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神血のヴァルキュリヤ  作者: 和太鼓
16/20

十六話 彼女へ

「泰護さん!」

「お、守世!」


華霧川の夜市に行って以来、付き合ってからは初めての下校イベント。

例のごとく先に正門のところで待っている守世が胸の前で小さく手を振っている。


「今日も待たせて悪かったな」

「いえいえ! 私も着いたところです!」


並んで歩く帰り道。

この間までとはまた違った感情が僕の心を満たしていく。


「やっぱり……二人で帰るこの時間が私は一番好きです!」


心なしかいつもよりテンションの高い守世。

その赤く染まった横顔を見ているとこっちまでドキドキして顔を思わず背ける。


「そーいえば、守世は何の仕事してるんだ? マス?」

「いえ、シアターです。最初は私もサブヒロインとして出ら予定だったんですけど、事情があってヒロインをすることになっちゃいました」

「ま、まじか!? そんなことあるんだな…… 頑張れよ!」

「任せてください! もう撮影も全部終わって今頃編集してると思います」


話しているうちにいつものごとく錦家に着く。


「さあさあどうぞお上りください」

「お邪魔します」

「どうぞ〜」

「おかえりなさいませ。石山様、お荷物の方をお持ち致します」

「す、すみません、ありがとうございます」


すっかり顔なじみになったお手伝いさんが僕の荷物を次の部屋に持っていってくれた。

正直、一般人の僕はこういった客人扱いに未だ慣れることができない。


「泰護さん、行きましょ〜」

「あ、ああ」


相変わらず広い家の中を進み、一番奥の部屋に入る。


「全部閉めましょう! エアコンつけますね」

「ありがとう! しっかしまぁこれだけ暑いとたまらないな……」

「もうすっかり夏ですからねぇ〜」


襖にはめ込まれたガラス窓越しに美しい庭を眺めながら守世が呟く。

外は木々が青々とし、その下には小川がサラサラと流れている。

いつ見ても素晴らしい景色だ。


「失礼致します」


間も無くお手伝いさんが戸を静かに開けた。

傍に置かれたお盆にはお茶が乗っていた。


「ありがとう、静代さん」

「お嬢様、守世さま。後ほどデザートをお持ち致しますが、30分ほど後でよろしいですか?」


思わず守世の顔を見ると、彼女は眉ひとつ動かさない。


「それくらいでお願いしますね」

「承知しました」


下がろうとするお手伝いさん。

そこにふと思いついたように守世が声をかける。


「静代さん! 今晩の夕食は決まっていますか?」

「まだ作り始めてはいませんよ」

「それじゃあ、今晩はお好み焼きを食べたいです。一緒に食べましょう」

「良いですね。それでは用意致しますね」


にっこりと微笑むとお手伝いさんは戸を閉めた。


「泰護さんも一緒にどうですか?」

「え、良いのか?」

「もちろんです! 二人より三人の方が楽しいですから」

「そうか、じゃあご馳走になろうかな」

「どうぞどうぞ!」


ニコニコする守世。


「それにしても、あのお手伝いさん…… 静代さんだっけ? 凄まじいな」

「何がですか?」

「これまでは何も言わなくても完璧なタイミングで飲み物とかを出してくれていた。でも、今回は多分……」

「大事な話だと分かったんでしょうね。わざわざ時間を指定するということは」

「何も言っていないのに察するとは……」

「だから静代さんは静代さんなんですよ」


少し得意げな表情の守世。

思わず頬が緩むのを引き締め、お茶を口に含む。

夏の熱い体に冷たい麦茶が染み渡る。


「流理の件、どう思った?」

「多分、今のところは大丈夫だと思います。今夜、任務があるのでそのときにもう少し詳しく見てみるつもりですが」

「任務? もしかして流理って」

「あ、言ってませんでしたか? 先輩も私と同じです」

「まじか……」


長いこと一緒にいるが、そんなそぶりは一切見せなかった。


「守世とどこで知り合ったのか疑問だったけどそうだったのか」

「もう四年ほどになりますね。よく一緒に行動するので、お世話になってきました」


本当に……と静かに付け加えた守世の言葉には複雑な感情が滲み出ていた。

四年前というと瑠璃は中一、守世に至っては小学生。

僕が流理や寅次郎と話すようになった頃と同時期に守世もまた知り合っていたのか。

そして四年後には一緒に世界を滅ぼしたり対立することになった。

僕には想像しか出来ないが、実際に経験した守世は思う所が無数にあるだろう。


「なら、やっぱり何が何でも助けないとな」


僕の大事な友人であり、寅次郎の大切な彼女であり、そして守世の敬愛する先輩を。


深く頷いた守世が顔を上げる。


「とりあえず今日の任務で先輩の様子を確認しましょう」

「そうだな」

「あと、もう一つ。今日は自分の能力チェックをしたいと思っています」

「能力チェック?」

「はい。この世界は今までのどれともかけ離れています。だから把握できることは出来るうちにしてしまいたいんです」

「それで、どうするんだ?」


一瞬の逡巡を見せ、意を決したように守世は口を開いた。


「今夜の任務に、泰護さんも同行して下さい」

お読みいただきありがとうございます!

少し短めです……

(これくらいの方が読みやすいかなとか悩んだりしています)

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