ここはどこ?あなたは……?②
読んでいただいてありがとうございます。
『…………ろ………エ………。いつまで………。はや………………きろ……ル』
遠くから呼ぶ声がする。
待って!
そう叫びたいのに、声が出ない。
置いていかないで!傍にいるって約束したのに!
走って追いかけようとしても、足がもつれて前に行けない。
待って!待って!待って!…………アさん!
ハッとして目を開けると、真っ白い天井が目に飛び込んできた。
「…………あれ……?」
うん?あれ?俺、どうなったんだっけ?
どうやらふっかふかなベッドで寝ていたようだが、何がどうなってここにいるのだろう?
えーっと、えーっと、と寝起きで全く頭が働いていない状態で考えていたら、扉が開いて女性が入ってきた。
ゆっくりと上半身を起こすと、入ってきた女性が慌てて近づいてきて、支えてくれた。
「大丈夫ですか?ご無理をなさらないでください」
「はい。というか、俺はなんでここに?」
「覚えていらっしゃらないのですか?主からは、あなた様は人さらいにあったようだと聞いているのですが」
「え?人さらいにあったの?」
「はい。主が助けた時にはすでに意識がなく、眠っていたそうです」
「あ、それはご迷惑をおかけしました。えーっと、でも人さらい?何で?」
考えようとしたら、頭がズキリと痛んだ。
「痛った!」
「大丈夫ですか?医者の話では、どこかで頭を打った様子が見られるとのことでしたが……」
「頭打ったんだ。だから、痛いのかぁ。うーん、最悪だなーって、ゲッホ!」
痛む頭を押さえて嘆いていたら咳が出た。
「ずっと眠っていらしたので、喉も乾いているかと」
そう言いながら女性が水の入ったコップを差し出した。受け取ると、改めて喉が渇いていたことに気が付き、一気に水を飲んだ。
「美味しい。生き返る」
「慌てて飲まずに、ゆっくりお飲みください。水はいくらでもありますので。ところで」
「はい?」
二杯目をついでもらって、言われた通りゆっくりと飲む。
「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「名前?名前は…………あれ?」
名前、と言われても頭に何も浮かんでこない。
手に持ったコップを見た。
これはコップで、中身は水。それにあっちにあるのは花瓶。ちょっと花の名前は分からないけど、綺麗な花。ベッドに水差しにお高そうな絵画。
うん、物の名前は分かる。
でも…………。
「……えーっと、俺の名前、何?」
逆に尋ねると、女性が引きつった顔になった。
◇
「失礼いたします!」
眠り姫(?)に付けていた侍女の一人が室内に入ってきたのは、医師の言葉に固まっている最中だった。
急いで来たのか、少々息が荒い。
「あ、あの?」
入った部屋の空気の何とも言えない超絶微妙感というか、時でも止まったかのような雰囲気に侍女は一瞬ひるんだが、この程度の空気に気圧されていては、ここでは仕事が出来ない。
「あなたはお客様に付いていたはずよね?どうしたの?」
その中でも唯一動けていたメラの問いかけにほっとした侍女は、今のうちだと思って報告した。
「はい。お客様が目を覚まされました」
「あら、よかったわ」
「ですが……」
「ですが?」
「どうやら、記憶を失っているらしく、お名前などのご自身のことを、一切覚えていらっしゃらないようなんです!」
侍女の言葉に、真っ先に反応したのは医者だった。
「なんですって?何も覚えていらっしゃらないの?」
「はい。身の回りの物の名前などは覚えていらっしゃるようなのですが、ご自身のことは何一つ……。お名前や出身地をお伺いしたのですが、全く思い出せないそうです」
「そう。殿下、私、診察に行って参ります!」
「待て!」
医者の言葉でようやく我に返ったファイサルが、勢いよくイスから立ち上がった。
「俺も行く」
「ですが」
「……男性なら、問題ないだろう?」
「お待ちください、殿下。それはあの方がどのような環境に身を置かれていたかによります。もし、女性として生きてこられた方なら、殿下は間違いなく異性です」
一番冷静に状況判断が出来ているメラが、すぐにでも飛び出して行きそうなファイサルを制した。
「だが、自分のことは忘れているのだぞ?」
「それでもです。もし、女性として生きてこられたのなら、記憶はなくても反射的に反応してしまうかもしれません」
「……そういうものか?」
「そういうものです。殿下だって、記憶を失くしていても、危機になれば剣を扱うことが出来ると思います。身体が覚えているとはそういうことです」
「そうか」
そう言われれば納得するしかない。ファイサルは、次の行動をどうしようかと悩み始めた。
「あ、でも、ご自身のことを『俺』っておっしゃっていました」
侍女のこの発言は、さらに混乱を招いたのだった。
お約束ですよ、皆様。
混乱するのは現場だけとは限らないのです。司令部も混乱するのです。
混乱させるのは得意なエデルさん(ただ今、記憶喪失中)




