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魔王が世界を支配できない理由  作者: トリミング中の噛み犬


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第5話 最後の勇者

 以前、出会った後輩からの報告書に、商人から装備を借り受けることが決まったと記述されています。どうやら、ロッキーくんの情熱に当てられた商人が、他の商人も説得したのでしょう。


 美人局のような方法で商人を脅していましたが、最後は誠実にお願いをしたことが功を奏したようです。ですが、あの頑固な商人が武器や防具を貸し出したということは、もしかしたら今の勇者に勝ち目があると考え直したのかもしれません。


 そんなことを考えていると、いつの間にか、解散した勇者パーティーを担当していた骨拾いの後輩が現れます。後輩も商人の気が変わったことを聞いて、そのきっかけを作ったロッキーくんが気になったのでしょう。


 ロッキーくん達のひたむきな戦いを見て、後輩もすっかりロッキーくんを気に入ったみたいです。担当する僕も鼻が高いです。


 しばらくの間、ロッキーくん達は水銀の魔物狩りをする予定。僕は久しぶりに会った後輩と酒場で一杯やることにします。え?仕事中にお酒を飲むのかって?ははは、参ったなあ。上司と部下が言葉を交わすだけですよ、これも仕事の一環です。


 それから骨拾いの後輩も僕と一緒になって、ロッキーくんを見守りました。次の勇者候補はすぐに現れませんからね。それに勇者1人に骨拾いが2人付いても何も問題はありません。


 その間に、情報交換をした勇者パーティーが魔王の護衛である6つ首の竜に挑んで、勝ったという報告書が届きました。彼らも商人から強力な武器と防具を受け取り、ロッキーくんと同じようにレベル上げをして、今はレベル60だそうです。


 レベル60もあれば、6つ首の竜は難なく倒せるでしょう。ですが、問題は魔王ズンマです。


 後輩の報告書には、魔王ズンマ戦についても記述されています。魔王ズンマのHPを半分にまで減らすことに成功しましたが、突然3回攻撃が始まり魔王の得意技、ビッグバーンを3回連続で受けたことで、敗北したとありました。


 レベル60でも駄目でしたか、僕は眉間にしわを寄せて、指を当てると酷く悩みます。


 勇者に限らず人のレベルの最高値は99までと決まっています。今まで99に到達した勇者は居ません。僕の知っている勇者でも一番レベルが高かったのはこの報告書に書かれていたレベル60の勇者なんです。


 一体どれだけレベルを上げれば勇者が勝てるのか見当も付きません。


 すると、ロッキーくん達の下に、瞬間移動の魔法で情報交換をした勇者パーティーが訪れて来ます。気付いたら僕の背後にも、もう1人の後輩が居ました。


 私に後ろを取られるなんて、衰えましたね。って言われたのが結構傷付きました。僕も歳なんですかね。


 これで骨拾いが3人揃うという珍事が起こってしまいます。ちなみに後輩は2人とも女の子です。おじさんの僕としては嬉しいところですが、彼女達も一流の骨拾い、手を出そうものなら魔王以上に手痛い反撃を受けます。


 後輩の話では、どうやら魔王ズンマの攻略の糸口を掴んだみたいで、その相談に来たようです。僕達3人が聞き耳を立てて、勇者同士の会話を盗み聞きします。


 魔王に挑んだ勇者の話では、守備力とHPが最も高い戦士があっという間にビッグバーンでHPを削られて、前衛が崩壊したと言っています。


 魔王の得意技、ビッグバーンは守備力を無視する固定200を与える威力があります。レベル60の戦士ともなればHPは800に近いでしょうが、僅か一度の攻防で半分以上が減ることになります。


 後はまだ、彼らの知らない魔王の行動が残されているのですが、僕からは教えることはできません。


 彼らの話はまだ終わりではありません。ロッキーくん達の持つ武器、防具を貸して欲しいと懇願します。彼らの持つ武器、防具は2人分、ロッキーくんの持つ武器、防具も2人分、勇者パーティーは4人なので、妥当な申し出だと思います。


