十九話 消えない灯
山道を走行中、不意にリストバンドが真っ赤に輝いた。
それとほぼ同時に通信が入る。
「異常数値が二つ確認された! 至急引き返してくれ!」
今まで聞いたことのないような上栄の声。
その焦った声から、何かが起きたことが分かった。
「どこですか!?」
「二人が入った小屋の中だ! 守世と流理の数値の他に異質な数値が一つ出現した!」
「守世と流理は!?」
「守世の数値はすべての項目で急速に減少! 流理は……逆に上昇している」
「!」
何かが、僕の中で弾けた。
操作画面を叩きつけるように操作してUターンし、同時に無人装甲車『UAC-51』、通称『旭光』に怒鳴る。
「本部とデータリンク! 数値を精査しろ! 赤外線カメラも準備!」
「了解しました」
搭載されたAIが音声で返事をする。
それから三分も経たずに小屋から二百メートルの所まで戻ってきた。
「赤外線での内部確認を行います」
「早く画面に出せ! 車は止めるな!」
僕の言葉と同時に、車両内部全方位が画面となった。
赤外線カメラによる観測、数値情報を元に推定される小屋の内部の様子。
それらが映像として表示される。
「何やってんだ!! 流理!」
流理が守世を襲っていた。
そしてその流理のすぐ近くには、小さくしかし強い反応。
「なんだ……これ」
数値の見方は事前に教わっていた。
問題はその数値。
「精神感応系の数値が突出している……。他者に力を貸し与えたりする力……だったか」
「そうだ。それ自体の直接的な体力や攻撃力はほぼ平均。だが、他者に力を与え干渉する、人間で言うところの支援型の能力者に近い能力体型だ」
独り言を呟くと、いきなり通信が入ってきた。
上栄の説明が、心許ない僕の頭の中を整理してくれる。
「支援型は最強とも言われる。味方ならその力や場合によっては魂にまで影響を及ぼし、能力の底上げをし、力が強ければ強いほどにその干渉範囲は広くなる。神の能力も精神感応系が非常に強いんだよ」
「能力の底上げ……神……」
「神の能力解析は古くから行われているんだよ。支援型の人間と神の能力は非常に似ている。まぁ、規模は違うがね」
僕も、守世の能力の底上げに一役買っていると前に言われたことがあるが……。
「泰護くん、君もその一人だ。守世と共鳴し、彼女を強化することが出来る。だが、こいつは次元がちがう。こいつほど強い力なら人を操るなど造作もないだろう。いや、乗っ取ることも出来うる。不完全だが、神に非常に近い存在と言えるだろうか」
ため息をついて上栄がつぶやく。
「……いつからだ。気づくことができなかった……」
「上栄さん……」
かける言葉が見つからないまま、グッと拳を握る。
今は、自分のやるべきことをやる時だ。
そしてそれは彼を慰めることじゃない。
「旭光! 全速だ! 150メートルまで!」
「了解しました」
急発進によってシートに押し付けられながら声を張り上げる。
「二人と一体の位置を推定! ほんで持ってホログラムで小屋と三人の位置をだしてくれ」
車内に投影された3Dホログラムを確認する。
「流理を止めるにはこの謎の存在を倒せばいいのか?」
「確証はありませんがその可能性はあります」
「とりあえず近づいて守世の能力の強化と通信をしないと……」
150メートル。
そこまで行けば通信ができる。
守世と通信ができて内部の状況が分かれば、対策を立て綿密な行動が取れるだろう。
「上栄さん! あとどれくらいででこちらに来れますか!?」
「あと五分でいける。守世と通信ができるなら情報を送ってもらってほしい。それ以上の行動は不要だ」
「……分かりました」
素人が下手に動いても状況を悪化させる可能性の方が大きいということだろう。
守世の危機に際して、何もできない無力感が僕を苛む。
納得はできない。
だが、理解はしている。
「対象まで148メートル」
「よし!」
(守世! どうした!)
(今、敵に襲われてます。その相手が今、色々くっちゃべってますからそのまま思念波に乗せます。上栄さんに通報をお願いします)
(分かった!)
(あと、今は窓の近くにいます。私が動きを止めるので機銃で撃つ準備をお願いします)
(なんだと?)
(応援が来るまでもたないと思うんです! お願いします)
焦りが如実に伝わる。
「……旭光、窓か外壁を破壊して敵にダメージを与えることはできるか?」
「計算しました。対象の耐久力にもよりますが窓ならば一発で可能です」
その答えを聞いて迷う。
自分にできることがあって、しかもそれが一番大切な女の子に頼まれたことでもある。
男としてやらない選択肢はない。
だが……。
守世の脳波を通して得られる情報を上栄に伝えながら、脳みその半分で必死に答えを探す。
(上栄には動くなと言われた)
(え……)
(五分もしないうちに、応援も到着する。どうにか堪えることは出来ないか?)
(ちょっと厳しいかもしれないです……)
(……)
分かってる。
分かっている。
「怒られるかもしれないな……」
思わず心の声が漏れる。
(シモ・ラプラスが話を終えました! どう……)
(分かった。やってやる)
心を決める。
「上栄さん、間に合わないですか?」
「あとちょっと、あとちょっとだけ待ってくれ!」
「もうこれ以上待てないです! ……僕、やります」
「な!」
「もう守世は限界です! これ以上、粘ることは出来ない!」
「君には……!」
「分かっています! でも!」
ただ、手をこまねいて見ていられない。
「彼女を守りたい」
「お、おい……」
上栄からの通信の音量を下げ、覚悟を決める。
「旭光! 狙撃可能ポイントまで移動! 照準は守世と流理の間に浮いている『迅雷』の成れの果てだ!」
****************
「こんのばかやろぉぉおおおおおお!!!!!」
叫びながら放った弾丸は真っ直ぐに敵を貫いた。
シモ・ラプラスの姿は消え失せ、穴が開いた『迅雷』が地面に転がる。
狙撃は成功した。
だが……
「あぁ……ああ……!!」
言葉にならない声が溢れる。
血溜まりの中に崩れ落ちる最愛の人。
そこにさらに刃を突きたてようとする少女。
全てがスローに見える世界。
守世を護りたい。
流理も助けたい。
その葛藤の中で、僕は流理を見捨てた。
辺りに銃声が響き渡る。
流理の身体が弾かれたように吹き飛ぶ。
同時に車両を飛び出し、少し離れた扉から小屋の中へ。
部屋を走り、守世の元へと駆け寄る。
「守世! 守世!」
半狂乱になりながら声をかける。
「おい! 守世! しっかりしろよ! 死ぬなよ!」
「そん……なに……うるさいと……眠れない……ですよ……」
「守世! うごくな!」
「大……丈夫……です」
「大丈夫じゃないだろ! もう少しで上栄さんたちが来るから頑張れ!」
「大……丈夫……私は……死にません……から……」
「分かった! 分かったからもう話さなくていい! ちょっと待ってろよ……」
意識があることを確認し、携帯を開く。
上栄に現状を伝える僕の左手を、守世は優しく握りつづけた。
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