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神血のヴァルキュリヤ  作者: 和太鼓
15/20

十五話 悪夢

燃える世界。

その中で、一人佇む少女。

その口が動き、私はそれに答える。

音は聞こえない。

ただ、望まぬ結末が待っている事は彼女の顔がはっきりと示している。

首を振り、何かを叫ぶ少女。

必死に何かを叫び、でもそれは私には届かない。

もうやめてほしい、そう願う私の想いと裏腹に、あの子の心は微塵も動じない。

私は私であるあの子を、理解出来ない。

私の理解の届かないあの子は、立ち向かってくる少女を斬り伏せた。





「う……ぅん……」


長い長い夢が終わり、目が覚める。


「まだ……三時……」


枕元に置いた時計を確認する。


「また、この時間……また、こんな夢……」


最近、酷い夢を見るようになった。

燃える世界、立ち昇る煙、暗い空。

ストーリーも舞台も、毎回のように違う。

変わらないのは一つだけ。


「また、世界が終わった……」


『モノ』が私たちとは違うシステムで社会を作っている世界。

その世界が私たちの世界を侵略する夢。


「どうしてこんな夢ばっかり……」


ある時は守世が、ある時は私が世界を滅ぼす。

いや、守世が世界を滅ぼす時も私はその手伝いをしている。


「いっつも私はそっち側……」


深層心理では破滅願望があるのか、はたまたこれは何かの予知なのか。

布団の中で震える身体を必死に抱き抱える。


「……大丈夫?」


部屋が微かに明るくなる。

身体が輝く小さな動物が枕元に立つ。


「シモ……」

「泣いていると思ったから」

「ううん、大丈夫。ちょっと怖い夢を見ただけ」


片手に収まる大きさのシモを抱きかかえる。

犬のような姿のシモを抱いていると心が落ち着く。


「私は……流理に創り出された。あなたのためならなんでもする」

「創ったって……」

「『迅雷』はあなたたちの精神に強く左右される。あなた自身も気づいていないあなたの強い深層心理が『迅雷』を今の自立した知能、存在としての私に変化させた」

「私が本当にそんなことを?」

「多分。無意識に」


首を振りながら答えるシモ。


「あなたは……何者なの?」


夢をみた後に、いつもする質問。

当然、シモがなんと答えるのかは知っている。


「あなたを、護るモノ」


知ってる。

でも護るって何から?

疑問の尽きない私の顔にシモが顔を寄せる。


「そんなことより、早く寝たほうがいいよ。明日も早い」

「うん……」


優しい声に心がほぐされる。

少しずつ瞼が重く、意識が吸い込まれていく。


そうして眠りに落ちる直前、不意に閃いた。

そうだ。

この子が、シモ・ラプラスが現れてからだ。

悪夢を見るようになったのは私の『迅雷』にシモが現れてからだ……


そう気づいた直後、私は再び無音の戦場に立っていた。


*****************


「おっはっよぉー!!」


いつもの道を学校に向かって歩いていると、いつものごとく後ろから元気な声が聞こえてきた。


「おはよう、流理。今日も朝から上機嫌だな」

「そりゃぁそうよ! 陪膳祭まで後三日だもん!」

「本当にそれだけですか? 流理母さん」

「いつ私があんたの母親になったのよ!」

「どうせ、今日もご主人と会えるからテンション高いんだろ。新婚間際でお熱いねぇ〜」

「うぅ〜〜…… 成敗っ!」

「いった! おまっ、蹴るな、蹴るなぁ!」

「お前ら今日も朝から何やってんねん……」


昨日と同様に二人で死闘を繰り広げていると呆れたような声が聞こえてきた。


「お、ご主人! おはよう!」

「「だぁれがご主人じゃい!」」


流理と寅次郎、二人による前と後ろの挟撃で僕は無事倒れ伏した。





「で、昨日はどないなったんや?」

「え?」

「寅次郎から泰護が告白するっていう話聞いたよ」


マスの練習を終えた昼下がり。

教室で弁当を広げていると二人に絡まれた。

朝の騒動以来の会話。

ごくりと唾を飲み込む。

失敗はできない。


「ば、バレてたか! あ、あはははは……」

「悪いな、泰護。告白するらしいって話だけこいつに漏らしちまった」

「いや、いいよ。別に隠すことでもないしな。ちょうど相談しようと思ってたところだったし」


左手で頭を軽く掻き、そのまま髪の毛をいじる。


「そうか、ほんでどうやったんや?」

「それがな、一旦断られた。時間が欲しいってさ」


多分、初めて寅次郎に嘘をついた。

罪悪感を少し抱えながら、それでも開き直る。


「でも、やっぱ諦められない。うまいこと付き合った先輩方に力添えをお願いしたいなと思いまして」

「流理、どうしたらええと思う?」

「わ、私!?」


寅次郎が流理に振ると、困ったように目線をあちこちに飛ばし始めた。

守世は流理のことを『ラスボス』と言った。

未来で彼女は『モノ』としてこの世界を壊す。

時に僕らと戦い、時に僕らと協力して。

でも、それが本当に彼女の意思なのか。

そう問いかける僕に対する守世の答えは分からないというものだった。

何者かに操られる可能性も排除できない。

だからこそ、早い段階でそれを見極めたい。

昨日の時点で守世からは何も言うなと言われているはず。

守世の言葉に従うなら現状はセーフ。

ただ従わないだけなら、グレー。

守世の言葉を無視した上で僕の心に穴を開け、『モノ』に有利な状況を作ろうとしたら……


「流理、どうしたらいいと思う?」

「えと……私は……分からない」

「「え?」」

「私には良いアイディアは浮かばないなぁ。トラは?」

「俺か? んん〜〜」


分からない、か。

これは……


(これは……セーフということか?)

(多分そういうことだと思います)


守世と思念波で連絡する。

昨日の夜、帰りに上栄に付き合ったことを報告した際、お祝いの品としてプレゼントされたペアルックの腕時計。

僕と守世専用に制作された特殊な神器らしく、その機能の一つがこの通信機能だった。

腕時計を頭に近づけると、脳波を識別し思念波で会話をすることができるというもの。

まだデザインも含めて試作段階だというが、流石は県が開発のバックアップをしているだけあって今のものでもかなりしっかりしたものに仕上がっている。


(結局ハッキリと敵になったわけじゃないってことだけはわかった)

(誰かに操られる可能性、そして先輩自身の思想が変わる可能性もありますからね)

(それか、この世界ではその未来自体が大きく変わっているとか?)

(トラさんと付き合った影響……可能性はありますね)

(まあ、どちらにしろ一度持ち帰って考えよう)

(はい。では、また帰りにいつものところで待ってますね)


通信を終わり、パンパンと手を叩く。

二人の注目が集まったところで頭を下げる。


「ありがとう。とりあえず、自分でなんとかしてみるよ!」

「そうか……すまんな、力になれへんくて」

「いや、こちらこそ悪かった。サンキューな」


何か言いたげで、でも何も言わない流理。

そんな彼女に何か声をかけたい。

でもなんといって良いのかがわからない。


「流理」

「どうしたの?」

「その……寅次郎と上手くやれよ」

「「余計なお世話じゃい!」


しまった。

失敗した。

何も思いつかないまま適当に放った言葉が、拳二発に増えて返ってきた。

少し短めです

お読み頂きありがとうございます!

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