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魔王が世界を支配できない理由  作者: トリミング中の噛み犬


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第1話 新たなる勇者の担当

 魔王ズンマが現れてから世界は闇に包まれました。各地を治める王達は、魔王が出現して以来、魔王を討つ勇者を募り続けているのですが……。


 なぜか勇者が集まりません。正確には今は、と言った方がいいかもしれないですね。


 魔王が出現したのは30年前、当時は平和で大きな争いも無く、国同士の交流も積極的に行っていました。そんな時世もあって勇者を簡単に集めることが出来ていたのです。


 王様の実施する勇者説明会に行けば、お金や武器、防具も支給してくれたし、気前の良い王であれば経験値も与えてくれました。

 中には頭の涼しい勇者候補もいて、色々な国の王様の説明会だけを聞いて、武器と防具とお金を受け取り、それを元手に旅行に行ったりもしてました。悪い言い方をすれば、勇者の血さえ引いていれば馬鹿でもなれるという訳なんですね。


 勇者達のスタート地点、始まりの島はレベルが段取り良く上がるように、弱い魔物が住む場所を選んでいましたし、近くの村の宿代もタダ同然の値段で泊まれるようにしていました。足りない分はその土地を治める国の税金で補填していますけどね。


 そして始まりの島で研修が終わると最初の難関、他の大陸に続く長い迷路の洞窟を越えて行けば、晴れて初心者勇者の卒業となって、本格的な実務に入っていくことになります。


 30年前はこんな至れり尽くせりの状況だったので、勇者、勇者のオンパレード。勇者が多過ぎて、宿屋や武器屋、洞窟の入口で混雑が起こっていました。その時はとても忙しかったのを覚えています。いやー懐かしいなあ。


 勇者と言っても千差万別、しっかりとレベルを上げて進む者もいれば、装備に頼った強引な進め方をする者もいる。カジノで全財産を失ったり、仲間と結婚して辞めて行く勇者も居ました。

 まあ色々な勇者が居ましたけど、その多くの勇者達も順調に旅を続けて、魔王に挑むまでに成長していました。


 だけど、誰一人として魔王に勝てません。勝てない理由は単純で、皆が思っていた以上に強かったのです。


 魔王ズンマは最初こそ2回攻撃の素手の攻撃、魔法攻撃を繰り返しますが、HP(ヒットポイント)が半分を切ると、得意技のビッグバーンを放って来ます。そのビッグバーンの威力は守備力を無視して固定で200を与えます。人のHPの限界は999と言われてます。


 大体の勇者は魔王に挑む時のレベルが40前後で、HPは400から500の間が平均値になります。その状態で勇者の攻撃が終わる度にビッグバーンが放たれる。大体の勇者は3回目か4回目で回復が追い付かずに力尽きちゃうんですね。


 回復に専念して生き残ったとしても、魔王ズンマのHPが3分の1になると攻撃が3回攻撃となります。もうここまで来ると完全に殺しに来ています、いや、その……魔王だからと言われればそうなんですけどね。


 そして止めに魔王はHPが残り少なくなると、一度だけHPを全回復をする魔法を唱えてくる。こんなのあり?って感じですよね。


 そんな理不尽な強さもあって、最初は魔王ズンマの打倒に希望を持っていた勇者達も諦めちゃったという訳です。


 当時はまだ景気も良かったし、同年代の友人は海遊びに山遊びに酒場遊び、良い馬を買っては各地の国に行って旅行を楽しんでいる。


 それを見て、頑張ってた勇者も折れちゃいまして。結局、勇者のほぼ全員が遊び人に転職してしまいました。ここから魔王ズンマの快進撃が始まりました。


 勇者が居なければ怖いものなし、王達の抵抗も虚しく、人の住む土地が奪われていきました。そうなると国の同士の交流も途絶えるし、資源のある場所は魔物が棲み付く。


 あっという間に景気が悪くなって人間社会は転落して行く訳です。


 そんなこともあって、今の勇者の募集内容は、全てが現地調達、自己負担、国からの支給、支援無し。つまり自費で手探りの状態で魔王ズンマまで辿り着かないと行けない訳なんですねえ。こんな条件で今の若者が勇者をやるかって話です。


 おっと、つい話に夢中になってしまいました。僕はウブスナと言います。


 年齢は42歳、少し増えた白髪とぽっこりお腹が気になる年頃のおじさんです。仕事は主に勇者に気付かれないように張り付き、全滅した時にその遺体を回収する、通称、骨拾いと呼ばれています。


 倒れた勇者を近くの町の教会、または王様の下まで運んで引き渡します。勇者達の存在が陽としたら僕達は陰と言ったところでしょうか。こんな地味な仕事が勇者を支えているんですよ。


 お給金もそんなに悪くはありません……昔はですが。


 僕らの収入は倒れた勇者の所持金の半分ですが、稀に取らない時もあります。基本的に勇者は無料で生き返ることができますが、仲間は勇者の現金払いのみです。


 仲間が生き返らないと場所によっては、詰みの状態になることがあります。そういう緊急時のみは、お駄賃を頂かないことになっています。


 魔王を倒すために命を張っている勇者に、追討ちをかけるようなことをしては意味がありません。骨拾いの中にも勇者をわざと全滅させて収入を増やそうと企む者も居ましたが、僕が全員粛清しました。あはははは。


 とは言え、今、僕が担当する勇者は居ません。ほとんど無職の状態に近いです。


 今は始まりの島にある、勇者の仲間が集う酒場ダリィースの2階の片隅の部屋に滞在しています。昔はニックネームを仲間に与える副業もしていたのですが、面倒臭がる勇者が多くなって今は廃止になりました。とほほ。


