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婚約破棄された実務令嬢ですが、私の価値を知らなかったのは元婚約者だけでした~四人に求婚されても、私は賞品ではありません~  作者: 他力本願寺


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20/24

第20話 どちらが嘘か、ではなく

魔族側の国境倉庫から急ぎ引き返し、私たちはレグナ王国の国境中継所へと足を踏み入れた。


 王都から到着した荷馬車が列をなし、さらに魔族領から引き渡されたばかりの『月白草』の木箱が、倉庫の前に山積みにされている。


 だが、荷役の作業は完全に止まっており、中継所の役人たちと人間の商人たちが、激しい剣幕で怒鳴り合っていた。


「見ろ、木箱の隙間から中身が見えているじゃないか! 魔族の奴ら、輸送の途中で不当に中身を抜き取って、不完全な状態で引き渡してきたんだ!」


「これでは王都に運んでも我々の責任にされる! あいつらは、この緊急事態に乗じて恩を着せるためにわざと――」


 彼らは自分たちの都合のいいように想像を膨らませ、すべての責任を「魔族の悪意」に押し付けようと騒ぎ立てていた。


「……ククッ。また二年前と同じ喜劇か」


 私の背後から、魔王ザフィルが冷たく吐き捨てるように呟いた。


 彼の声はひどく低く、人間という種族そのものに対する深い失望が滲んでいた。


 二年前も、同じ中継所で薬草が消えた。


 人間は魔族の値吊り上げを疑い、魔族は人間の横流しを疑った。十年かけて結んだ停戦まで揺らぐ中、若手記録補佐官だった私はここへ派遣された。


『私は、悪人を探しに来たわけではありません。ただ、荷物がどこで減ったのかを確認するだけです』


 出荷記録、重量、石板封印。荷が減ったのは、人間側へ渡った後だけだった。


 私は人間の中継商が抜き取ったと報告した。魔族への嫌疑は晴れ、交易は辛うじて残った。


「……リディア調整官。まず、箱を見せた方が早そうです」


 エステルが、騒ぐ商人たちと石板を見比べて言った。


「ええ。責任の話は、記録を確かめてからです」


 私は大きく息を吸い込み、二年前と全く同じように、怒鳴り合っている商人たちを無視して、積み上げられた『月白草』の木箱の前に立った。


「皆さま、静かに」


 私の静かな、けれどよく通る声に、商人たちが一斉に口を閉ざす。


 私は、木箱の正面に取り付けられた、古代ルーン文字の刻まれた重厚な石板を指し示した。


「先ほど、魔族側が中身を抜き取ったと主張されていましたね。ですが、この木箱に施された魔族の石板封印を見てください」


 私の指先が、一切の損傷なく青白い魔力を保っているルーンをなぞる。


「現在の封印も、国境を越えてこの中継所に届くまでは、完全に無傷でした。もし魔族側が輸送中に箱を開けて抜き取っていたのなら、この石板のルーンは呪いによって赤く変色しているはずです」


 二年前、この人間側の中継所でだけ切れていた封印。


 それが今回は、無傷のまま残っている。


「そして、中継所の計量記録も確認しましたが、魔族側から引き渡された時点の重量と、現在の重量に誤差はありません。つまり、魔族の悪意による抜き取りも、人間側による横流しも、今回は発生していないということです」


 商人たちは石板の青い文字を見つめ、返す言葉を失った。


 彼らの責任転嫁を完全に封じ込めた上で、私は中継所の管理責任者である役人に鋭い視線を向けた。


「では、教えてください。抜き取りも横流しもない。薬草は確かにここまで無事に届いている。……ならば、なぜこの薬草たちは、ここから王都へ向けて一箱も出荷されずに滞留しているのですか?」


 私の問いに、管理役人はビクリと肩を震わせ、ひどく狼狽したように目を泳がせた。


「そ、それは……っ! 我々が不当に止めているのではありません!」


「では、誰が止めていると?」


「王都からです! 王都の内務局から下りてきた『新たな検疫基準』を満たさなければ、一箱たりとも街へ通してはならないと、厳命が下っているのです!」


「新たな検疫基準……?」


 私は眉をひそめた。


 薬草を止めていたのは、悪意でも横流しでもない。王都が新しく作った規則だった。

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