の種子が集まると、武闘家の女の子3人の前でロッキーくんが不味そうな顔で平らげます。
あれ、すっごく渋くて苦いんですよね。つい僕もつられてロッキーくんと同じ顔をしてしまいます。
そして村で一晩明かした後、全ての準備が整ったロッキーくんが不死鳥に乗って、本当の最後の戦いへ向かって行きます。僕と後輩のアリスくんも、いつになく真剣な顔で不死鳥の足に掴まっています。
魔王の城に到着すると我が家のような感じで入ってロッキーくんが道を進んで行きます。巨大な動く石像、回転床、6つ首の竜はもう話になりません。ロッキーくんが一息する間に全部突破してしまいます。
ここまで来ると、見ている僕が気持ち良くなるほどです。
そして魔王ズンマの祭壇に到着すると、いつもの台詞でロッキーくん達を迎えます。
「愚かな人間共よ、地上は我が物、それを邪魔する者は、我が力の前に消え去るが良い!」
僕とアリスくんも祭壇の陰で聞いていましたが、さすがのアリスくんもまたか、と言った呆れ顔になっていました。分かる分かる、おじさんもその気持ち分かる。
僕達とは対照的にロッキーくん達は、余裕の笑みを浮かべています。この戦いを楽しみにしていた節があるような顔です。
そして、魔王ズンマとロッキーくんの2度目の死闘が始まりました。
恐ろしいことに僅か一度だけでの全員の攻撃で、魔王ズンマが3回攻撃を始めてきました。そのまま、手を緩めずに攻撃を加え、いつもの押し切る作戦にでますが、ここで僕はある事に気付きます。
どうやら全回復の魔法を唱えるまでは、HP1から下がらないようになっているみたいです。確かに偶然に必殺の一撃が連続で出てしまい、押し切られることも考えられる。
魔王なりの防衛策なのでしょうが、なんといやらしいことかと、僕は呆れてしまいます。
そんな魔王ズンマが全回復魔法を唱えると、いつものように勇者達の顔を観察し始めますが、全く絶望なんかしていません。むしろ、ロッキーくんが指先をクイクイッと曲げ、ビッグバーンを要求する挑発をしています。
うーん、ロッキーくんも立派な勇者になったものです。僕も今度、真似してみましょう。
魔王ズンマもその安い挑発に乗ると、3回攻撃のビッグバーンを放って来ます。ロッキーくんと仲間達がそれを、華麗なステップを踏み、躱していきます。
この時の魔王ズンマの顔と言ったら、とても痛快な顔をしていました。今まで自分が観察してきた多くの勇者と同じ、絶望した顔になっているんですから。本人は気付いていないでしょうがね。
ロッキーくんもビッグバーンを避けるコツを掴んだのか、全員で道具の回復草を使い攻撃の順を潰すと、ビッグバーン待ちをします。
魔王ズンマもその舐めた行動に頭に血が上ったのでしょう。鬼のような顔でビッグバーンを3回連続で放ちます。
ですが、ロッキーくん達にはかすりもしません。
得意技を封殺された魔王ズンマは絶望の顔です。ただの偶然では無く、ビッグバーンを確実に見切っていることが分かったからです。
すぐに魔法攻撃と素手の攻撃に変更しますが、焼け石に水、レベル91のロッキーくん達には通用しません。そしてとうとう、魔王ズンマの命運が尽きる時が来ます。
ロッキーくん高く飛び上がり、手に持ったらいめいの剣を魔王ズンマの胸元へと突き刺します。
魔王ズンマが膝を付き、信じられない顔でロッキーくん達を見つめています。あれほど、侮っていた勇者がまさか自分を倒すことが今でも信じられないようすです。
後輩のアリスくんも僕の背中をぽかぽかと叩いて喜んでいます。痛いよアリスくん。
ですが、あの性格の悪い魔王のことです。このままで終わる気がしないと僕は感じていました。すると、魔王ズンマが最後の力を振り絞ってロッキーくん達に語りかけます。
「み、見事だ……勇者よ……だが、我も魔王……ただでは……逝かぬっ!」
そう言うと魔王ズンマの体から稲光が走り輝き出します。この現象は見たことがあります、確か、大きな岩に目と口が付いた魔物が得意としていた魔法です。
「自己爆破魔法ズレミチ!!」
自己爆破魔法ズレミチは、自分の命、HPとMPを全て威力に変えて、辺り一帯を吹き飛ばす強力な自爆魔法です。それも魔王のMPは基本的に無尽蔵、魔王の城さえ跡形なく吹き飛ばす威力があります。
気付いた時には僕にはどうにもできませんでした。
このまま爆発してロッキーくん達が粉微塵になったら、骨拾いの僕でも遺体の回収も蘇生もできません。それ以前に僕も自分の身を守るだけで精一杯です。
後輩のアリスくんを抱き寄せると、僕はある魔法を唱えます。
「鋼鉄化魔法ストロング!」
