ここはどこ?あなたは……?①
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いつまでも女性の部屋にいてはならない、しかもその相手は未だに眠ったままなのだから。
しっかりとその辺の教育はされているファイサルは、メラに後のことを託すと部屋から出て行った。
残ったメラと侍女は、医者が来るまでの間に汚れてしまっている手足や顔を濡れた布で拭いた。
触れても一向に目覚める気配はなく、女性はただひたすら眠り続けていた。
「とても綺麗な肌をしておいでですね。メラ様、やはりこの方は……」
「えぇ、きっとどこかの貴族か商家の娘さんなのでしょうね。手も一切荒れていないようですし、屋敷の奥で大切に育てられた方なのでしょう」
ブルーグレーの髪も美しい艶が出ている。髪の毛一本に至るまで大切にされていた方だと分かる。
「そんな方が誘拐されたなんて……。さぞ、心細かったことでしょうね。それに、どう考えても他国の方ですよね。目が覚めて砂漠の国だと知ったら、さらに怖がらせてしまうかもしれません」
「いくら心がお強い方でも、混乱なさるでしょう。私たちでしっかりお支えしなくては」
女性の肌の汚れを落としながら、侍女たちは誘拐されたところをファイサルが助けてきたというこの女性に同情的だった。
ファイサルに対して、ちょっと母や姉みたいな気持ちを持っている侍女たちだったので、ファイサルが大事そうに抱えていた女性を大切にしなければ、という使命感も燃え初めていた。
「お衣装はどうしましょうか」
女性が来ているワンピースは、やはり多少汚れていた。
だが、さすがに意識のない女性の服を、同性の侍女とはいえ勝手に脱がして着替えさせてもいいものかどうか迷う。
「そうですね。首元までボタンがあるので、そこを少しだけ開けましょうか。それで多少は楽になると思いますし」
女性の首元まである服は、前をボタンで留めるタイプだ。
どの道、医者が来たら多少は胸元を見せることになるのだし、と思ってボタンを外した。
「…………あれ?」
「メラ様?」
ボタンを外す手を止めた、というか全体的に固まったメラに、近くにいた侍女が心配そうに名を呼んだ。
まさか、大きな傷でも?と思ったが、メラがそのまま無言で胸近くまでボタンを外し、またボタンを掛けるという不自然な行動に出たので、侍女は何となく黙って立っていた。
「…………ふぅ…………」
「あの、メラ様?」
「私、ここのところ家に籠もってばかりだったから、世間一般からちょっとずれたのかしら?」
「メ、メラ様?」
「いえ、ひょっとしたら何かしらの理由があって?ファイサル様はご存じなのかしら?それとも私の目がおかしくなったのかしら?もしくは根本的なナニカが変わったのかしら?常識は疑えって言うし」
一人でぶつぶつと言いまくっているメラに、侍女は近寄ってはいけない気がした。
「お医者様なら、きっと解明してくれるわよね」
「何をですかぁ?」
ちょっと後ずさりしながらも懸命にメラに何を見たのか聞こうと侍女はしたのだが、ちょうどその時、急いで来た様子の医者が部屋に入って来た。。
依頼した通り、ちゃんと女医。
メラもよく知っている信頼出来る医者。
何があっても、ファイサルの名誉は守ってくれると信じたい。
「患者はこの方ね!」
この国の第四王子が救い出した、どこかの国の身分がありそうな女性を秘密裏に診てほしい。それも彼女の不名誉にならないように。
そう依頼されて、そんなお可哀想な方が!っと使命感に燃えて急いで駆けつけてみれば、ベッドの上で女性が静かに横たわっていた。
「手足に傷は?」
「見えている範囲では、細かい傷はございましたが、大きな傷はございませんでした。どこかから大量に血が出ている様子もありません」
「そう。なら、ちょっと失礼」
医者は手早く服のボタンを外していき、メラと似たようなところで手を止めた。
「…………女性?」
「そう伺っております」
何故かめちゃくちゃ冷静な態度のメラが、女医にしっかり答えた。
「……え?う……ま、まぁ確かに外見からはそう見えなくもない?ってゆーか、見えちゃダメな気もしなくもない?」
「というか、外見は完全に女性です」
「え?あれ?……け、怪我はないかな」
女医は、一度目を閉じて深呼吸をするとカッと目を見開いた。
「患者であることに変わりはなし!!」
その言葉と共に一気にボタンを外すと、後は医者として適切な処置と判断を下したのだった。
◆
ファイサルの下に、メラと一緒に医者が報告に来たとの知らせが入ったので、ファイサルはすぐに会った。
部屋には当然、ユセフも一緒にいた。
「それで、どうだった?」
「はい。目立った傷はありませんでしたし、見える範囲では内臓の方にもダメージはなさそうでした。眠っておられるのは、おそらく薬の影響です。誘拐されたとのことでしたので、誘拐犯もおそらくあの方に下手なダメージを与えるような薬は使っていないと思います。大変遺憾ですが、ああいう輩はその手の薬には詳しいものです。商品を傷つけるような薬は使いません」
「そうか。ならば、目が覚めるのを待つしかないか」
「ただ一つ、額の、髪との境目のあたりに目立たない小さな傷がございました。あの位置ですと、どこかで頭を打っておられるかもしれません。その打撲の影響はあるかもしれません」
「傷?そうか。俺が助けた時にはすでにあの状態だった。となると、誘拐してきた時か」
「おそらく」
「すまないが、しばらくこの宮に滞在してもらえるか?」
「それはかまいませんが、その……」
「どうした?何か不都合でも?」
大変言いにくそうな医者は、その横でー実は、ずっとファイサルは気になっていたのだがー何かを悟っているような表情のメラを見た。メラがその表情のまま頷いたので、医者は何かを決意したようだった。
「恐れながら、私でよろしいのでしょうか?」
「どういう意味だ?女医は少ない。そなたはメラから信頼出来る医者だと聞いているのだが」
「信頼は大変嬉しいのですが、そういう問題ではございません」
「なら、何が問題なんだ?」
さっさと言ってくれ、と少々いらだった様子のファイサルの表情を見て、医者は叫んだ。
「だって、あの方、男性じゃないですか!」
響いたその言葉に誰もが動けなくなり、その場をただ沈黙だけが支配したのだった。
固まった……。
めらさん、じょうしきはかわってないよ、きっと。




