第2話 勇者としての素質
王様の前までロッキーくん運び込むと、王様がこれ見よがしに嫌な顔をします。
まあ遺体を見るのが嫌というのもありますが、期待していない、やっぱりこんなもんか、こいつじゃ無理か、そんな蔑む意味も含んでいます。
僕は何度も見ていますが、この王の顔だけはいつまで経っても慣れません。この場から早く離れたい一心でロッキーくんに蘇生魔法を施します。そしてすぐに近くの柱の後ろに隠れます。
ロッキーくんが目を覚ますと辺りをキョロキョロと見回して王様が居ることに気付きます。王様の顔は笑顔です、本当に気持ちが悪いものです。そしていつもの定番通りの台詞を言い放ちます。
「おお、ゆうしゃよ!たおれてしまうとは情けない!」
僕から見れば情けないのは貴方なのですが、仕事の決まり上、そんなことは口に出来ません。
ロッキーくんは王様の小言を聞くとすっと立ち上がって、再びお城の外へ出て行きます。その後を僕はばれないようにゆっくりと付いて行きます。
向った先は仲間が待機している酒場ダリィースでした。ロッキーくんは思ったより素直で良い子です。間違いに気付いたら、何が足りなかったのか見直す力は勇者には必要です。それを彼は満たしていると言っても良い。
と、思って見ていたら武闘家の同年代の女の子3人を仲間に加えていました。
うーん……それは余りにも脳筋行動だと言わざるを得ません。しかも女の子を選んでいるのも、ちょっとした下心を持っていると見てしまいます。
恐らく酒場の店主にお金のかからない、攻撃力のある可愛い女の子を仲間に加えたいと希望を出したのでしょう。武闘家は素手での攻撃力と素早さが高いのが特徴、その反面、守備力がありません。
他にも守備力の高い魔物を苦手としています。その手の魔物には魔法攻撃がセオリーなのですが、武闘家だと魔法は使えません、有効的な攻撃ができず、倒すのに時間が掛かってしまいます。
しかしそれはまだ先の話、始まりの島だけであればこのパーティーでも問題は無いでしょう。僕は引き続きロッキーくんを陰に隠れながら見守ることにします。
……あれから一週間程経ったでしょうか。ロッキーくんが最初の難関、大陸に続く迷路の洞窟に挑もうとしています。近くの村で目一杯に回復草を買い込んでいますが、肝心の武器は大丈夫でしょうか。彼の腰に目を遣ると銅で造られた剣が携えてあったので、僕も一安心です。
最初の難関というだけあって洞窟に生息する魔物も癖があります。眠くなる息を吐く兎に、大きな体をしたアリクイの魔物も出て来ます。特に脅威なのが火の玉を放つ魔法を使う魔物ですね。
ロッキーくん達は順調に洞窟を進んでいます。どうやら正しい道を記した地図を、始まりの島の塔に居る老人から受け取ったのでしょう。この老人に出会うには、村人の話をしっかりと聞かなくてはなりません。
多くの勇者は村人に話しかけても上の空で、内容を聞いていない者が多い。その点、ロッキーくんはしっかりと人の話を聞いて、自分に必要な情報かどうか取捨選択をしていますね。これは僕の中でも好印象です。
順調に洞窟を進み、始まりの島でしっかりとレベルを上げたことで、遭遇した魔物も無難に倒して行きます。やはり仲間が居るか居ないかで、戦況はかなり変わってきます。
ロッキーくんは過去の勇者に比べてもかなり優秀です。
無難に迷路の洞窟を突破すると、ロッキーくんも晴れて初心者勇者を卒業です。僕は洞窟の出口の陰から拍手を静かに送りました。
大陸に渡ってから、ロッキーくんの手堅い行動には目を見張るものがあります。すぐに次の町や村に移動することなくその場の町を拠点に留まり、レベル上げに専念して装備を整えて、万全の状態で新しい町や村へ旅を続けています。
ですが、武器と防具の値段が昔に比べて、かなり値上がりしているのが足を引っ張っていました。魔王によって資源の入手先が限定されて、3倍以上に値段が上がっていたんです。
僕も何度か商人の方々と値引き交渉をしていたのですが、そもそも一般の人は武器や防具を購入しません。
汚いきつい危険、いわゆる3Kと呼ばれる勇者か趣味で魔物退治を行っている変わり者にしか、武器と防具は売れないんです。値下げをすれば商人達の売上が無くなってしまう、そのことではっきりと断られてしまいました。
今の商人は現物主義、目に見えた物でないと信用して商売をしてくれません。
つまり商人達は未来の世界平和よりも、自分の利益だけを追求しているのです。悲しいことですが、それほど魔王討伐が勇者には果たせないと商人達は見込んでいるのです。
魔王に支配されてしまえば、商人達の利権は全て奪われ、魔王が定めた値段で物資を強制的に購入することになる。まあ、商人ですから魔王に上手く取り入って人とのパイプ役に徹するでしょう。
おっと、商人に対する僕の愚痴が少し入ってしまいました。悪い癖です。
ですが、世界で活動している勇者パーティーは実際、この値上がりが影響して旅が滞っています。後輩の骨拾いからも、その苦情が何度も僕に上がっています。
上司と言う立場で下から叩かれる、中間管理職の定めというべきものでしょうか。
そんな苦境にもめげずに、ロッキーくんはとうとう大海原へ出るために、船の入手を目指し始めます。そう都合よく大陸同士が洞窟で繋がっている訳じゃありませんからね。
勇者として船は欠かせない乗り物なのです。
その船の持ち主である王様から、船を与える条件として香辛料を持って来るように言われます。ここは王たる気前の良さを見せ付けて欲しいところですが、何でもタダで与えてしまうと勇者以前に人として駄目になってしまいます。