自分を含むパーティー全員の体を鋼鉄化させて動けなくする勇者にしか使えない魔法ですが、自爆魔法に対抗するための唯一の魔法です。
次の瞬間、魔王ズンマの体から太陽のような輝く光と共に辺り一帯を包むような大爆発を起こします。巻き上げられた土埃が雲の流れる上空まで達していきます。
禍々しい造形の魔王の城が跡形もなく吹き飛び、空からは瓦礫や破片が落ちてきます。
舞い上がる粉塵が落ち着いて来ると、辺り一帯が瓦礫の山となっています。もはや城があったとは思えない景色です。
最後の最後で魔王ズンマの悪あがきと言ったところでしょうか、魔王としての意地を見せてくれます。僕は周りの安全を確認すると魔法を解いて、すぐにアリスくんを抱え上げ、瓦礫の物陰に隠れます。
そしてすぐにロッキーくん達の安否を確認します。この魔王の最後の足掻きはロッキーくん達にとっても想定外の攻撃でしょう。僕は半ば諦め気味になっていました。
ですが、彼らは僕の想像の一歩先を進んでいました。
粉塵が漂う中から、鋼鉄化したロッキーくんと武闘家3人娘の姿が、堂々と立っていたのです。
それを見た時の僕と言ったら、情けない顔をしていました。目から自然に涙が零れていたんです。おじさんになると涙腺が緩くなると言いますが、まさにそうでしょう。
ロッキーくん達は分かっていたんです。理不尽な行動を取る魔王ならば、最後に必ず同じ行動を取ることに。もうロッキーくんは僕が見守るような弱い勇者ではなく、世界に誇る立派な勇者に成長していました。
ロッキーくんも鋼鉄化の魔法を解くと、武闘家3人娘に抱き着かれ、勝利の余韻を楽しんでいます。
本当におめでとうロッキーくん、僕が見守った勇者の中で君が一番です。
……そう言えばアリスくんを抱えたままでした。無言だったので気付きませんでしたが、ゆっくりと下ろします。何か顔を隠して背を向けてしまっていますが……嫌われていませんよね……。
さあて、これで僕の骨拾いの仕事も終わりです。後はロッキーくんが始まりの島に戻って王様の居るお城で魔王ズンマの討伐を報告するだけです。これでロッキーくんも大団円を迎える訳ですが、僕にはもう1つだけ仕事が残っています。
勝利に喜ぶロッキーくんを置いて、一足先にアリスくんと一緒に戻るとします。
さて、僕がもう一仕事していると、始まりの島のお城が歓喜に沸いています。始まりの島だけじゃありません、世界中の至るお城や町や村では、お祭り騒ぎの状態です。町の人も村の人も笑顔で喜びを見せています。
これから魔物に奪われていた資源のある土地も戻って来ますし、国同士の交流も再開するでしょう。もっと景気が良くなり、30年前よりも未来は輝かしいものになるでしょうね。
ですが、僕はそれを嬉しいようで悲しい気持ちで見ています。
だって、もう僕の仕事は必要とされなくなってしまったのですからね。おじさんだって憂鬱な時くらいあるってもんです。ですが達成感だけは、勇者ロッキーくんよりは感じていることに自信があります。
何せ僕は30年も骨拾いの仕事を続けてきたんですからね。
喜ばしい話と言えば、最近になって重傷になった後輩も立てるようになったようなので、お見舞いに行きたいと思います。もちろん個人的にが半分、仕事が半分です。
後輩は今始まりの島の酒場ダリィースの2階の空き部屋で養生をしています。僕が扉を開けて中に入ると、後輩が窓の扉を開けて空を悲しそうな顔で見ています。
話かけにくいので、誤魔化すように手に持った花束を花瓶に移します。
すると、僕に後輩が気付いたようで、ゆっくりとベッドの上に腰掛けます。僕も花瓶に水桶から水を注ぎ終えると、椅子に腰掛けます。
後輩の名前はドロシー、骨拾い同士が名前を名乗るのは法度と言いましたが、名乗ることが許されるのは骨拾いの退職を伝える時と、めでたいことで退職する時だけです。
アリスくんが僕に名前を呼ばれてとまどっていた理由はそれですね。退職を促されたと勘違いしたのでしょう。
しかし、ドロシーくんには言い難い。彼女、凄い気が強いのですよ。僕が困った顔でいると、ドロシーくんから切り出してくれます。
「ウブスナさん、私の仇を取ってくれてありがとうございます、そして、決まりを破って申し訳ありませんでした」
こんな謙虚なドロシーくんを見るの初めてです。しかし、女性というのは態度1つでこんなにも印象が変わるものなのですねえ。おじさんはまた一つ勉強になりました。
ですが、上司としてしっかり伝えることは伝えなければなりません。
「ドロシーくん、君には悪いけど骨拾いを辞めてもらうよ。これも決まりだからね」
良い言い回しを僕は思い付きません。儀礼的にしか伝えることしかできませんでした。ドロシーくんも顔を伏せると悲しそうにします。
