砂漠の王族たち⑤
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ぷりぷりと怒りながら部屋から出て行ったマディーハは、アーディルの弟の娘だ。
弟と言ってもアーディルとは母親が異なるらしく、アーディルが特に可愛がっているというわけでもないのだが、今の王家は年頃の娘という存在が少なく、マディーハは自分が価値のある人間だと思っているそうだ。
「……嵐のような人だったね」
ぐったりとソファーに座ったエデルが聞くと、メラが冷たい水が入ったコップを渡してくれた。
「マディーハ様は、その、ファイサル様にご執心でして」
「うわー、なら彼女の中での俺の評価、最低じゃん」
「何せ、第四王子殿下がご寵愛されていたのを国王陛下が無理矢理奪っていったそうなので。そして、陛下のご寵愛の深さを盾にして好き放題にやっているという噂です」
「まじで、それ何処のアクジョだよ」
実際は、どちらかというと監禁生活に近いのに。
「色々と噂が立っておりますよ。聞かれた時は否定しておりますが、そんな度胸も勇気もない人間がおもしろおかしく噂しているようです。ただ……ちょっと否定出来ない部分もございますので……」
「……あぁ、うん……ソウダネ」
何故かアーディルのエデルに対する愛は深い。
それこそエデルのために宮の一つも建てかねない勢いだ。
何で?という疑問は、エデル自身は一番持っている。
初恋の女性の息子、という理由だけでは薄すぎる気がする。
「よう、エデル」
そんな話をしていたら、元凶は元気に入ってきた。
「アーディルおじ様」
違和感一杯の呼び方だが、アーディルが嬉しそうなのでもう諦めた。
「マディーハが騒いでいたそうだな」
「実の姪っ子さんでしょう?ちょっとは構ってあげたらどうです?」
「やだね。それでますますアイツが自分は特別だってつけあがったらもっと面倒くさいだろ。ただでさえ、もう政略結婚にも使えそうにないのに」
「使えないですか?」
「使えないだろ。アイツ、お前が俺の庇護下にいるってことの意味を全然分かってないからな。今回、騒いだことで多くの人間にそれが露呈した。ま、俺の子供でもないし、アイツの嫁ぎ先はアイツの親が決めればいい」
「貴重な王家の血を引く姫君ではないんですか?」
「どれだけの貴種だろうが、状況が見えない人間はいらんトラブルの元になる」
「ってゆーか、ここ、そういう人が多くないですか?」
「お前はちょうどいい試金石だなー」
アーディルは、エデルと他の女性との接触を禁じていない。
他の王族との接触も、だ。
実際、エデルが父の後宮に入れられたと知ったファイサルは、すぐにエデルに会いに来た。
けっこう悲壮な顔でやって来たのだが、エデルがのほのほしてお菓子を食べていたので、拍子抜けしていた。
……あれは、ちょっと申し訳ないことをした。
記憶も無事に戻ったし、本人曰く『エデルの最初の男』であるアーディルにエデルを害する意思が全くないことを伝えて、心からのお礼を言った。
ファイサルが助けてくれなければ、エデルはどうなっていたのか分からない。
こうしてのほのほ出来るのも、あの時、ファイサルが助けてくれたからだ。
アーディルにそのことを告げると、アーディルも褒美を考えると言っていた。
父からの褒美に喜びを表すかと思ったら何か恐れおののいている感じがあったので、この親子関係も複雑そうだとエデルは悟った。
何か俺の周り、複雑な親子関係多くない?
エデル自身はひとりぼっちの旅する吟遊詩人だったので、そんな複雑怪奇な家族関係にちょっと引いてしまった。
父親っぽい、と言えば座長なのだが、よく考えたらどうしてただの一座の長がどうしてこんな大国の、当時は王子だと思うけれど、国王と知り合いだったのだろう。
あと、お母さん、アーディルおじ様の求婚を断ってくれてありがとう。
おかげで後宮に閉じ込められることなくすくすく成長して、奥さんと知り合うことが出来ました。
今の溺愛っぷりを見ると、もしエデルが赤ん坊の頃からここで育てられていたら、文字通り『箱入り息子』が出来上がっていたと思う。
これに関しては、メラも同意見だった。
「えぇ、陛下は少しでも目を離したらエデル様がどこかに行ってしまう、とでも言うかのように付きっきりでした。子守歌を歌いながらエデル様を寝かしつけていた陛下は、完全に父親の顔をしていらっしゃいましたよ。それをエデル様の伯父君が面白くなさそうに見ていて……。騒ぐとエデル様が泣いてしまうので、静かに視線だけで変な攻防をしていらっしゃいました」
メラの言う「伯父」とはきっと座長のことだと思うけれど、血の繋がりは……多分、ない。
と思っていたけれど、最近、ちょっと怪しんでもいる。
とはいえ、もう母も座長も天の国に召されているのでその真相は謎のままだ。
あと、エデルの父親については、アーディルは知らないらしい。
エデルの見た目から北の国の人間なのは分かるが、それがどこの誰というのは知らないそうだ。
それが真実かどうかは分からないが、知っていてもこの時点で言う気はないのだろう。
アーディルに強引に口を割らせることが出来る人間など皆無なので、こっちの真相も今のところは闇の中だ。
今さら父親が恋しいとかいう年齢でもないのだが、妻が辺境伯である以上、自分の素性が怪しすぎるのもどうかと思ったので知っているなら教えてほしかった。
せめて、十年後とかにでもこそっと教えてほしい。
元々エデルは、十年後くらいにはまたひとりに戻っていると思っていた。
結婚した直後は、十年後ならクロノスももう成人に近い年齢だし実の伯母が傍にいればいいだろうし、アリアにしてもお似合いの男性が現れているだろうと思っていた。
そうなったら、素性の知れない吟遊詩人の自分はもうお払い箱だ。
こそっと二人の前から姿を消すのもいいかもしれない、などと思っていたのだが、きっと十年後もアリアはエデルを手放してくれない。
アリアとしっかりと絆が深まりまくっている時なら、自分の素性がとんでもないものでも受け入れられる気がする。
何となく、そう本当に何となくだが、父親がヤベー人な気がしているエデルだった。




