誘拐からの誘拐②
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頭と呼ばれた男は、馬車の中で倒れていた女の手を確認した。
全く荒れてもいない、白くて細い指。
着ている服はありふれたワンピースだが、恐らくこの女は貴族かどっか金持ちの娘か何かなのだろう。
男は、今日、妙な噂を聞いて襲撃を決めた。
それは、どっかの馬鹿が誰かを誘拐する予定だ、という話だった。
もちろん裏のルートで回っている話なので、表に出ることのない噂だ。
だが、同業者の行動は常に見張らせている。いつ横やりを入れられるか分からないので。
今回は上手くいった、男はそう思った。
おそらく、この女が誘拐された女なのだろう。
「頭、どうしますか?」
「手を出すなよ。こいつは、きっと高く売れる」
「えー、売るんですかぁ?」
「馬鹿だろう、お前。こういう人間に下手に手を出すと、後で面倒くさいことになるかもしれんぞ。それよりも、バレないうちに売った方がいい」
「人買いに?」
「いや。とりあえずフールームに帰るぞ。見ろ、この女の髪色は北の方の特徴だ。砂漠のフールームだと珍しいから高く売れる」
盗賊たちは元々フールーム王国とイール・シャハル帝国の国境辺りを襲う集団だった。
拠点はフールーム側にある。
「へーい。あ、縛りますか?」
「いや、それよりも強めの眠り薬を嗅がせて、道中でも起きないようにしろ。そっちの方が静かでいい」
「三日くらいか。それくらいなら、まぁ、何とかなるか」
あまり長時間意識を失わせたままだと目覚めた時に色々と支障が出るが、三日くらいならそこまで支障は出ない。
経験上、そのことを知っていたので、女を眠らせたままにしておくことに躊躇はなかった。
方針を決めると意識のない女を担ぎ上げて、男たちは急いで去って行ったのだった。
◆
男たちはアジトに帰るとすぐに片付けて移動を開始した。
フールームとの国境はここから三日ほど行った場所にあるが、盗賊である彼らは当然、まともな道は使わない。
山の獣道を通り、関所は夜、人目につかない場所からそっと抜ける。
これまでだって何度かそうやってイール・シャハル帝国とフールーム王国の間を行き来していたので慣れたものだった。
女は薬を嗅がせたあと、念のために手足を縛って荷台に乗せ、上から布をかけて見えないようにした。
男たちの中には不埒なことを考えるような奴らもいたが、商品に手を出すなと言い聞かせたのでこの国境を越えるまで手を出す馬鹿は現れなかった。
国境を越えてフールーム側に入ると、待機していた残りの仲間たちと合流した。
「頭!大変だ!前から騎士たちが来た!」
偵察に出していた下っ端がそう言って大慌てで戻って来たのは、フールーム王国に入ってからしばらく進んだ辺りだった。
「何だって!この辺りの警備隊には金を渡して話を付けてあるはずだろ!」
「それが、王子の一人が率いている王都の軍みたいで!」
「チッ!ばれたのか!」
盗賊と国境付近の警備隊との癒着がばれて、王都から正規軍が来た、そういうことらしい。
「逃げるぞ!逃げてどっかに隠れるぞ!」
頭に率いられた盗賊たちは急いで逃げようとしたのだが、それよりも早くフールーム軍の方が盗賊たちを捕らえた。
砂漠の国と言うけれどこの国境辺りはまだ普通の大地が多く、鍛え抜かれた軍馬が勢いよく走って近付いて来た。
「殲滅しろ!」
先頭のいかにも偉そうな男の言葉と共に乱闘になり、負けたのは当然ながら盗賊たちの方だった。
偉そうな男は、若く精悍な、いかにも貴族といった感じの男だった。
ほとんどの盗賊が物言わぬ存在となり、辛うじて生き残った数人が捕らえられた。その中でも軽傷だった盗賊が男を睨んだが、男には何の効果もなかったらしく涼しい顔をして流された。
「殿下!縛られた女性がいます!どうも、眠らされているようです」
「何だと?」
殿下、という言葉に、盗賊の顔が青ざめた。
「あ、アンタ、王族なのか?」
「第四王子のファイサルだ」
「ゲッ!」
第四王子のファイサルは、軍人として有名な王子だ。
剣の腕だけを見れば、王子たちの中で最も強いのだと言われている。
そして、賊に容赦がない、とも。
「どこから攫ってきた」
「し、知らない!」
「何故?お前たちが攫ってきたのだろう?」
「頭が、変な連中が誘拐の実行役を探してるからって、イール・シャハルに行ったんだ。そんで、その女を連れて来たんだ」
「まさか、誘拐犯から誘拐してきたのか……はぁ、やっかいだな」
頭と呼ばれていた男は、すでに物言わぬ存在と成り果てている。
「一緒に行っていた者たちはどいつだ?」
「そこら辺で倒れているよ。生き残ってるのは、こっちに残っていた者ばかりだ」
「つまり、誘拐した場所も知らない、ということか」
素性はその女性が目覚めるてから聞くしかなさそうだ。
ファイサルは面倒くさそうに賊を見ると、そのまま眠らされている女性のもとへと行った。
荷台の上に、手足を縛られて横たわっている女性がいた。
顔は髪に隠れて見えなかったが、すぐに手足の紐を切ると、女性が身じろいでその顔が顕わになった。
……砂漠の国では滅多に見ることないブルーグレーの髪をした美しい女性が、人形のように静かに眠っていた。
ホイホイ、ホイホイ。
基本は押さえる予定。




