愛でる者④
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「これに着替えろ」
渡されたのは、今着ている服よりもさらに動きやすそうなロングスカートのワンピースだった。
「あの……?」
「締め付けがキツイ服のままだと、途中で気分が悪くなるからな。お前が吐く度に馬車を止めてたら、遅くなる」
「確かに!」
アリアと一緒に乗ってきた馬車は最高級の物だったので揺れも少なく、エデルもゆるめの男装姿だった。にも関わらず途中で酔って、さらに一泊した先で変な砂漠の王子様に絡まれた。
今のドレスはけっこう締め付けているので、このまま揺れる馬車に乗せられたら、確実に乗って数時間で吐く。それを止められるとも思えない。
「外に出ているから、すぐに着替えろ。下手な抵抗はするなよ」
「あ、ちゃんと外に出てくれるんだ」
「当たり前だ。お前は大切な商品なんだからな!」
あ、やっぱり女性だと思ってる?……まぁ、いいか。それならそれで。
そっちの方が一人になれそうだし、商品に手を出すような者たちでもないみたいだ。
というか、多分、そんなことはあの貴族が許さないのだろう。
献上品、とか言っていたし、相当上の人と繋がってるんだな。
内心で冷静にそんなことを考えながら、エデルは、勝手に誤解しているならそのままにしておこう、と決めた。
見張りの男が出て行ったので、四苦八苦しながら服を脱ぐとワンピースに着替えた。
「うーん、貴族女性の服って、絶対に一人で着るようには出来てないよな」
エデルが着ていたのはまだ簡略化されたドレスだったのだが、脱ぐのも一苦労だった。侍女さんたちが手伝ってくれないと、きっと二度と着られない。
その点、ワンピース型は楽だ。
締め付けもゆるいので、ささっと着られる。
「着替えましたよ」
外に声をかけると、扉が開いて先ほどの貴族っぽい男が入って来た。
「ふん。大人しくしているのなら、乱暴なことはしない。いいな」
「はい」
エデルは大人しくしておかないと、後で奥さんに怒られる。
命の危険が迫っているのならともかく、今のところそこまでではないので、エデルの出来ることは奥さんを信じて待つことだけだ。
男の思っていることとは全く違う方向から、エデルはこのまま大人しくしていることにしたのだった。
エデルが乗せられた馬車は、一応、アリアの馬車に比べると質素な物だった。
と言っても、庶民が持つような馬車ではない。
貴族がお忍びで使う、目立たない地味な馬車だ。
窓も付いているが、カーテンで覆われていて見えないようになっている。
ついでに、貴族の男も一緒に乗っているので、変な動きは出来ない。
しゃべることもないけれど。
暇になったエデルは、目を閉じて眠っているふりをした。
アリアさん、怒ってるよね。
でも、あのままタルーシャたちを見捨てることは出来なかったし……。
エデルの中で、育った一座の仲間との突然の別れは、一種のトラウマになっている。
もう二度とあんな思いはしたくない。
だから根無し草で特定の一座に入らずに、ずっとフラフラしていた。
でも、馴染みの一座の皆が危機に陥ってるのに、知らんふりも出来ない。
ごめんね、アリアさん。
アリアではない人たちのために、命をかけてしまった。
しかも、アリアに助けてもらえることを大前提として。
……自己嫌悪に陥るなぁ。
アリアを利用していることは、重々承知している。
こんな俺は、夫として相応しくないって誰かに言われても仕方がないんだよな。
目を閉じたまま、ため息を吐いた。
ウェディングドレスを着てアリアの隣に立てただけでも、奇跡だった。
いや、それ以前にアリアと結婚出来たことがもうすでに奇跡だ。
クロノスを正式な養子にするために偽装結婚のつもりだったのに、いつの間にか本気になって……。
あれ?そもそもクロノスを養子にするのに、俺との結婚っていったのかな?
よく考えたら、クロノスは間違いなくロードナイトの血を継いでいる人間なので、エデルのことは関係なく養子に出来る。だって、身内のことだし。むしろ、どこの馬の骨とも分からないエデルが傍にいる方がおかしかったのでは……?あれ……?
誰も止めることがない思考は、だんだんと考えてはいけない領域に踏み入れようとしていたのだった。




