愛でる者⑤
読んでいただいてありがとうございます。「苦い恋」に集中したくて、こちらの更新が遅れました。ちょっとあちらとは作者のテンションの違いが必要になりまして……。
エデルは、馬車の中で一人っきりでいたので、ずっと考え事ばかりをしていた。
だが、考えれば考えるほど、アリアにエデルが必要な理由が分からない。
いや、結婚式を挙げた今は、アリアから覚悟を決めろ宣言をされているので、そういう意味でアリアに必要な人物になれたのだろうということは理解出来るけれど、最初の理由が全く分からない。
「……うーん、アリアさんがおもしろがった、とか?」
そんな理由で人を拘束するような人物でないことは重々承知の上で、ぽそっと呟いた。
けれど、そうでも思わないとアリアがエデルを夫にした理由が分からなかった。
聞こうにも誘拐され中の身だし、このままだとずぶずぶとはまっていく負の思考回路からずっと抜け出せなくなりそうだったので、エデルは頭を左右に振った。
「ってゆーか俺、アリアさんと会ったのはあの時が初めてだよな……?」
ひょっとしたら、どこか宴とかですれ違ったことくらいならあるかもしれないけれど、思い出せる限りではロードナイト辺境伯が催した宴には出たことはない。
「あれ?」
そこまで考えて、エデルは首を傾げた。
俺、何でずっとロードナイト辺境領に来たことなかったんだろ?
辺境領だけではなく、王都エスカラにも行ったことはない。
イール・シャハル帝国内では、せいぜい地方の貴族たちの領地に行ったことがある程度だ。
「あれー?」
大陸で最大の帝国。
多くの旅の一座が各地を巡り、芸を披露する機会に恵まれる国。
なのに、エデルはあまりこの国に来たことがなかった。
何故だろうと考えて、ふと思い出した。
「そっか、団長だ」
子供の頃、団長が帝国と北の王国にはあまり行きたがらなかったからだ。
何でも、昔、嫌なことがあったとかで、子供たちにも出来れば行くなと言い聞かせていた。
『あんなクソ帝国と寒いだけの王国に関わっても、何もいいことねーんだよ。特に王都には行くなよ!』
ケッとやさぐれながら、そんなことを言っていた。
記憶は薄らとしか残っていないけれど、エデルの中でずっとその言葉だけが残っていて、だから無意識に避けていた。
なら、辺境は、というと、こっちも団長だ。
「えーっと、確か、お前が行ったら確実に喰われるぞ、だったかな?」
団長の親戚の一人が実際に喰われたとか何とか?あれ?喰った方だっけ?
言われた言葉は、そんな感じだったと思う。
ただそれを夜中の見張り番か何かの時に真剣な顔で言われて、怖い魔物がたくさんいるのかと思って泣きそうになったことを思い出した。
「団長の嘘つき!全然、怖い場所じゃないじゃん」
辺境の地は、大地も人もエデルにとても優しくしてくれる。
喰われるなんてとんでもない。
むしろ、それから守ってくれる最高に格好良い妻に出会えた。
「絶対、会った時に文句を言ってやる」
いつかこの命が尽きた時、神様にお願いしてちょこっとだけでも団長に会わせてもらおう。それで、文句を言ってやるのだ。
たくさん嘘を付かれたこととか、怖い魔物がいるとか言われたこととか……それから、エデルを一人で置いていってしまったこととか……。
「そんで、自慢してやるんだ。俺には最高の奥さんがいますって」
きっと苦笑しながらも祝福してくれるだろう。
団長の予言。




