愛でる者③
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タルーシャと別れたエデルは、そのままさらに奥へと連れて行かれた。
防犯上、仕方がないのかもしれないけれど、こういう組織のお偉いさんって、どうしてこう奥に引っ込んでるのが好きなんだろう?犯罪してるっぽい人たちに、防犯とか言うのもあれだけど!
どちらかと言えば罪を犯す方の組織でも、なぜか防犯をしっかりしようとするのは何でだろう?
つらつらとそんなことを考えながら歩いていると、いかにもな扉の前で止まった。
「いいか、この先にいらっしゃる方は、本来、お前みたいな旅の楽師が会えるような人物ではないんだからな。言葉遣いとかちゃんとしろよ!」
しっかり注意されたのだが、エデルは、ん?、と思っていた。
これってひょっとして、辺境伯の夫だってバレてない?ただの旅の吟遊詩人だと思われてる?
だとしたら、女装してる時点で何かおかしいと気付けって思うけれど、そこは今更だ。
よく考えれてみれば、辺境伯の夫を誘拐するって、よっぽどの度胸がなければ無理な話だ。
こう言ってはなんだが、破滅まっしぐら間違いなしの所業だ。
「お偉いさんってこと?」
「そうだ。依頼主だ」
ってことは、この組織のボスってわけではなさそうだ。
エデルを辺境伯の夫だと知らずに、ただの吟遊詩人として誘拐するような人物に覚えはないので、ぜひ理由を知りたい。
「旅の間、縛られたりしたくなければ、大人しくしておけ」
「旅?」
「そうだ」
「俺、どこかに連れてかれるの?」
「王都だ。だから、今の内に精一杯媚びでも売っておけ。そうすりゃ、多少はマシな旅になるかもな」
あまり興味がなさそうな感じで言われても、現実味が足りないというか、何と言うか……。
媚びを売ってもそう変わらない気もするし、アリア以外に甘えるような素振りを見せたら後が怖い。
この場にアリアはいないので、誰かが言わなければバレないとは思うけれど、何となくそんなことをしたら、すぐにバレそうな気がする。
「大人しくするよ」
精々従順に静かにしているくらいしか出来ないが、下手に暴れて拘束されるよりは、マシな扱いになるだろう。
「入れ」
背中を押されて部屋の中に入ると、建物の外見とは全く違う部屋になっていた。
まるで、高級な宿屋のような内装の部屋のソファーに、ゆったりと座る男と護衛らしき者たちがいた。
男は、まだ若い。二十代半ばくらいだろうか。
いかにも貴族という感じで、しかも上の方の貴族だろう。
うーん、こんな貴族、俺の知り合いにいないなぁ。
貴族の夜会には何回か行ったことはあるが、この男性と会ったことはない。
エデルが覚えていないだけかも知れないけれど、少なくとも言葉を交わしたことはないだろう。
「ふーん、コイツか」
男は、エデルを上から下まで見た。
その視線は、邪な感じではなく、単純に観察しているだけのように感じた。
「儚い系が好みなら、王都の女共では無理な話だったな。おい、すぐに移動するぞ」
「はっ!」
男はエデルに話しかけることもなく、護衛に声をかけた。
「大人しくしていれば、それなりに扱ってやる」
エデルの返事なんてどうでもいいと言わんばかりの台詞に、エデルは特に何も言わなかった。
こういう人物は、エデルが何を言っても最終的に自分のやりたいようにやるのだ。
下手に何か言おうものなら、癇癪を起こして殴られそうだし、今のところ危害を加えられることもなさそうなので、エデルは静かにしていた。
どうせ自力での脱出は無理なのだ。情けないかもしれないが、今のエデルが出来ることは、よほどのことがない限りは大人しくしていて、彼らが油断してくれる時を待つことだけだ。
そう思っていたら、男性が近寄ってきて、エデルを顎クイした。
……これをやられるのは、アリア以外では初めてのことだ。
「……確かに、綺麗な顔をしているな。あの方のお望みでなければ、私が囲ってやってもいいくらいだ」
お断りします。俺、すでに辺境伯に囲われてるんで。
エデルは、心の中だけでそう返事をした。
それに何か、この男に囲われるのは嫌だ。
この男がほしいのは「はい」としか言わない人形で、アリアのように傍にいてくれる人間ではない。
現に今も、エデルの返事がほしいわけではなく、顔は認めてやった、くらいの言葉だ。
「だが、お前を献上することで、あの方のさらなる信頼を得られるのならば、別に惜しくも何ともないな」
ほら、しょせんその程度の存在だ。男にとって、エデルは使える道具なだけで、そこにエデル本人の意思とかそういうものはない。逆らうとか、エデルの家族とか、いなくなったら探されるとか、そういうことに興味はない。
何かを思って男はにやりとすると、エデルから手を離した。
「支度をさせろ」
男がそう言うと、案内人の男がエデルをまた別の部屋へと連れて行ったのだった。