 ですが完全に仕事が無い訳じゃありません。こんな厳しい条件でも勇者になってくれる若者も居ます。ありがたいことです。


 現在、勇者として活動しているパーティーは全部で3つ。担当している骨拾いも全員が僕の後輩になります。先輩方はとっくに定年を迎え、悠々自適の王都暮らしをしています。


 そうなると、当然、上司の僕が後輩の面倒を見ることになる訳ですが、僕はとても運が良く部下に恵まれています。手の掛からない優秀な後輩が今も勇者の側について仕事を滞りなく行っています。


 骨拾いとして重要な素質は、存在感が薄い、忍耐強い、そして最も大事なのが身体的に強いことです。


 勇者が倒れる場所は決まって危険な場所と相場が決まっています。そこの魔物にやられるようじゃ、この仕事は続けられません。


 昔は同僚もたくさん居ましたが、魔物にやられてしまった者も多い。もちろん陰の仕事ですから、見舞金なんかありません。今で言うとブラックジョブと言われる勇者と変わりはないですね。体を壊しても誰も面倒は見てくれません。


 ですが、この仕事を放棄してしまったら人は魔王ズンマに降る以外に道がなくなります。世界中の王は処刑されて、人々を率いる者が居なくなったらそれこそ人類はおしまいです。

 それだけ重要な仕事なのですが、あって当たり前やって当たり前、これが今でもまかり通っているのが悲しい現実です。


 そんな暇を持て余した僕に、王様の使いの者が訪れてきました。何の用かなと思っていましたが、使いの者が来るということは新たな勇者が現れたということ。長年、勇者が居なかったのでつい忘れていました。


 いやー久しぶりの仕事で僕も少しだけ嬉しくなっちゃいます。ですが、ここで骨拾いとして注意しないといけないことがあります。


 新たに勇者に就任すると、王様から武器防具お金を支給……されませんが、代わりに必ず酒場ダリィースに寄って仲間を加えなさいと説明を受けます。これが困ったことに、中には天邪鬼な勇者が居て、1人で旅立とうとするんですよね。


 1人で旅立てば倒した魔物の経験値を独占できるという恩恵はありますが、勇者はいわゆるバランス型、攻撃も守備も素早さも賢さもHPもMP(マジックポイント)も平均値しか上がりません。


 何でもできる器用貧乏と言ったところでしょうか、これでは町を出てもすぐに全滅することは必至です。そんなこともあるので、骨拾いは酒場では無く、勇者の訪れた城の前に待機しています。


 お城から出て来た勇者らしき少年が見えて来ました。頭には勇者の証明となるヘッドバンドを付けています。まず間違いはありませんね。この少年も父親から譲り受けたのでしょう。


 勇者は誰もがなれる仕事ではありません。勇者の血を引き継ぐ者にしかなれないんです。幸い世界中に勇者の血が繋がり、多くの勇者候補が存在しています。


 ですが、以前言った通りの悪条件ですので、王様の側近、衛兵などに就職してしまいます。本当なら王様が無理矢理にでも勇者にさせるべきなんですが、魔王軍が近くまで迫っていると自分の身が可愛くなるんですね、勇者の力を持つ者を側に置くようになってしまいました。


 こうなったのも、問題の先送りを続けてきた王達に責任があるのですが、魔王は能天気に待ってはくれません。少しずつですが、人の住む土地を脅かしつつあります。


 おっと、言った側から勇者の少年が布の服だけで、町の外に出ようとしています。若さから来る自惚れというものでしょうか。後を付けて行きます。


 町の外は平原地帯で、遠くにちょっとした森があるくらいで、歩くのに苦はありません。勇者の少年が次の村に向かって地図を広げ、確認しながら歩いています。ですが、武器は何も持っていないようす、これでは全滅するのが目に見えています。


 ですが、僕にはどうすることも出来ません。僕の仕事は骨拾い、倒れた勇者を何度も生き返らせるために働くだけなのです。


 そうしている内に勇者の少年が、青い水の塊、大きな体をしたカラスの魔物と戦闘に入りました。勇者の少年も拳を握って戦闘態勢です。


 先制の攻撃を青い水の塊に仕掛けますが、やはり大した威力が与えられていないみたいです。2体の魔物の攻撃を受けながら、必死に殴り続けますが倒せたのは青い水の塊だけで、カラスは残っています。


 カラスの嘴の一撃を受けると、勇者の少年が倒れてしまいます。全滅をしました!という状態ですね。


 こうなると僕の出番になります。近くの草むらから出ると勇者の少年の遺体を回収しに行きます。もちろんカラスの魔物は残っている状態です。


 僕のことに気付くと大きな鳴き声で威嚇をしてきますが、まあ僕にとっては九官鳥のようなものでして、軽く拳を当てるだけで、カラスの顔が吹き飛んでしまいます。


 静かになったのでゆっくりと仕事に入れますね。勇者の少年の体を持ち上げようとしたら、体から手紙が落ちました。大分、古いみたいですが大事なものみたいなので一緒に回収します。


 ですが、手紙の宛先に書かれていた勇者の少年の名が目に入ってしまいました。名前はロッキーと言うらしいですね。骨拾いの仕事の関係上、本当は名前を知ってはいけないのですが、これは不可抗力という奴で仕方ありません。


 僕は魔王を打倒する立派な勇者に育ちますようにと祈りながら、王様の居るお城までロッキーくんを運びます。

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