砂漠の王子②
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ファイサルは、フールームの王宮の近くに建てられた離宮で暮らしていた。
母親が王の寵愛する側室で、ここは生前、王から与えられた宮だった。
母が亡くなった後はファイサルが受け継ぎ、そのまま暮らしていた。
だが、母がいないので侍女は最低限の人数しか入れていないし、その侍女にしても皆、ファイサルよりもそこそこ上の年齢の女性ばかりだ。
ファイサルは腕に抱いた女性を他の誰かに見られないように布で覆い、裏口からこっそりと戻った。
離宮にはすでにユセフの母が来ていた。
「メラ、急に呼び出してすまない」
「とんでもございません。このメラでよければ、いつでもお呼び出しください」
メラはかつて母に仕えていた筆頭侍女だ。この宮の侍女たちは、全員、彼女の部下でもあった。
「そちらが?」
「そうだ。まだ目覚めていないのだが、彼女の世話を頼みたい」
「かしこまりました。殿下の大切な女性です。心を込めてお世話させていただきます」
「そういうのではない」
否定してもほんのり目元が赤くなっているのをメラは見逃さなかった。
赤ん坊の頃から知っているこの王子に、ようやく春が訪れようとしているのだ。
メラは張り切った。
メラ以外の侍女も張り切った。
連絡を受けてすぐに部屋を整え、今か今かと待ちわびていた。
帰って来たファイサルが、とても大事そうに女性を抱きかかえているのを見て、全員が心の中でガッツポーズをしていた。
これで……これで、ようやく、ファイサル殿下に妻が出来る!
喜ばしいことこの上ない。
メラたちの思いを知らず、ファイサルは女性を大事そうに整えられたベッドの上に寝かせた。
「メラ、医者は?」
「もうすぐ参ります。知り合いの女医を呼んであります。信頼出来る人間ですので、ご安心ください」
「そうか」
女性の医者は数が少ない。その多くは誰かの派閥に取込まれていたり、王宮内でも王族の女性の専属になっていたりするので、どこかで情報が漏れる心配がある。
かといって、男性の医師に診せることは出来ない。
「あの者は市井に降りた変わり者で、どの派閥にも属しておりません。患者命の医者なので、患者の情報を漏らすこともございません。はっきり言ってしまうと、他の医者からも煙たがられているような存在です」
「ならば、この人のことは外に漏れないな」
「はい。表向きは、ここの宮の侍女が病気になったということにしています」
ファイサルと他の兄弟姉妹とは微妙な仲だ。
王太子と三番目の兄とはそこそこ仲はいいのだが、他とは微妙だ。
特に同じように側室から生まれた第二王子は、何かとつっかかってくる。
王妃から生まれた王太子と第三王子は特にそんなことはないのに……。
「兄上にはバレるかもしれないな」
王太子である一番上の兄は、兄弟姉妹の情報収集を欠かしていない。
ひょっとしたらすでにファイサルが女性を連れ帰ったということも知っているかもしれない。
「何にせよ、彼女が目覚めてからだ。彼女のことを頼んだよ」
「はい」
メラはしっかりと頭を下げたのだった。