 ロッキーくんはまだレベル上げの最中、それならばと快く申し出を受けて武器と防具を手渡します。


 この日は水銀の魔物狩りを早めに切り上げて、勇者パーティー同士の交流会が酒場で開かれることになりました。


 僕達も酒場の2階でこっそりと宴会を開きました。仕事ばかりだと体を壊しますからね。


 ロッキーくんを気に入った後輩が僕にお酌をしてくれますが、もう1人の後輩が、それってアルハラって言うんですよ!って怖い顔で言ってきます。


 昔の骨拾いの宴会なんか、女の子のお尻や胸を触るのが普通で、女の子も笑って払い退けるくらいの気概がありました。今はやれ何ハラだと厳しい世の中になったものです。


 ですが可愛い後輩からお酌をされると、お酒が美味しくなるのもまた事実。今はこの時を楽しみたいと思います。


 翌日、武器と防具を受け取った勇者パーティーが瞬間移動の魔法で去って行きます。ちょっとだけレベル上げをした後に、魔王に再挑戦するみたいです。


 可愛いけど性格のきつい後輩も一緒になって飛んで行きますが、あれだけ飲んでもケロッとしているのは若さですかねぇ。


 今度こそ、勝って欲しいところですが、魔王のことを良く知っている分、心配の方が勝ってしまいます。もう1人の後輩は僕を見て、何を心配しているのか気になるようす。後輩は魔王の戦い方を知らないから仕方ありません。


 骨拾い同士も、知り得る情報だけは共有しますが、未知の情報、つまり自分だけが知る情報は共有しません。これも情報漏洩を防ぐためです。


 ……はっきり言いますと、漏れたところで誰も魔王を攻略できないと思っています。一度の説明だけで攻略法を思い付き実践できる者は居ません。百聞は一見に如かず、実際に自分の目や体で確認しないと、情報とは機能しません。


 中には事前情報だけで魔王の強さに絶望して、討伐を諦める勇者も出てしまう恐れだってあります。それは骨拾いとしても本望ではありません。


 なので今は、ロッキーくん達の成長を静かに見守るしかありません。


 情報交換をした勇者パーティーがロッキーくんの下から去って一週間。そろそろ、魔王ズンマとの戦いの結果が届いても良い頃ですが、一向に報告書が上がりません。


 そのことに僕は少しだけ不安になります。


 すると一緒に居た後輩の下に、王様から手紙が届きます。内容は、勇者パーティーを担当していた骨拾いが重傷を負ったので交代するようにといった指示書でした。


 僕の嫌な予感が的中してしまいます。


 すぐに後輩が支度を整えると瞬間移動の魔法で、指定された町へ飛んで行きます。僕も重傷の後輩を見舞いに行きたいところですが、ロッキーくんから離れる訳にはいきません。


 これも骨拾いの辛いところです。今は自分にできることを一生懸命に行うだけです。


 それから数日後、再び情報交換をした勇者がロッキーくんの下を訪れて来ますが、来たのは勇者1人だけでした。一緒に代理の骨拾いの担当となった後輩が、僕の後ろから現れます。


 後輩の顔を見ると何か浮かない顔をしています。僕には何となく分かりますが経緯を聞いてみます。


 どうやら魔王ズンマとの戦いで、後一歩の所まで追い詰めたが、全回復の魔法を唱えた魔王のHPが全快、さらにその状態で得意技のビッグバーンと3回攻撃は継続して行ってくることで、勇者パーティーの心が折れ全滅したようです。


 担当していた後輩は、勇者達の頑張る姿を長い間見守ってきました。その理不尽な魔王の行動に頭に血が上ってしまったのでしょう。魔王ズンマに手を出してしまったようです。


 ですが逆にやられてしまい、命からがら逃げだし、重傷を負いながらも勇者パーティーを近くの教会まで運び入れると意識を失ったとのこと。


 因みにですが、全滅した後にすぐに教会や王様の下へ連れていかないと、どうなるか。遺体の腐敗は意外と早いのです。基本的に1日以内に蘇生を行わなければ、損壊の酷い部分が後遺症として残ります。2日以上経過すると、蘇生すら難しくなります。


