第3話 海を渡って世界へ
その後、夫婦から香辛料を受け取り王様に渡すことで、ロッキーくん達は船を入手することに成功、大海原に航海に出ます。ここから魔王ズンマに辿り着く為に必要な道具を集めることになります。
それが至宝の鍵、悪魔の像、不死鳥の卵、なのですが、これも勇者でしか入手ができません。しかも一度入手すると、別の勇者が来ない限り再び宝箱に戻ることはありません。
昔はレベルの高い勇者が、その道具を集めて他の勇者に転売しようとしましたが、手渡した瞬間に消滅してしまいました。何度か繰り返していましたが、何度やっても結果は同じ。
手順を踏んで自分で道具を集めないと、手に入れられないのです。ちゃんと神様が見守っているんですね。
これが勇者でないと魔王が倒せない要因の1つになっています。
後、大変なのは、骨拾いも船に便乗しなければならないこと。ここで重要になるのが、存在感の薄さです。身体的に強い人というのは、存在感も比例して増していくものです。
多くの骨拾いの志望者はここで脱落して行きます。
僕はというと、生まれながらに存在感が薄いので、船室でゆったりと過ごしています。初めて船を入手した勇者というのは、甲板にずっと出たがるものなのです。
この空いた貴重な時間を見計らって、体を休めることも骨拾いとして大事なことなんです。久しぶりに波に揺られる感覚を楽しませて頂きます。
夜になるとロッキーくんも就寝します。そうなると、今度は僕が甲板に出て操舵をします。骨拾いはここまでやるの?と良く言われますが、勇者も人の子、寝ないで旅を続けることはできません。
どうやら次の目的地は、新しい大陸のようです。進路は真っ直ぐに保つようにしましょう。
新しい大陸に着くと早速、その大陸を治める王様に会おうとロッキーくんがお城に向かうのですが、門番が邪魔をして入れません。ロッキーくんが左から避けて入ろうとすると、門番が素早く移動して立ち塞がる。
何度か試していましたが、無理だと分かったようです。ロッキーくんは切り替えが早い、すぐに町の人に話しかけて情報を聞き出しています。
ここは、貝になり草というアイテムで存在感を消す必要があります。僕はというと、門番の横を何度も素通りできます。ちょっと嬉しいような悲しいような気持ちになります。
貝になり草の情報を得たロッキーくんは、始まりの島に戻ることを決めたようです。瞬間移動の魔法を唱えると、仲間と船が一緒になって空へ飛んで行きます。
僕はというと、同じように瞬間移動の魔法を唱えて後を追います。全ての魔法を修めることも骨拾いとして必須なのです。
到着するとすぐに始まりの島の西にある大きな大陸を船で目指します。
そこは地球の口と言われる洞窟に繋がる町があります。偶然にも、そこには重要な道具である悪魔の像が置かれた洞窟でした。ロッキーくんが貝になり草を買うついでに、町の人から情報を聞き出していると、そのことに気付きます。
すると笑顔になって小さくガッツポーズを取ります。いやあ、少年らしい笑顔のロッキーくんを見ると、僕まで嬉しくなってしまいますね。
ですが、ここの洞窟にはある制約があります。1つは1人だけしか入れないこと、2つに魔法が使えないこと、地球の口と呼ばれる洞窟ですが、その制約もあって苦行の洞窟と呼ばれています。
過去の勇者が何人も脱落した難所ですね。ですが脱落する原因は他にもあります。
それは船を手に入れてから行ける場所が増えたことで、レベル上げが疎かになることです。冒険心が先行してしまい基礎を疎かにする、冒険に慣れた勇者が陥りやすい状況です。
もちろんロッキーくんもそうなっています。苦行の洞窟の適性レベルは25前後、今のロッキーくんはレベル19です。武器や防具も船を手に入れた時のまま、これでは洞窟の魔物の攻撃に耐え切れません。
このことをロッキーくんに伝えたい気持ちが出ますが、ここは我慢です。ここで大事になるのが忍耐力。人とは知っている知識を人に教えたがる質があります。意外だと思われますが、骨拾いを目指す人の中には勇者に助言をして脱落する人も居るんです。
苦行の洞窟と繋がる教会の陰で、僕は教えたがる気持ちを我慢して必死に口に手を当て抑えます。
どうやらロッキーくんが苦行の洞窟に挑むようです。教会の屋根をつたって後を追って行きます。
地下3階の構造になっている洞窟ですが、地下3階からは強力な魔物が出現すること、進む道が2つに分かれて選ぶように迫られることが難関として待ち受けています。もし間違った道を選ぶと行き止まりにぶつかって、回復草とHPが底をつき全滅することが確定します。
しかし、今のロッキーくんのレベルでは地下3階まで行く余裕がありません。地下1階でロッキーくんが緑色の大きな蟹の魔物と戦闘しているのですが、苦戦をしています。パーティーであれば何も問題無い相手ですが、1人では強敵です。
なんとか勝ったロッキーくんですが、顔色が優れません。その場に立ち止まり何か思案をしているようです。すると驚いたことに、入口の階段へと戻って行きます。
今まで何人か勇者をここまで見守って来ましたが、引き返す選択をしたのは彼だけです。他の勇者は倒れたところで教会か王様の下に運ばれるだけと、高を括って先に進んでいました。
そんな無謀な勇者を、僕は呆れながらも何人も運んでいました。
でもロッキーくんは引き返しました。この行動は僕に衝撃を与えました。引き返すことは進む以上に勇気が必要なんです。骨拾いとして相応しくはないのですが、嫌でも彼に対する期待が高まってしまいます。
