お姫様たち①
読んでいただいてありがとうございます。
今日もマディーハは元気にエデルにちょっかいをかけにやって来た。
ここに来ちゃだめだよ、と教えてあげたいが、マディーハはおまけを連れて来た。
「あなたが陛下を誑かしたという悪女ね」
いかにも高貴な生まれです、というのを主張している女性をマディーハは連れてきた。
ジャラジャラと身に着けている装飾品はとても綺麗なのだが、ありすぎて目が痛くなる。
……正直に言うと、あまりエデルの趣味じゃない。
対するエデルは、アーディルから渡された小ぶりの宝石が付いたネックレスだけだ。
アリアから贈られた宝石類は、お値段が怖いから身に着けていなかったのでアリアのところに置いて来た。
誘拐された時に身に着けていなくてよかったと心底思ったくらいだ。
豊かな黒髪の巻き毛と魅惑的な肉体は、彼女の魅力を存分に引き出している。
こういう女性がアーディルの好みなのかと思ったが、初恋がエデルの母だと言っていたのでちょっと違う気がする。
それとも、守備範囲が広いのだろうか。
「わたくしは、陛下の妃の一人よ」
でしょうね、とは言わなかった。
アーディルの身内は血が繋がっていようがいまいが、女性陣の主張が激しい。
国王の寵愛を得るために競っているのだから当然かも知れないけれど、自称平々凡々なエデルには個性が強すぎて眩しいくらいだ。
クロノス辺りが聞いたら、個性……?と言いながら首を傾げてエデルの方を見ただろうが、今は誰もエデルの認識を訂正する人間はいない。
「アーディルおじ様のお妃様がどうしてこちらに?」
アーディルにはぞんざいな口調のエデルだが、こういう人たちには、一応、何とか丁寧な話し方を心がけている。すぐにボロが出そうだし、怪しいところもたくさんあるが、とにかく冷静に、そして丁寧な言葉を心がけていた。
「おじ様?あなた、陛下のことをそう呼んでいるの?」
エデルが「アーディルおじ様」と言った瞬間、彼女の眉はピクリと動いていた。
「はい。アーディルおじ様からそう呼ばないと返事をしないと言われましたので」
ここはちゃんと伝えないと絶対に変な誤解を受ける。
「ねだったわけではなくて?」
ほらー、もう受けたー。
「むしろ、国王陛下と呼ばせてくださいとお願いしました。でも、却下されました」
いい歳したおっさんがすねたって何にも可愛くなかったが、すねたままだとめっちゃ面倒くさそうだったのでこっちが折れた。
「そう。マディーハ、あなたは部屋の外へ出ていなさい」
「え?」
「ここから先は、あなたには関係のないことよ」
「で、でも」
「マディーハ、あなたがいくら陛下の弟君の子とはいえ、あなたは後宮には関係のない娘よ。陛下が許しているうちにお帰りなさい。それとも、本格的に出入り禁止にしてほしいの?」
出入り禁止、という言葉に、マディーハはビクリとした。
父から、そろそろ後宮内を好き勝手に歩くには止めろと忠告された。
今はまだ陛下は何も言っていないが、邪魔だと思えばすぐに排除されるぞ、と。
血の繋がりがあると主張したら、鼻で笑われた。
王侯貴族の血の繋がりは絶対じゃない。むしろ、それゆえに殺されることもあるのだ、と。
マディーハはアーディルの治世しか知らない。
アーディルが国を治めるようになってから、血で血を洗うような争いは起きていない。
けれど、父たちはその前を知っている。
血の繋がりが何の保証にもならないことも知っている。
そんな父の言葉にマディーハはいつものように強がって反発したが、内心ではビクビクしていた。
「若い命を散らしたくなければ、もう帰りなさい。それから、なるべくもうこの方に関わらないことね」
それはそれで負けたような気がして嫌だ。
かといって、国王の不興を買うのも嫌だ。
マディーハは、少し考えてから帰って行った。
「ふふふ、あの娘、色々と勘違いしているのよ。それから、悪女と言ってごめんなさいね」
くすくすと笑う女性は、先ほどとは打って変わって親しみを込めた瞳でエデルを見てきた。
「改めてご挨拶を。わたくしはファラーよ」
「エデルです。私自身は覚えていませんが、母と共に赤ん坊の頃に陛下にお世話になったことがあったそうです」
「うふふふふ、陛下から伺っていますわ。陛下があなたの最初の男なんですってね」
「あのエロ親父!誤解されるようなことばっかり言うなっての!」
エデルの心からの叫びに、ファラーはころころと笑ったのだった。




