砂漠の王族たち④
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「あなた、陛下に可愛がられているからって調子に乗らないことね」
見知らぬきつめの美女に睨まれて、エデルは少々凹んだ。
いや、そういう関係じゃないんですけど。ってゆーか、あの王様、まじで何考えてんの?
とか何とか考えながらも、表面上はロードナイトの皆に叩き込まれた笑顔を保ったままにした。
ここで下手に表情を崩すと、さらなる追撃が待っている。
笑顔でいても文句は言われるのだが、にこにこと微笑んで相手を見つめているだけで勝手に感情を爆発させてどこかに行ってくれるので、反撃するより楽だということを最近学んだ。
相手はこの砂漠の王家に連なる女性ばかりだけど。
「ねぇ、聞いているの!」
「マディーハ様、これ以上エデル様に何かおっしゃるようでしたら、陛下にご報告しなくてはいけなくなりますが」
「侍女如きがうるさいわね。わたくしを誰だと思っているの!」
メラが止めようとしたのだが、マディーハという名のこの女性はメラのことをあからさまに見下していた。
「マディーハ様こそ陛下のお言葉を何だと思っていらっしゃるのでしょうか。この御方は、陛下の庇護下にある御方です。たとえ陛下の弟君の姫君といえど、陛下の命に従わないという選択をなさるのでしたら、反逆の意思有り、ということになりますが、よろしいでしょうか?」
「ッ!そういうことではないわよ!わたくしは一族でも何でもないこの者が、陛下の寵愛を良いことに好き勝手しないように言いに来ただけよ!」
完全なる言いがかりではあるが、生憎とエデルもメラも、「陛下の寵愛」という部分だけは否定出来ない。
王宮に連れて来られてから毎日のようにアーディルは顔を出すし、エデルに与えられた部屋は後宮でももっとも良い部屋の一つだ。
同格の部屋に住んでいるのは、正妃くらいだろう。
これで寵愛していない、というのは正直、無理がある。
しかも、どこからともなく陛下が連れて来たのはファイサル殿下が寵愛していた者だ、という噂が立ったらしく、アーディルが面白そうに教えてくれた。
おかげエデルは、立派な傾国の美女と化した。
第四王子と国王を手玉に取るアクジョって誰ー? という叫び声を部屋中にむなしく響かせたエデルに対してアーディルは爆笑していたし、メラは困ったような顔をしていた。
丁重に保護するんじゃなかったのかよ、と文句は言った。
返答は、虫退治くらい付き合え、だった。
「わたくしは、あなたなんて認めないわ!」
「認めるかどうかの判断をなさるのはアーディルおじ様であって、姫君ではありませんよ。それにあまり強い言葉を使われますと、不興を買うだけですよ」
「うるさいわね!」
エデルの正論に、マディーハはますます声を荒げた。
いや、だって、普通に考えて国王がものすっごい権力を握っているこの砂漠の王国で、国王が認めた人間に対して、王族の血を引く姫とはいえ格下の人間の認めない発言はやばいだろう。
メラの言う通り、反逆したと捉えられてもおかしくない。
何にせよ、エデルが国王のことをアーディルおじ様と呼んでいるのにそこに気付かず文句を言っている時点で、ちょっと小物感がある。
「とにかく!あなたのことは誰も認めてないんだから、さっさとここから出て行きなさいよ!陛下にも自分から言いなさい!」
「あ、それは無理です」
実際のところ、アーディルに名前を呼ばれて倒れた後、記憶は戻ったのだ。
二日ほど寝込むことになったが、目覚めた時、エデルは自分がアリアの夫であることを思い出していた。
当然、エデルはアリアの下に帰るつもりだった。
何なら、この国に滞在しているであろう旅の一座にもぐり込ませてもらってでも帰るつもりだった。
待ったをかけたのは、アーディルだ。
「何の許可もなく俺の可愛い息子を嫁に持っていきやがったんだ。ここらで一つ、親からの試練は必要だろう。あれだ、息子を嫁にほしければ俺を倒してからにしろ!ってやつだ」
「許可も何も、俺自身が自分と陛下との関係なんて知らなかったんですよ」
「アーディルおじ様と呼べ。まぁ、お前がここに来なければ俺もやるつもりはなかったんだが、今のお前は俺の手の中にいるからな。そりゃー、やるだろ」
「やらなくていいです。というか、まず俺の母親について教えてください」
「俺好みの美人だったぞー。顔はお前にそっくりだったから、鏡見ろ。雰囲気は全く違うけどな。腹に子供がいてもいいから俺の妻になってほしいと言ったんだが、きっぱり断られた。俺の初恋だな」
「え?その頃、もういい大人でしたよね?で、初恋?」
「見ての通り、昔っから女に不自由したことはなくってなー。そんな俺の初めての恋だったんだよ。初恋は実らん」
「うーん、そう言われると、俺、アリアさんが初恋かなー」
「あぁ?お前の方が初恋遅いだろ。それに実ったのがムカつくな。よし、試練を増やそう」
「ちょッ!アリアさんに手を出したら、アーディルパパって呼ぶぞ!」
「ほぉ、それも有りだな」
「……俺が悪かったです」
墓穴を掘った感が出て、最終的にエデルは嫌々だったが、『アーディルおじ様』呼びで落ち着いた。
その間もメラはずっと部屋の中にいたのだが、『息子を嫁に持っていった』という言葉で合っているのかどうかを疑問に持つのは私だけだろうか……?と思っていたのだった。