ロッキーくんは貝になり草を入手したので、ひとまず、先ほどの門番が立ち塞がるお城へ再び赴きます。
貝になり草を使って存在感を消すと、見事に城内に入る事ができました。後は、お城の地下にある丸い岩石を星マークの地面に3つ並べて置くだけなのですが、結構苦戦しています。
さきほど見せた勇ましさとは違う困惑する表情が面白い思ってしまった僕は、物陰で必死に笑みを押し殺していました。僕も性格が悪い……。
彼が苦戦しているのも、パーティーに魔法使いのような知能の高い状況判断に強い者がいないことが原因です。武闘家の女の子3人は外から応援するだけで、頭脳的な仕事はロッキーくんに丸投げです。
脳筋パーティーの悲しき定めですね。ですが、何度もやり直して時間をかけて何とか丸い岩石を所定の位置に置くことに成功しました。
隠し扉が開き、その先に宝箱が置かれています。その中に重要な道具の1つ、至宝の鍵が入っているのです。ロッキーくんが宝箱を開けて至宝の鍵を入手すると、武闘家の女の子3人が嬉しさではしゃぎだします。
まだ重要な道具の一つ目を入手しただけですが、僕も心の中でおめでとう、と呟きます。
ここからロッキーくんは残りの不死鳥の卵について情報を得ようと、レベル上げを兼ねて各地を船に乗って旅に出ます。悪魔の像の所在はすでに分かっていますからね。
こう言うのも不謹慎なんですが、ロッキーくんほど優秀な勇者だと全滅することが無いので、僕の仕事も無いんですよね。
本当は喜ぶべきところなんですが、僕の仕事は骨拾い、全滅してからその本領を発揮しますので、何とも言えない気持ちです。強いて言えばちょっとは頼って欲しいなあと、そんな気持ちです。
また愚痴を言ってしまいました。ですが、僕としてはこれは不満な愚痴ではありません、むしろ前向きと言いますか、満足している以上だからこそ出た愚痴なんです。
人って不満があっても満足していても、愚痴って出るんですねえ。はははは。
そんなロッキーくんですが、船で入り組んだ川を上って小さな村を訪れます。そこで情報を集め終えると、村の外へ出てレベル上げを開始するのですが、そこで経験値を豊富に持つレアな魔物と出会います。
水銀のような魔物なのですが、異常に守備力が高くて攻撃が通じません。ロッキーくんは脳筋パーティーですので、手の施しようがありません。
しかし、武闘家は必殺の一撃が出しやすい職業です。必殺の一撃は魔物の守備力と素早さを無視して、確実に攻撃を通すことができます。
諦めずに蹴りを放った武闘家の女の子から運良く必殺の一撃が出ると、水銀の魔物を一撃で倒します。
そして豊富な経験値を得ると一気にレベルが上がります。ロッキーくんが水銀の魔物は経験値の多いことに気付きます。すると、周りに居た仲間を集めて相談を始めます。
それから村を拠点として水銀の魔物狩りが始まりました。ここで一気にレベル上げを済ませてしまおうという作戦です。
普通のパーティーであれば、水銀の魔物は出会って倒せればラッキー程度の扱いです。狙って狩ろうとしても、すぐに逃げてしまいますし、攻撃が当たらない、当たっても雀の涙程度の威力しか与えられません。
それなら、比較的経験値が多い魔物を回数を重ね、倒した方がレベルが早く上がるのです。
しかし、ロッキーくんは武闘家を3人抱えるパーティー、これ以上ない必殺の一撃が狙えるパーティーなのです。水銀の魔物は3回に1回は倒せていますので、効率も悪くはありません。
それに長居をする拠点を決めてくれたことは、僕にとってもありがたい。今まで溜まっていた報告書に目を通したり、ロッキーくんの活動報告書のまとめを行います。
後輩の骨拾いの報告書を読んでいると勇者パーティーの1つが、つい最近、解散したという記述がありました。そのパーティーはレベル40に達したばかりで、最も強い勇者パーティーでした。
ですが、魔王ズンマの直前に待ち構えている、魔王の護衛の6つの首を持つ竜に負けてしまったのです。
原因は至って明快、装備の弱さ、そして活動資金の枯渇です。
今の勇者は国からの支給、支援は無いと言いましたが、こういうことが巡り巡って後になって効いて来るのです。
装備に関しても30年前にあった、らいめいの剣、いのりの剣、みずの陣羽織、剛力の盾、反面鏡の盾、刃先の鎧など、こういった宝箱でしか入手できない強い武器や防具は、すでに過去の勇者によって売り払われ商人達が独占しています。
解散したパーティーは、そんな逆境にもめげずに必死になって魔物を倒して、資金を集め、忍耐強く力を付けていきました。ですが町で売っている汎用品だけでは、どうしても竜から放たれる炎などの魔法攻撃に耐えることができません。
全滅を繰り返すこと10回、仲間を生き返らせる資金も底をつき、勇者が泣く泣く解散を決断しました。
解散を決めた勇者の気持ちを考えると、僕も胸を締め付けられる思いになります。何より、その勇者に付いていた僕の後輩の気持ちはそれ以上にやるせないでしょう。
後輩が変な行動を起こさないように、僕は必死に宥めるような手紙を送ります。僕だって骨拾いという仕事がなければ、商人達が独占している強力な武器や防具を力づくで奪いたいのです。
ですが、それをやってしまってはぎりぎりで保っている、人の社会を自ら崩すことになるのです。魔王に加担している行為と言っても良い。……とはいえ、そのことが分かっているからこそ、商人達は好き放題やっている訳ですけどね。
僕が久しぶりに気持ちを落としている中で、勇者のロッキーくんは順調にレベルを上げて逞しくなっています。彼の成長が僕にとって癒しであり、希望になっています。




