十八話 ラプラスの悪魔
(お気をつけて)
そう伝え、通信を終える。
ここまでくればもう問題はない。
武装を解除して頭をいじっていた左手を下ろし、『迅雷』を触る先輩に声をかける。
「先輩! 帰りましょー」
今日は結局『モノ』が出ることはなかった。
もちろん先輩への疑いが晴れていない現状、目の前で全力を出すつもりはなかった。
だが、戦わないと分からない自分の強さを確かめたかった。
後半はその思いが空回りして上の空になってしまったが。
「せっかく早く帰れるんですからパパッと転移しちゃいましょう!」
先輩に背を向け転移装置のある部屋へ歩きながら声をかける。
はやく帰って三人でお好み焼きを食べよう。
あ、その前にお風呂に入った方が良いかな?
泰護さんよりは先に着くだろうし、汗を流してしまおう。
でも、先にお風呂に入るなんてちょっと失礼かな?
そんなことを考えるべきではなかった。
見るべきものから目を逸らすことなどあってはならないことだった。
「えっ…………」
背中に衝撃。
一瞬何が起きたのかわからなかった。
次の瞬間、地面に叩きつけられる。
「な……に……?」
跳ね起きようとして、そのまま崩れ落ちる。
右肩から左の腰にかけて熱を感じ、力が入らない。
身体が言うことを聞かなくなっていた。
(泰護さん! 泰護さん!)
(……)
左手を頭に近づけ泰護さんを呼んでも応答はない。
通信圏外に出たのか……。
「ふっ!」
背後に殺意を感じた。
「ああああああ!!!」
言葉にならない声を上げ、気迫で『迅雷』を起動させる。
「ぱぁぁぁあじ!!」
変身をすると同時に武装の大半をパージ、同時に緊急離脱システムを起動させる。
「ぐっ!!」
物凄いGがかかって意識が飛びそうになるのを、奥歯を噛み締めることで必死に耐える。
パージした武装が敵の動きを止めている間に距離を稼ぎ、身体を反転させて敵の姿を捉える。
「!?」
そこにいたのは間違えるはずもない。
「先輩……」
私の前に立っていたのは膳所本流理、その人だった。
「一体……」
私の問いかけに応えることもなく、彼女の『迅雷』が光る。
その異様な輝きはまさに何度も繰り返した地獄の光。
その光が先輩を包み込む。
「先輩っ!!」
異様な光景だった。
先輩のいつもの装備が真っ白に染め上げられていく。
そしてその手から迅雷が離れ、こちらも白く輝き始めた。
「これは……!『迅雷』もどうなって……?」
「今はもう、その名前ではないですがね」
突然、声が響いた。
「誰!?」
「目の前にいますよ。それとも気づかないフリをしているだけかしら?」
笑い声が響き、それを合図に『迅雷』が変形し始めた。
足が生え、腕が伸び、白い服の様なものを身にまとう。
「なっ……!」
変化を終えたその姿は、先輩に瓜二つ。
ミニサイズな事以外はまさに先輩だった。
こんな奴、今までの世界で見たことはない。
「さっきまで近くにいた彼があなたの強化パッチなのね?」
「……あなたは何者?」
「質問に質問で返すなんてダメでしょ?」
「あなたは何者だ!」
話を進めながら、『迅雷』を通して背中の傷を止血する。
すぐそばにある転移装置まで行くことができればなんとかなるはずだ。
問題は体が動かないことだが。
「いいわ、答えてあげましょう。私は神。いや、神として生まれたもの、かしら?」
「違いが分からない」
「そんなに怒らないで。元々、神は世界中にいるのよ。役割も性質も全てバラバラでね。それらは互いに矛盾しながら存在しているの」
「へぇ……」
頭が弱いのか、何か考えがあるのか、それとも戦闘不能に見える私への油断か。
目の前の『迅雷』は語り始めた。
「で、国によっては他の神の力が欲しくなる。例えば貧相な国力の相手が神の力をもって超大国の自分達に引けを取らない戦いをした時とかね」
「まさか……」
「この国の神の力は非常に特殊なもの。七十年もの間、我が国は喉から手が出るほどそれを欲していた。けれど、神を拉致することなど出来ない。ではどうするか」
「作ってしまえばいい……」
「ご明察。で、作られたのがこの私というわけなのよ」
意図がわからない。
なんの考えがあって自分の出自を明かしているのか。
もし私がそれを本部に伝えたらこいつの祖国は不利に追い込まれるだろう。
こいつは何者で何を考えているのか。
「先輩は? 先輩はどうしたんですか」
「秘密」
敵はこれまでとは打って変わって口を閉ざした。
「あなたがさっきまで話した内容は、明らかにあなたの国が不利になる内容。そんなのをバラしてよかったんですか?」
「いいんじゃない? だってあの国がどうなろうと知ったこっちゃないし」
そう嘯いている様子を見ると、あの国の統制内にはいないということだろうか。
解放されたのか逃げ出したのか。
「あなたは先輩をどうしたいの? 従順な飼い犬? それとも見せしめ?」
「あんた……自分が斬られたっていうのになかなか余裕あるじゃない」
呆れた表情をする。
私が限界ギリギリだということはバレているだろう。
「この子がそれだけ大切というわけね。いいわ、その気持ちに免じて教えてあげる。私の名前は、シモ・ラプラス。人造神ってところかしら。今は、あなた達が『モノ』と呼ぶ方達をまとめています」
「な……!」
「この間、ちょっと新しい実験をしてみたら面白いものを見つけてね。今日、ここに来たのよ」
静かに微笑みを浮かべ、だがその目は笑っていない。
「私の計画を阻止したあの男と、そいつを守るために大切な子供たちを蹂躙したあなたを消しにきたのよ」
もしかして私が大怪我を負ったあの戦いのことか。
「せっせと集めて改造したあなたのお仲間の戦士たちも数匹やられたのは残念だった」
「は?」
「ま、データが取れたから良かったけどね」
「何を……言っている……!!」
仲間の戦士?