「分かりました……」
消え去りそうな声ですが、僕の言葉を受け入れます。
本当に上司になるってのは嫌なもんです。若い子が落ち込む姿は見たくありません。そこで僕はあるプレゼントを渡そうと思います。
「だけどね、ドロシーくん、君は頑張ってくれた。その退職金代わりと言ったら何だけど、僕から1つだけプレゼントがある」
「プレゼントですか?」
僕がそういうと部屋の扉からアリスくんが案内して連れてきた、ドロシーくんが担当していた勇者パーティー一行が入って来ます。
今は元勇者パーティーでしょうか、勇者とその仲間達も勢ぞろいです。
すると、勇者がドロシーくんの顔を嬉しそうに見つめます。
「こんな綺麗な人が、俺を生き返らせてくれたのか、ラッキーだったんだな俺」
勇者がそんな軽口を叩くと、近くにいた魔法使いの女の子が頬を膨らませます。
「酷いなあ、私みたいな可愛い子がパーティーに居たんだから、それも褒めなさいよ!」
勇者と魔法使いの痴話げんかが始まりますが、それを戦士の男の子と僧侶の女の子が困った顔で立ち尽くしています。
その光景にドロシーくんは驚いたまま停止しています。
驚くのも無理はないかな、今居る勇者の仲間達は1日以上経過してから蘇生を受けたので、重い後遺症が残って自由に動けない筈なのです。彼女もそのことを知っています。
まあそこは僕がある道具を使って治したんですけどね。
それにもうドロシーくんは骨拾いでは無いし、勇者も元勇者の一般人、正体を明かしても何も問題はないでしょう。これが僕の骨拾いとしての最後のプレゼントです。
さて、後は当事者同士、仲良く団らんを楽しんで下さい。
僕が立ち上がって部屋を出ると、後ろからアリスくんが付いて来ます。
「あの、ウブスナさん、どうやって彼らの後遺症を治したんですか?」
「んー……それね。この道具を使って特別な魔法を僕がかけたんだよ」
僕が取り出したのは、時の歯車、という道具です。この道具を使用すると、1日の範囲で時を遡ることができるものです。ですが、これだけでは彼らの後遺症は治せません。
僕が道具の原理を解明して、大きく時を遡る独自の魔法を開発、それを後遺症の残った患部に施したんです。
いやね、過去にロッキーくんの父親が僕らの失敗で亡くなってしまった訳です。亡くなった先輩の汚名も雪ぎたい気持ちで、僕はこの道具を手に入れて独自に研究していたんです。
しかし、これが役に立って本当に良かった。備えあれば憂いなしってね。
僕がけらけらと笑っていると、アリスくんが僕の腕に抱き付いてきます。おっと、これは僕にもとうとうモテ期というものが訪れてきたのでしょうか。
たまには後輩のスキンシップにも応えて上げるのが上司の役目……ですが後でセクハラって言われませんよね……。
それにしてもこれで僕達は無職になった訳ですが、明日からどうやって生きて行きましょうか……。そんな心配をしていた僕の前に、懐かしい顔が現れます。
「はあはあ……先輩、大変だ……」
始まりの島の酒場ダリィースに駆け込んで来たのは、行方不明の勇者パーティーを担当していた骨拾いの後輩の男の子です。もう、連絡が途絶えて1年以上になるでしょうか、その割には元気そうで何より。
ではなくて、何か悲壮感がある顔です。今は魔王ズンマも居なくなって非常に気分が良いので、聞きたくありませんが、仕方なあーく話を聞きます。
「魔王の城があった近くの地面の割れ目と裏の世界が繋がっているんです。そこにも魔王が居て、その名もミンドラウス!」
「は、はははっ……また魔王ですか……」
「先輩も今、勇者パーティーに付いてるんでしょう?その勇者パーティーにお願いできませんか?裏の世界の魔物が強過ぎて、僕の勇者パーティーなんか歯が立たないから町に引き籠っているんですよ!」
なるほどねえ、地面の割れ目に落ちてしまい、偶然にも裏の世界を発見。そこも魔王が居るみたいですが、こちらの世界に比べてさらに強い魔王であると……。
はあ、折角、楽しみにしていた無職生活……ではなく、骨拾いも休職して骨休めをしようと思ったのですが……骨拾いなだけにね。そんなおじさんギャグは置いて、
「アリスくん」
「はい、何でしょうかウブスナさん」
「ドロシーくんに声を掛けて来て、骨拾いに復職することを僕の権限で許可します」
「はいっ!喜んで!」
アリスくんは嬉しそうな顔をしていますが、僕はまた肩に重い荷を担いだ気分です。
ですが、話を聞いた限りでは魔王ズンマより格上の魔王、こちらも骨拾いの総力を上げて対応しなければなりません。
ふう、骨拾いの仕事はまだまだ続きそうです。