30年前の勇者の中には、タダで船をくれないことに悪態を吐く勇者もいましたが、ロッキーくんは素直に従います。本当に良い子です。
この香辛料というのが、大きな山脈を超えた遥か向こう側の港町にあります。この道程にはロッキーくん達を全滅させるような強力な魔物は居ません。
僕は先立って山脈を超えた先にある港町に寄って、それから洞窟に向かい、ある盗賊の男に連絡を取りに行きます。
洞窟を進むと大きな扉が見えてきます。その扉を開けると中には黄金色の鎧兜に身を包んだ男達が4人ほどで僕を囲って来ました。
「なんだーお前は!もしかして仲間になりたいのか?」
「いえいえ、そうではなくて、ダダンカさんは居ます?」
「そうじゃないなら、ここでやっつけてやる!」
うーん、彼らも仕事に忠実で対応の仕方は間違ってはいないのですが、話を聞いてくれないのが玉にきずです。仕方なく戦闘に入りますが、彼らの振るった剣を指先で受け止めて時間稼ぎをします。
しばらくして、食料の買い出しに出ていた盗賊の親分であるダダンカさんが外から戻ってきました。
ダダンカさんが僕の姿を見ると、食料の入った布袋を地面に落として慌てたようすで部下の鎧兜の男達を制止します。
「ば、馬鹿野郎、このお方は骨拾いのウブスナさんだ!お前らが束になっても勝てねえよ!」
「こ、この人が?噂で聞いていたけど、ただのおじさんにしか見えないですよ……」
「はははは……」
魔王が現れてから30年、盗賊の人達も代替わりをしています。僕の顔を知らない者も居るでしょう。ダダンカさんの説得で部下の人達が離れて行くと、僕は勇者ロッキーくんが近々訪れることを伝えます。
話を聞いたダダンカさんが嬉しそうな顔をします。
「何年振りだ、勇者が来るなんて。あれから30年、俺を踏み台に成長した勇者も数えるほどになっちまったなあ……」
ダダンカさんは30年間、盗賊役を引き受けてくれた好漢な方です。しかし、僕と同じおじさんなので少し愚痴が多いみたいです。ははは、年を感じるなぁ。
そんな立ち話をしていると、港町の香辛料を販売する夫婦が訪れてきました。
「ウブスナさんから聞いたけど、新しい勇者の子が来るって?」
「ああ、そうみたいだ。いつものように奥の牢屋で待機してくれるかい」
「はいはい、今度はどんな子が来るのか楽しみだね」
「そうですねあなた、助けられたら楽しい踊りをしましょうね」
「……あんたら夫婦も歳なんだ、無理をしないでくれよ」
ダダンカさんがそう言うと、手慣れた様子で夫婦が別れて奥にある牢屋に入って行きます。事前に港町に立ち寄って僕が夫婦に勇者が訪れることを伝えていました。
参ったのが、久しぶりに出会った懐かしさで、店番をしていた旦那さんと長話になってしまったこと。勇者ロッキーくんはすぐそこまで来ていたので、僕は少し焦ってしまいました。
ですが、30年経った今でも相変わらず元気そうに夫婦が暮らしていたのが、僕にとって嬉しいことでした。
彼らは長年、勇者育成のために無償で協力をしてくれている方々です。勇者の超えなければならない壁と、勇者として素質を持っているか、その見極めをする重要な仕事を担当してくれています。
準備が整い安心した僕は、洞窟を出て港町へ向います。今頃、ロッキーくんが到着している頃でしょう。
港町に着くと、ロッキーくんが町の人々から話を聞いて回っていました。顔付きも旅慣れしたのか、少年とは思えないほどに逞しくなっています。
そしてダダンカさんが香辛料の夫婦をさらった、その情報を得たロッキーくんは洞窟に向かいます。同じ部屋が続く洞窟にとまどいながらも、やがてダダンカさんの待つ部屋へ辿り着きます。
ロッキーくんの持つ武器も鋼の剣に変わって、ダダンカさんとその部下達との戦闘を優位に進めています。仲間との連携も素晴らしい、各人がやるべきことを考え、行動しています。見ている僕も少し興奮してしまいます。
ダダンカさんを倒すと、最後の試練が始まります。
「ま、参ったよ、これ以上は悪さしねえから、見逃してくれよ、なっ?」
この後に【はい】、【いいえ】という選択肢がロッキーくんの前に表示されます。
僕も過去に何度もこの場面に立ち会いました。ほとんどの勇者は、必ずと言って良いほど、【いいえ】を選択していました。酷い勇者だと1時間くらい【いいえ】を選択して繰り返していました。
この場で一度だけで【はい】と選択した勇者だけが、魔王の下まで辿り着いています。それは統計でも出ているので、僕達、骨拾いの間ではこの選択を審判の時と呼んでいます。
緊張しながら見守っていると、ロッキーくんは仲間を見つめて静かに頷きます。彼は迷わず【はい】を選択しました。
「へへっ!ありがとうよ、あんたなら立派な勇者になれるぜ!」
いつもの去り際の台詞を残してダダンカさん達が去って行きます。ダダンカさんも内心嬉しいのでしょうか、コテンパンにのされた後なのに満面の笑みです。
続いて香辛料を販売する夫婦も同じで、笑顔でロッキーくんにお礼を述べて、港町に訪れるように伝えます。
皆さん有望な勇者が来たことで嬉しいのは分かりますが、もう少し、感情を抑えて頂かないと……。まあ、言っている僕も嬉しい訳ですが。
こうして審判の時を見事に乗り越えたロッキーくんに、その場に居た全員が舞い上がるような気持ちになってしまいました。
僕はほっとしています。なんてったってこの出来事は勇者としての分水嶺で、骨拾いとしてこの場面が一番緊張しますからね。