改造?
脳裏に、あの時の異形の『モノ』の姿が浮かぶ。
人とは似ても似つかぬ頭部。
上部は膨らみ異常に細い中部、そしてまた膨らんだ下部。
まさに異形な姿。
「今まで行方不明になった人間の戦士はどうなっていると思ってるの? 神の血を受けて、殺すことの出来ない戦士をただのうのうと生かせるわけないでしょう?」
「お前……」
声をこぼす。
そんな私を静かに見下ろしながら、シモ・ラプラスは冷たく言い放つ。
「まあ、あなたも今日からその一人に入るのだけど」
「おまえぇぇえええ!!!」
『迅雷』を投げつけながら、全ての加速器をフルスロットルで吹かす。
『迅雷』を容易く弾きながら奴も笑顔のまま飛び出してきた。
それに続く流理。
あっという間に距離がつまった。
「怒りのあまり何も考えていないようね! 早くあの姿にしてあげるわ!」
シモ・ラプラスが喚いた。
その言葉に合わせ流理がいつのまに成形したのか両刃の剣を突き出してきた。
「ぐっ!」
腹に食い込む感覚。
口の端に血と笑みが浮かぶ。
「泰護さん! 今!」
「え?」
「こんのばかやろぉぉおおおおおお!!!!!」
少年の叫びと共に銃弾がシモ・ラプラスに、流理の『迅雷』に突き刺さった。
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守世の任務復帰を数時間後に控え、僕と守世はいつも僕が検査を受けている施設を訪れていた。
「一応調査してみた結果として、二人の力が反応し合うのは1512センチメートル。だいたい150メートルってところだな」
「結構長い距離で届くんですね」
「これなら泰護さんを戦闘に巻き込む危険は低いですね」
「力の限度は通常の2.5倍ってところか。戦闘時になればどうなるかはわからないがね」
そう言って上栄はふぅ、と息をつく。
「それにしても膳所本くんが危険になる可能性があるなんて……確証も無いのに手伝えなんて無茶を言うね」
「すいません……」
守世が何かを言う前に頭を下げる。
「いや、いいんだよ。たしかに最近、膳所本くんの数値が少し変化していたことには気がついていたんだ。数値変化が起きてからの最初の戦闘だからデータは欲しい」
「そうでしたか」
「君たちに無人装甲車を貸し出す。自動照準で画面操作で標的を狙撃できる機銃を一丁つけてある」
「ありがとうございます!」
「今日の夜、か。もうすぐだな」
そう呟く上栄に同調しつつ、彼とは違う不安を抱く。
もし流理が敵だったなら、守世は危険にさらされる。
上栄は流理が危険にさらされるとしか考えていないし、そうとしか僕たちも伝えていない。
当然彼も流理を守るための用意はすれど、流理を制圧する準備などしないだろう。
だが本当のことを伝えると、守世が未来を知っていること、タイムリープをすることができることが知られるだろう。
そうなれば、新たな火種になりかねない。
流理の件で手一杯の今、これ以上不確定要素を増やしたくはなかった。
「一応うちの支部でも数値のモニターはしておく。何かあれば十分以内に現場に着くことが出来るだろう」
「はい」
「だが、やはり近くにいる以上泰護くんに初動の対応はしてもらいたい」
「な……?」
「驚きなさんな。この間、君たちにプレゼントしたものがあるだろ?」
「腕時計ですか?」
「僕と守世のお揃いのやつ……」
ニヤリと笑う上栄。
「アレと同時進行で、君たち専用の端末も計画開発中だ。で、その途中で試験的に開発したものを一応渡しておこう」
そう言って上栄は淡い水色をしたリストバンドを差し出してきた。
「これは……?」
怪訝な顔で問いかける守世に上栄は微笑む。
「ミサンガだよ。どちらかが危険な目に合えば脳波に反応して相手にその危険が色の変化で伝えられる」
「この腕時計とはどう違うんですか?」
僕が左手をあげて腕の時計を見せながら問いかけると彼はニヤリとして答えた。
「時計は脳波を読み取って思考を送る。一方、ミサンガは脳波を読み取るところまでは同じだが色の変化で危険を知らせるだけ。時計の方はミサンガとは比較的にならないくらいに情報量が多いんだよ」
「ミサンガの方は通信は出来ないってことですか」
「そう。だけど、そのおかげでミサンガの方は距離制限がない。送る情報量がほぼゼロだからね。たとえ地球の裏側にいても互いの安否を確認できる」
そこまでいうと上栄は笑みを消し真面目な顔になった。
「今の私たちではこうしたものしか形にできない。君たちの必要な時に君たちの力を最大限に引き出すことのできる物を提供できないのは、本当に申し訳ないと思っている」
突然頭を下げた上栄に驚く。
「い、いえいえ! そんな! 顔をあげてください!」
「泰護さんのいうとおりです! 私たちは本当にいつも助けられています!」
二人で慌てて取りなすと上栄は顔を上げた。
「まあ、少しでもこういったものが君たちを守ることにつながってくれればいいんだが……」
そう言いながら、高い天井を見上げる。
その背中は思っていたよりも寂しげだった。
お読みいただきありがとうございます!
ギリギリ連日投稿できました。
これからも続きますが連日投稿はキツイかもです……
これからもよろしくお願いします!