 昔は勇者も多く居たので、結構、軽く考えられていました。とは言っても当時の骨拾いも優秀だったので、犠牲者は1人だけでしたが……。ともかく今は昔と事情が違います。


 人類の為に命を懸けている勇者の損失は未来の損失、それを失わない為に我々、骨拾いが居るのです。


 残念ながら重傷を負った後輩の担当していた勇者パーティーは、勇者以外の仲間に後遺症が残ってしまい、再起不能となりました。唯一、後遺症のなかった勇者も完全に心が折れてしまい、武器や防具をロッキーくんに返しに来たという訳でした。


 そしてすぐに勇者パーティーを解散していきました。最悪の展開です。


 こうならないように、骨拾いは魔王ズンマに手を出さないという決まりがあったのですが、後輩は決まりを破ってしまいました。こうなると上司の僕は後輩から骨拾いの仕事を取り上げるしかありません。


 僕の後ろに居る後輩も泣きそうな顔になっています。はあ……これが上司のつらいところですね。


 武器と防具を預かったロッキーくんも、顔が般若のようになり、怒りで体が震えています。仲間の武闘家の3人の女の子も、今まで見たことが無いロッキーくんのようすにとまどっています。


 これでとうとう、残る勇者パーティーは2つ、とは言え、1つは行方不明になって連絡が途絶えています。実質、ロッキーくんが最後の勇者パーティーとなります。


 ロッキーくんが勇者になって数カ月が経っていますが、新たな勇者は出ていません。そうなると、僕達の仕事も無くなり無職になります。


 次の勇者が現れるまで、どうやって生活すれば良いのか……心配することはそこじゃないでしょうと言いたい気持ちは分かりますが、僕達だってぎりぎりなんです。


 僕にとってロッキーくんが最後の頼みの綱というところです。


 再び、担当の勇者が居なくなった後輩が、僕の仕事の手伝いを申し出てくれます。彼女は優秀なので、僕はもちろんお願いをします。


 最後の勇者がロッキーくんになって1カ月後、とうとう目標のレベルにまで達したロッキーくんが、魔王ズンマの待つ城へ向うことを決めます。


 今のロッキーくんのレベルは80、僕が言うのも何ですが、良くぞここまで鍛えたものです。


 不死鳥の足を掴み、ぶら下がりながら僕は感心しています。横にいた後輩は僕の顔を見て、少し微笑んでいます。何か可笑しいところでもあったのでしょうか。


 魔王の城に到着すると、早速、中に入って行きます。魔王の城は基本的に一本道、途中には巨大な石像が動いて襲ってきたり、回転する床があったりと小さな出来事が続きますが、ロッキーくんは軽々と突破して行きます。


 そして魔王の6つ首の竜も、僅かな時間で撃破。橋の陰から見ていましたが、6つ首の竜に同情するくらい一方的かつ無慈悲な戦いでした。


 そしてとうとう、最後の地下の階段を下ると、祭壇の前に勇者の宿敵、魔王ズンマが現れます。


「愚かな人間共よ、地上は我が物、それを邪魔する者は、我が力の前に消え去るが良い!」


 僕は何度か魔王の下に訪れていますが、何度来ても台詞は同じです。つい僕は呆れた顔になってしまいます。


 ですが、今度の勇者は僕が知る中で最強の勇者です。すぐに顔を引き締めると、戦いを部屋の入口の陰から後輩と一緒に見守ります。


 ロッキーくんも魔王に負けないくらいの大きな声を上げます。


「父の仇、ここで取らせてもらう魔王ズンマ!」


 父の仇……そう言えばロッキーくんは古い手紙を持ち歩いていました。その手紙も父親からもらったものなのでしょう。そして、過去に魔王ズンマに倒された勇者で、蘇生が間に合わなかったのは……。


 僕が必死に思い出そうとしていると、ロッキーくんと魔王ズンマの死闘が始まります。

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